ベースボール白書

野球観戦、野球考察。活字ベースボールを届けます。『WBC 球春のマイアミ』をリリースしました。

長嶋茂雄という物語の続き—「長嶋茂雄賞」設立案

2025年6月3日。その報せは静かな朝を、野球界の芯を揺らした。 ミスタープロ野球・長嶋茂雄さんの死去。享年89(やきゅう)という数字が、長嶋さんが生粋の野球人であった宿命を物語る。 ここで長嶋茂雄さんの功績を伝えるのは難しい。現役時代を知らない自…

WBCとは?歴史、歴代優勝国、参加資格

Amazon Kindle『WBC 球春のマイアミ』より一部を抜粋。WBCとは何か?を今一度、振り返る。 WBCの創生 WBCのロゴと優勝トロフィー WBCの参加資格 WBCのルール 2026年(第6回大会)からの新ルール WBC歴代優勝国 第1回2006年 第2回2009年 第3回大会2013年 第4…

侍ジャパンシリーズ2025〜終わりの向こうに、始まりがある、晩秋の侍たち

グラウンドの芝は、すでに夏の緑を失っている。風は冷たく、ベンチの奥にはシーズンの疲れを残した選手たちの姿がある。それでも侍たちは、再びユニフォームを着る。 胸には「JAPAN」の文字。 シーズンが終わり、少しだけ静けさを取り戻した球場に、新しい声…

第50回社会人野球日本選手権の秋〜月の旗をめざして

10月の大阪には、少し特別な熱がある。それは夏の灼熱とは違う、静かに燃える熱だ。プロの喧騒も、高校野球の歓声も届かない場所で、ひっそりと幕を開けるもうひとつの全国大会。社会人野球日本選手権。その第50回大会が、2025年10月28日、京セラドーム大阪…

秋季近畿地区高校野球大会〜まほろばの熱球、新しい物語の始まりに

10月の風が、球場の芝をかすかに揺らす。夏の喧騒が遠ざかり、グラウンドには新しい声が響く。秋季近畿地区高校野球大会は、そんな季節の変わり目に静かに幕を開ける。 2025年10月18日。大和三山・畝傍山が見守る、まほろばの古都・橿原。さとやくスタジアム…

野球のライト(右翼手)の詩学〜空を貫く光を放つ者たち

外野の中で、ライトは“投げて止める”役回りだ。広さに名を馳せるセンターに目が行きがちだが、三塁への最長送球と、本塁を守る最後の矢を握るのは右翼手。強肩のライトは、ときに投手から“内野手”に見える。二・三塁に走者を置いても、前進捕球からのバック…

侍ジャパン・WBC強化試合〜片膝の記憶から未来へ、勝敗なき勝負が、世界一を呼ぶ

2026年3月5日から始まる(侍ジャパンは6日)WBCの強化試合の日程と対戦カードが決まった。 侍ジャパンの強化試合の日程 日付 時間 球場 対戦カード 3月2日 12:00 京セラドーム 韓国 vs 阪神 3月2日 19:00 京セラドーム 日本(侍ジャパン) vs オリックス 3月…

高校野球秋季大会〜古都に吹く秋風、紅葉の都に響くスパイクの音

夏の甲子園が幕を閉じ、蝉の声が遠のき、鴨川に涼風が流れはじめる頃、京都の球児たちはもう次の舞台を見据えている。それが秋季京都府高等学校野球大会だ。 夏の大会を戦い終えた三年生が引退し、新たに二年生を中心とした新チームとして挑む最初の公式戦。…

『フィールド・オブ・ドリームス』〜夕暮れのグラウンドの赦し、ヘッドライトの川を越えて

『フィールド・オブ・ドリームス』(1989)は、フィル・アルデン・ロビンソン監督・脚本によるファンタジー・ドラマ。原作はW.P.キンセラ『シューレス・ジョー』 舞台はアイオワのトウモロコシ畑。主人公レイ・キンセラ(ケビン・コスナー)が“声”に導かれ、…

WBCとNetflix〜地上波から離れていく野球中継、その先にあるもの

東京ドームで観た2023年WBCの開幕戦 来年3月、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)がやってくる。侍ジャパンが再び世界を相手に戦う舞台だ。だがその光景をテレビのチャンネルを回して探すことはできない。地上波は沈黙し、代わりに浮かび上がるのはN…

『栄冠は君に輝く』夏空に響く甲子園、高校球児の汗を束ねた旋律

夏の甲子園には、始まりを告げる音楽がある。アルプスに並ぶブラスバンドのラッパが鳴るよりも早く、開会式のスピーカーから流れてくる旋律。『栄冠は君に輝く』である。 その旋律は、行進曲のように明るくもなく、軍歌のように威圧的でもない。どこか静かな…

甲子園、深紅の大優勝旗〜燃え尽きた夏を照らす永遠の到達点

夏の甲子園を制したチームに授けられるのが、正式名称「大深紅旗」、通称「深紅の大優勝旗」である。春のセンバツに用いられる「紫紺旗」と並び、高校野球を象徴する存在だ。紫紺が芽吹きの季節にふさわしい静けさを帯びる色とすれば、深紅は真夏の太陽に映…

甲子園の土〜夏を刻む舞台、踏みしめられた記憶

無数のスパイクに踏みしめられる甲子園の土は、汗や涙、歓喜、悔しさ、すべてを受け止める。甲子園の土は「生きもの」とも言われる。乾いて硬くなれば打球は速くなり、少し動くだけで土埃が舞う。そこでグラウンドには散水を行い、弾力のある状態を保つ。厚…

甲子園の芝生ー歓声の下で揺れる芝、球児を受け止める緑

甲子園球場が開場した1924年、そのグラウンドは一面の土だった。白線が引かれ、黒土が広がるだけの舞台。二年後には、外野にクローバーなどの草が自生し、芝の代役を果たすようになる。 やがて1928年から翌29年にかけて、外野に本格的な芝が張られ、甲子園は…

甲子園かちわり氷〜炎天下の救い、掌に溶けた夏、スタジアムの命水

甲子園には、ひとつの名物がある。それが「かちわり氷」だ。 かちわりは、大きな純氷を小さく割ったもの。袋に入った氷を口に含み、溶けた氷水を飲む。あるいは額に乗せて涼をとる。真夏の直射日光が照りつけるスタンドで、これがなければ観戦そのものが危う…

甲子園アルプススタンドの記憶〜声で戦う者たち、背番号なきユニホーム

高校球児は甲子園のグラウンドを目指す。その夏のすべてを懸けて、マウンドへ、打席へと歩みを進める。 同じ時間、同じ夢を背負って目指す場所がもうひとつある。それがアルプススタンドだ。選手の家族も、仲間も、応援団も、校歌を知る者も、があの場所に集…

甲子園のヒマラヤスタンド〜アルプスの対岸、グラウンドを見下ろす小さな山脈

野球の外野席というのは、値段が安い。誰にでも開かれている。 甲子園もそうだ。アルプス席のように学校ごとに色づけされることもない。そこにあるのは、ただ野球が見たいという欲望だけだ。 夏の全国大会、第22回大会の昭和21年(1936年)には外野スタンド…

甲子園の浜風〜スコアに残らない主役、球を戻し、夏に揺れる

勝敗を分けるのは、バッテリーの配球でも、監督の采配でもなく、甲子園に住みついた風そのものだったりする。 甲子園の歴史を振り返れば、浜風が試合を支配した場面は数えきれない。けれども記録には残らない。スコアブックに風向きを書く欄はなく、公式記録…

甲子園のスコアーボード〜沈黙の証人、九つのマスに閉じ込められた物語

真夏の陽射しを浴びながら、数字だけを静かに刻み続ける甲子園のスコアボード。そこには、延長戦での死闘も、一瞬の逆転劇も、歓喜と涙の入り混じる物語も、すべてが簡潔な数字として収まっていく。その数字の背後には、幾度となく姿を変えながら時代を歩ん…

甲子園球場のサイレン〜夏を閉じ込めた16秒、銀傘の下、あの夏を呼び戻す

写真はイメージ図 春と夏の甲子園で鳴り響くサイレンは、内野席を覆う銀傘の下に設置されており、試合開始前や終了後に鳴る甲子園の風物詩だ。正式には、試合前のシートノック、プレイボール、ゲームセット、そして8月15日正午の計4回、放送室にいるウグイス…

甲子園球場「銀傘」:聖地を見守る銀色の大屋根

甲子園球場が開場したのは1924年(大正13年)8月1日。そのときから、一塁側から三塁側までを大きく覆う半円形の屋根がスタンドの上に架けられていた。 金属の骨組みにトタン板を張ったその構造が、陽光を受けて銀色に輝くことから、やがて人々はそれを「銀傘…

甲子園のツタ、緑の衣をまとう聖地、外壁を覆う青春の色

高校野球の聖地・甲子園球場。そのシンボルが、外壁を覆う蔦(ツタ)だ。使われているのは、ブドウ科のナツヅタで、季節ごとに違った表情を見せる。常緑樹のため、冬でも緑の葉を蔓(つる)に残す。日陰になりやすい場所では、日陰に強いキヅタという別種も…

野球のレフト(左翼手)の真価 〜 静かなる外野の守護者

外野の中で、レフトは一見地味に見えるかもしれない。ライトやセンターのような遠投や広い守備範囲が注目される場面は少ない。しかし、試合の流れを変える一瞬は、レフトにも訪れる。2009年WBC決勝戦の内川聖一、2023年WBC準決勝の吉田正尚の守備はチームを…

野球のエース、背番号1の奥にあるもの〜左腕の投影、永遠がそこにいた

陽炎のように揺れる内野の向こうで、ひとりの投手が立っている。 帽子の庇を深く下ろし、マウンドを蹴る足に力を込める。8月の風が、背中に貼りついたユニフォームの「1」をなぞっていく。 その投手を、我々は「エース」と呼ぶ。 数字で言えば「1」という背…

夏の甲子園:開会式、開幕試合、八月のカクテル光線

開幕試合 八月のカクテル光線 全国高校野球選手権大会の開会式。代表49校が、ひとつの球場に、ひとつのルールに従って歩みを進める。全員が胸を張り、決められたテンポで、誰かに見られていることを意識しながら、誰かに見られていることなど関係ないかのよ…

甲子園への道:京都大会、西京極の陽炎に、夏の夢は揺れている

京都の夏は、湿気がやわらかく体にまとわりつく。街を歩けば、石畳からじんわりと熱が立ちのぼり、蝉の声が時間にしみ込んでくる。そんな蒸し返すような午後に、太陽の下に集う高校生たちがいる。汗にまみれながら、静かに、何かを信じている。 「甲子園へ行…

全国高校野球選手権大会、夏の甲子園〜球児たちの365日、夏のすべて

「夏の甲子園」は正式名称を「全国高等学校野球選手権大会」といい、毎年8月に阪神甲子園球場で開催される。高校野球最大の全国大会である。 春の「選抜高等学校野球大会(センバツ)」と並ぶ二大大会のひとつで、全国の頂点を決める“真夏の決戦”。49代表校…

日米大学野球選手権2025年〜侍たちの五夜、神宮の一夜、夏の向こうに、侍ジャパンがいる

「日米野球」と聞いて、少し胸がざわつくのは、昭和生まれ、平成前期の記憶を持つ野球ファンだ。 まだインターネットもなかった時代、テレビ画面の向こうに映るアメリカは別の惑星のようで、やって来るメジャーリーガーは、神話の登場人物だった。 プロ野球…

第74回全日本大学野球選手権2025〜神宮に咲いた傘の花、青空よりも眩しかった声

雨の季節の球音は物語の香りがする。 甲子園で球春の訪れを告げるセンバツ、夏の終わりを告げる選手権。あるいは、晩秋の神宮に燃え残る明治神宮大会。 全国大会のなかでも違う趣を持つのが、6月に神宮球場で行われる全日本大学野球選手権だ。 初夏。晴れ渡…

100年目の六大学野球〜六つの色が描いた神宮を渡る百年の風

2025年は昭和100年にあたる。その年に東京六大学野球が100周年を迎えた。 全国制覇をかけた戦いでもない。東京という一都市に根を下ろした六つの大学だけで、一世紀もの時間を積み重ねてきた。そのことの重みを、全国の野球ファンも、もう少し、静かに驚いて…