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ベースボール白書

野球観戦、野球考察。活字ベースボールを届けます。『WBC 球春のマイアミ』をリリースしました。

WBC2023総括〜球春の彼方に

Amazon Kindle『WBC 球春のマイアミ』より一部を抜粋。我々を空前絶後の熱狂に巻き込んだ第5回WBCとはなんだったのか。総括する。

コロナを超えたスポーツ

侍ジャパン7戦全勝で幕を閉じたWBC。開幕前に書いたように、このタイミングで開催されたことが成功につながり、最強の侍ジャパンを生み出した。完全にコロナウイルスに屈した東京オリンピックとは真反対に、コロナによって延長したことが奏功。はじめてコロナを超えたイベントとなった。

大会の観客動員数は130万6414人。2006年に始まったWBC史上最多を記録。これまで最多だった2017年大会の108万6720人から20%増加した。

当たり前のこと、求められた結果を当たり前に出す。国際試合ではジャイアント・キリングが評価されがちだが、プロとして本当にすごいのは当たり前のように結果を残すこと。優勝候補筆頭のドミニカが敗れる中、どの国よりも戦略を練り、入念な準備を徹底してきた。補佐として加入する可能性の少ない山﨑颯一郎までがWBC球でオープン戦を行ったのは侍ジャパンの象徴である。

全進野球の戦い

追加招集の山﨑を入れると侍戦士の数は31。和歌の文字数と同じ。鈴木誠也も加えれば32人。侍ジャパンは1次ラウンド・準々決勝の東京ラウンドにおいて5試合すべて5点差以上で突き放し、準決勝・決勝の敵地マイアミでは両試合とも1点差のクロスゲームをものにした。ホームでは大勝、アウェーでは接戦と、本物の強さを世界に見せつけ、7試合すべてに物語と伝説を宿した。

決勝戦を振り返れば先発投手陣の差が勝負を分けた。アメリカ側から見れば8回で3点取られたが、いずれも失点は先発投手。日本も七人の侍で2点に抑えたが、そのうち6人が先発投手の継投。今永 昇太、戸郷 翔征、髙橋宏斗、伊藤 大海、大勢、ダルビッシュ有、大谷 翔平。

この中で本来リリーバーは大勢だけであり、スターターの力の差で勝利をもぎ取った。この使い方は「オープナー」「ブルペンデー」「ショートスターター」。日本でいち早く取り入れたのが2019年に日ハムの監督だった栗山英樹。通常7人もピッチャーを投入すれば、相手を錯乱できる反面、全員が調子が良いことは無いので、どこかで打たれるリスクがある。今後、同じ系統を真似する監督がいても失敗する可能性も高い。オープナーへの批判が多かったにも関わらず、積極的に取り入れた栗山監督だからこそ、4年越しに慧眼が実り、使い方を熟知していたことが奏功した。

侍ジャパンは代名詞の「スモールベースボール」から「全進野球」へ進化し新たな歴史を刻んだ。最初は鈴木誠也のロスを近藤健介が埋めるところからはじまり、村上の不調を吉田正尚が、栗林良吏の離脱を大勢をはじめとするリリーバー陣が、最後はメジャー組の不振を岡本など下位打線が、誰かが誰かの穴を必ず埋めた。7試合中4試合が逆転勝ち。

大谷はもちろん身体能力で劣る日本人たちが飛距離や球速で外国人をごぼう抜き。村上宗隆のホームランの打球速度や佐々木朗希のストレートの球速は今大会を通じて最速だった。本塁打数9は全チーム2位、チーム打率.299は6位、しかし打点55は1位。チーム防御率2.29、奪三振80、被打率.194も1位と投手陣は無双した。

打撃や投手がフィーチャーされるが、すごいのは守備。WBC開幕戦を東京ドームで観て驚いたのは、守備練習で金を取れること。侍ジャパンの失策は7試合で2。ふたつとも慣れない公式球による送球エラー。芝の質が異なる初めてのマイアミでも捕球エラーはゼロ。世界一の原動力は鉄壁の守備にある。

敗軍の主将・トラウトは試合後にコメントした。
「大谷は最後にいい球を投げてきた。本当に闘争心がすごい。ラウンド1は彼の勝ちってことだね。すべての野球ファンが見るのを望んでいた対戦。この1カ月半で何度も質問をされてきた。他の終わり方があったと思うかい?これまでに経験したことのない、最も楽しい10日間だった。USAコールを受け、胸にUSAを付けてプレーできるのは特別。大会を通して素晴らしいチャレンジだった。代表チームに参加した誰もが味わったことのない、鳥肌が立つような経験をした。次も出るってすでに伝えたよ」

ベストナイン

侍ジャパンの戦士たちの中で大会ベストナインに選出されたのは大谷翔平と吉田正尚。

MVP:大谷翔平


3試合に登板して2勝1セーブ、防御率1.86。奪三振11はキューバのロメロの13、山本由伸の12に次いで3位。投球が9回2/3イニングは全体トップ。

打撃は23 打数 10 安打、1本塁打、8打点、打率.435、1盗塁、OPS1.345(出塁率.606+長打率.739)、出塁率は驚異の.606。7試合に出場して全試合で安打を記録。安打数10は、アレナド、ベッツ、メネセスと並んでトップ。四球10も全体トップ。

投手とDHでベストナインに選ばれる二刀流の大車輪。大谷翔平のWBCは強化試合のバッティング練習で開幕、そして大谷の投球で閉幕。完璧な二刀流で魅了した。大谷の大谷による大谷のためのWBC。史上最大のSHO-TIME。おそらく今後は二度と破られないパフォーマンスと記録を樹立した。

吉田正尚

侍メンバーの中でも身長は低い。172センチ、79キロ。体格に恵まれているわけではない。それでも7試合で打率.409(22打数9安打)、2本塁打、13打点、OPS1.259(出塁率.531+長打率.727)。1大会の最多打点記録13を樹立。吉田がいなければ日本はメキシコ戦で敗退し、決勝の舞台にすら立てていなかった。今大会のいちばんの場面は吉田正尚の同点スリーランである。得点圏打率は驚異の.364。「ストライクゾーンの見極め方、得点圏での打ち方、フォアボールの取り方、2ストライクに追い込まれてからのボールに対する粘り方」をメジャーリーガーたちも絶賛。侍ジャパン史上最強のクラッチヒッター。最後に合流したラストサムライが日本を救った。メジャー1年目のルーキーがWBCに出たことも歴史を作った。後進たちも続け。

近藤健介

ベストナインには選ばれなかったが、大谷翔平に次いで最も替えがきかない選手である鈴木誠也のロスを埋める。侍ジャパンの66安打70四死球と、ヒットを四球が上回るbase on ballsに貢献。7試合で打率.346(26打数9安打)、出塁率も驚異の.500。全試合で出塁した。1本塁打、5打点、OPS1.115(出塁率.500+長打率.615)。ヌートバーと大谷という超馬力の中継地点に立ち、クリーンアップにつなぐリンクマンとして難しい2番を務めた。もし鈴木がいれば大谷が2番を打つメジャー式の打順だった。しかし、近藤がいたからこそ大谷の前にランナーを貯める日本の野球ができた。鈴木の代替えどころかプラスアルファの作用をもたらした近藤はMVPにすら値する。

ヌートバー

かつてイチローが立った侍ジャパンのリードオフマンを継承し、見事その期待に応えた。7試合で打率.269(26打数7安打)、4打点、2盗塁、OPS.693(出塁率.424+長打率.269)・アメリカに来てから安打が出ず、最終的には打率3割以下だが、持ち前の選球眼の良さを活かして7四死球を選び、出塁率は.424。守備でも重要なセンターを守った。2回のダイビングキャッチは侍ジャパンの推進力であり、守備で日本を救った功績はあまりに大きい。9歳から日本代表になりたいと願っていたヌートバー。大谷からSEIKOの腕時計をプレゼントしてもらい、3年後も侍ジャパン入りを公言している。たっちゃんの凱旋を日本列島は心待ちにしている。

 

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