
ホテルに外に出ると秋風が吹き、半袖が少し肌寒い。今日でオープニングラウンドを終える台北も秋に向かう。消化試合とはいえ、3日後から最後の激闘が始まる。ラストスパートで山を登り切るには「勢い」が大切となり、ブレーキを踏むとスーパーラウンドへの流れが悪くなる。連戦で疲労している選手は休ませつつ、最高の状態でリスタートを切らなければいけない。

そして日本の野球は他国も注目する。雑な試合はプレミア12の印象も下がる。侍たちは日本代表のプライドを抱えて雨のグラウンドに飛び出していく。

井端監督が12歳以下の侍ジャパンの監督を務めたときドミニカと対戦し、 打球速度や角度など小学生の頃からデータを重視した野球をやっていることに驚いた。今の野球はサイエンスの力なしでは成立しにくい。 しかし、侍ジャパンはデータにがんじがらめになるのではなく、流した汗や仲間の想い、感覚や感性も同じくらい大事にしている。

ドミニカはウインターリーグの最中。台湾まで遠征せず母国で野球ができ、MLBスカウトにアピールする絶好のチャンス。吉見コーチが2年目のウインターシーズンにドミニカ共和国に行ったとき、プレーを楽しみながらも「絶対に野球で生きていくんだ」という強い気持ちが伝わってきたという。プレミア12には積極的に参加せず、戦力は厳しい。国によって野球の事情は様々。これも国際大会の面白さでもある。

デッドボールを受けた辰己涼介が明るく資材を受ける。怪我は大丈夫そうだ。

キューバと同じくNPB関連の選手が多いドミニカ代表。日本ハムに所属したアリスメンディ・アルカンタラは韓国戦で2本のホームラン。4試合で打率.417(12打数5安打)と好調。アレン・ハンソンも2本のタイムリーを打ち、3試合で打率.429(7打数3安打)を記録した。

侍ジャパンはオープニングラウンドで「ホームランなしでも勝てる野球」を展開。それが予選で敗退したチームとの差。投手や守備に加え、盗塁やバントなどの小技ではなく野手陣が「打線」になっている。世界王者にふさわしい野球を見せてくれている。

1番に村林一輝を起用。6打数でヒットは出なかったが、犠打や守備で貴重な戦力。清宮の内野安打から坂倉将吾への押し出しで先制する。

先発は戸郷翔征。おそらく中5日で決勝戦に先発する。この日は試合前にエゲつない遠投を見せていたが、あいにくのコンディションで最高球速は147キロ止まり。

昨日はフェイスタオルを頭にかぶるだけでよかったが、今日は合羽がないと厳しい。街の移動中なら大したことない雨量だが、座席に固定して耐える雨は銃の散弾にように感じる。おまけに手がかじかむ寒さ。ドミニカの一塁コーチや三塁コーチの亀井義行は分厚いジャンパーを着込んでいる。気温の低さに加えて風も吹き、マウンドは足場が悪く下半身をしっかり使えない。腕を振り切れず球にキレがなく球速も普段より遅い。ただし、決まれば球威は凄く、坂倉将吾のミット音も今までの投手でいちばん大きい。決勝戦では最高のピッチングを見せてほしい。

第2先発に井上温大が登場。悪天をもろともせず、自分のピッチングを展開。味方のエラーで1点を失ったが、堂々たるピッチング。

マウンドさばきは未来の今永昇太を予感させた。

7回は隅田知一郎。マネーピッチのチェンジアップは顕在。2つの三振を奪う。

隅田知一郎からキャッチャーが古賀優斗に交代。昨日、スーパーラウンド進出を決めたことで多くの選手を起用できる。

8回は横山陸人。相手のバットを真っ二つに折る球威。雨が降りしきる中、侍ジャパン投手陣で最速の152キロ。胸張って東京へ。

最後は北山亘基がゲッツー締め。しっかりクローズ・ザ・ドア。井上温大、隅田知一郎、横山陸人、北山亘基。これまで失点した4人をマウンドに送りオープニングラウンドの最後を飾る。井端監督や吉見コーチは現実主義者に見えてロマンチスト。夢を見る人間に野球の神様は微笑む。

光ったのが捕手の3人。侍ジャパンが誇る三本の矢。古賀悠斗は大会初出場。これまでブルペンの中継ぎ投手に相手打者の特徴を伝えるなど縁の下の力持ちでサポートした。その古賀が代表初打席で追加点のタイムリーを放ち4人の投手をリード。坂倉将吾は出場4試合連続安打で打率.455と好調。佐藤都志也は同点タイムリーを含む3安打猛打賞2打点。広島との練習試合からプレミア12で的確な適時打。

ただ一人、5戦ともスタメン出場を続けた森下翔太。若虎のバットから咆哮がとまらない。この日も3打数3安打の猛打賞。

最終回の2アウトで回ってきてタイムリーを放つ。宮崎キャンプから侍ジャパンにかける想いを間近で見てきた者として、紅林弘太郎の劇的なドラマは格別だった。打率.313と好調を維持。

打率.182と苦しむ清宮幸太郎。グラウンドに出てきたとき球場の雰囲気を変えられる。スーパーラウンドで最も活躍が見たいひとり。

雨が降りしきるなか声援を送り続けた応援団。東京ドームでは3カ国をビビらせてほしい。

この日はベンチの最前列で見ていた井端監督。いよいよ胸突き八丁に突入する。

甲子園の出場を決めた高校球児のようだ。韓国、台湾の大声援のアウェーの中での2試合、雨天の天母でのキューバ、ドミニカと中南米との2試合。台北ラウンドを経て侍ジャパンはさらに逞しくなった。

月は雨雲に書かれていた。しかし、真っ赤に燃えて輝く満月がそこにはあった。侍ジャパンは全員野球、全速全進で東京ドームに向かう。
プレミア12を追いかけた電子書籍を発売しました

Amazon Kindle :『燃月』