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ベースボール白書

野球観戦、野球考察。活字ベースボールを届けます。『WBC 球春のマイアミ』をリリースしました。

Open Your Eyes〜巨人オープン戦

プロ野球のオープン戦に来るのは22年ぶりだ。大学入学の直前、甲子園で観た巨人・阪神戦。高校の同級生で入試に受かった3人、不合格で浪人した2人。カオスな面子だった。桑田真澄と星野伸之の投げ合いで、今岡誠(タイガース)のレフト前ヒットを見て「これはすごい選手になる」と言ったら翌年、首位打者に輝いた。

プロ野球の「オープン戦」のなにがオープンなのか?別称で「プレシーズンゲーム」「春季非公式試合」とも呼ばれる。ペナントレースが始まる前の春のゲームを指し、秋の試合は「オープン戦」と呼ばない。

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「オープン」の意味はスポーツによって異なり、プロ・アマ関係なく開かれる試合を「オープン」とする競技もある。ボクシングでは「タイトルマッチやトーナメント以外の試合」を指す。プロ野球はセ・リーグとパ・リーグの垣根なく試合することが「オープン」なのだろう。パ・リーグと試合するときは巨人がDHなし、パがDHありの場合があり、非常にカオスな空間になる。

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2024年3月19日(火)、巨人vs.ロッテ。デーゲームではなく18時開始のナイター。平日だから当然といえば当然だが、調整試合にお金をとって興行するのはプロ野球の凄さ。一昔前は伝統の一戦を除いてオープン戦=ガラガラだったが、この日の入場者数は3万4727人。先日の侍ジャパンの強化試合より入っている。

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三塁側1階席1500円と新宿から水道橋までの往復の電車賃356円を合わせても1856円。野球に興味のない人はともかく、とにかく安い。「時間ができたので観てみるか」という気分だったのでチケットを取ったのは2日前。もっと早めに取れば良い席を確保できた。

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球場メシは『ボムドッグ+ポテト』1250円。チケット代と変わらない。野球は止まっている時間のほうが多いので、飲み食いしながらの観戦に向いている。プロ野球が、いかに「お酒のおつまみ」であり、サラリーマンに受け入れられるかが分かる。

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2024年も健在『GIANTSソーダ』550円。日本の球場のドリンクでいちばん美味い。野球は他チームに押されているが、飲み物は日本一の盟主を保っている。ドームに来るたびに買う。今年もお世話になります。

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オープン戦でも華やかな演出。ジャビットは背番号333と555の2体いる。つば九郎、スターマン、ドアラに比べてインパクトは薄いが、プライベートでお騒がせする選手や首脳陣が多いなかで「巨人軍は紳士たれ」を貫くマスコット。

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オープン戦はレギュラーが決まっている選手の調整と、レギュラーを奪取する選手のガチンコがグラデーションになったゲーム。どちらもペナントに向けて真剣である。チームにとっては様々な仮説を検証する種まき。

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あわよくば佐々木朗希を見られるか期待したが、人生も野球も甘くない。投球を観るのはオールスターか、プレミア12か。

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東京ドームは不思議な場所だ。アウェーのファンのほうが声援に力がある。東京というお上りさんの街がそうさせる。巨人ファンが相手チームの迫力にビビっていた。

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朗報は、1番に門脇誠が立つこと。昨年末に奈良で会って以来だが、背番号5、新しいグラデーションのグラブが勇ましい。1番打者はチームの顔。ようやく巨人待望のリードオフマンが現れた。

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先発の山﨑伊織も無双。東海大時代から巨人の時期エースに期待していた。去年の中日戦も打たれる気しなかったが、さらに磨きがかかっている。ヒット性のあたりは1本ほど。たまに90キロ台の超スローカーブも投げるが、普段そこまで緩急はない。最高球速も149キロ。なのに打てない。ここぞの場面で狙ったコースに投げる「コマンド」がいいからだ。プレミア12も全然ある。井端監督、センバツ見てる場合ではないぞよ。

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プロ野球は会社と似ている。新入社員のルーキーもいれば、崖っぷちに立つベテランもいる。新しい才能が入社すると血は入れ替えられ、新陳代謝が進む。バッターは3割打てば一流。仕事の8割近くがミス。野球は《失敗》を観に行く球技。だからこそ耐えることが仕事であるサラリーマンや経営者の胸を打つ。どんなスポーツよりも。その象徴が小林誠司。

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小林が代打に送られたとき三塁側のロッテファンの嘲笑があり、バットが白球をとらえる乾いた音が響き、同点タイムリーの瞬間に沈黙が包み、巨人ファンの割れんばかり歓声がこだます。野球は音のスポーツ。耳をすませば、ひとつひとつの音にドラマが詰まっている。現場にしかない答えがある。現場にしか答えはない。

Rookies

プロ野球における新卒採用がドラフトであり、マンネリ化を防ぐ新陳代謝。坂本勇人がいないと別のチームになってしまうジャイアンツにおいて、フレッシュな顔ぶれは重要だ。巨人は浅野翔吾という球史に刻まれる逸材が入った翌年。どうしても期待が下がってしまうが、とんでもない逸材が入った。

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ドラフト3位の佐々木俊輔。帝京高校から東洋大学、日立製作所を経て日本一の野球企業である巨人へ。高校、大学、社会人の三段活用を経た選手では、仁志敏久が思い浮かぶ。身長も170センチ前半という共通点や、関東出身(仁志は茨城、佐々木は東京の日野市)の匂いも似ている。

ドラフト3位は上位指名の栄誉だが、ここ10年で実績を残しているのは大城卓三くらい(ヤクルトで活躍した田口麗斗を除く)。名選手となると1995年の清水隆行まで遡る。

佐々木俊輔はオープン戦で打率5割に迫る活躍。去年の門脇誠は開幕前から「次のWBCに選ばれる」と感じたが、まさか2年連続で現れるとは。試合前の練習で誰よりも躍動感と大物感があった。蓋を開けるのが愉しみになった。

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試合前の予感は本物。わずか2打席で怪物ルーキーであることを証明した。1打席目はタイミングを外す球をうまく流し打ち。2打席目はプロの球に力負けすることなくセンター返し。これほどの打撃センスは去年の小園海斗から感じて以来。仮にペナントが開幕してスランプに陥っても使い続ける器。怪物が怪物であるために。2年後のWBCもありえる逸材。

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8回に登板したのがドラフト1位・西舘勇陽。大阪桐蔭の前田悠伍を指名して欲しかったが、即戦力や阿部監督の後輩採用で日本ハムとの競合のすえ獲得。浅野翔吾に続いて2年連続でドラフト勝ち。呪われたドラフトから解き放たれた時点で巨人の逆襲が見える。マウンドに歩いて来たとき「高校生みたいなヒョロい覇気のないピッチャーだけど誰だ?」と思ったらドライチ。

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これは打たれるなと思ったら先頭の荻野貴司に全球ストレート勝負で本塁打。そこからスイッチが入り別人の投手になった。背番号17が勇ましい。最初の印象と真逆で大きく見えた。変化球のキレもよく三者連続三振。今年どこまで活躍するか。

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持っていたのがドラフト4位の泉口友汰。巨人初の生え抜き大阪桐蔭の野手、青学ボーイにふさわしい爽やかさ。去年、門脇誠がつけた35番を背負う。コンパクトな振りのスモールベースボールが蔓延してきたジャイアンツの中で、大阪桐蔭自慢のフルスイングを伝染させて欲しいところ。

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9回裏2アウトからサヨナラヒット。しかもセンター返しの見事な打球。ドライチを救い、敗戦投手どころか勝利投手をプレゼント。打率は悪いが勝負強さを感じさせる。門脇誠に続いて、いよいよドラヨン伝説が幕を開ける。

用心棒

日本のプロ野球には「助っ人外国人」の伝説がある。最も有名なのはランディ・バースやウォーレン・クロマティ。いや、アレックス・カブレラの180メートル本塁打かもしれない。李承燁(イ・スンヨプ)とロベルト・ペタジーニがいちばん好きだった。暴れん坊ガルベスや乱闘男グラッデンも忘れてはいけない。巨人ファンとしてはヤクルトのジャック・ハウエルが怖かった。”放火魔”ミセリ、”神のお告げ”グリーンウェルも懐かしい。

1996年9月23日、がんばろう神戸。オリックス・ブルーウェーブのD・J(ダグ・ジェニングス)が地元グリーンスタジアムの日本ハム戦で放った同点ホームランは人生で初めて野球で泣いた。その試合のイチローのサヨナラ優勝ヒットより記憶に残っている。

上京直前の2013年10月、すでに優勝を決めた東京ドームでの巨人vs.ヤクルトの消化試合。金を取っておきながら、ここまでやる気がないのかと呆れるなか、代打で登場したジョン・ボウカーのフルスイングに感動した。結果は外野フライだが、どんなヒット、ホームラン、三振より脳裏に焼きついた。

MLBでは大谷翔平や山本由伸たちのことを「助っ人外国人」と呼ばない。出稼ぎであろうがチームメイトの一員として迎える。日本は「助っ人」「外国人」と完全にチームとは思えない単語を並べる。多民族国家のアメリカと島国根性の日本。用心棒を雇う感覚だ。

外国人をガイコクジンとして迎え、自分のポジションが奪われる者にとっては目の上のたんこぶ。山際淳司さんの本で「日本はアメリカからきた選手にすぐに結果を求めすぎる」と書いてあった。高い年俸を払った即戦力の中途採用だから当然と言えば当然だが、祖国を離れ、はるばる東洋の島国まで来た選手にとっては荒野。郷にいれば郷に従えは世界共通語ではない。

ヌートバーが完全にチームメイトでありブラザーでありファミリーであった空気がプロ野球の全チームに浸透するのは難しい。そう考えて本稿を書いていた矢先、新加入のオドーアの退団が発表された。オープン戦でプレーを観たが、居心地が良くなかったのは容易に想像できる。新加入の選手をどう迎え入れるか。プロ野球のマネジメントで最も難しい部分であり、最も可能性に満ちた課題である。