
早朝に降った雨は昼には小雨になっていた。直撃する予報だった台風25号「ウサギ」が熱帯低気圧に変わった。それでも試合中は雨予報。3試合で30安打18得点の侍ジャパンが調子を維持できるか、それとも大会の流れを変えるレイン・ベースボールになるか。

昨日に続き、ホテルの近くの麺屋「阿桂的店」で牛肉麺150元(750円)で昼食。ファミマで明日の韓国vs.オーストラリアのチケットを発券し天母へ向かう。

芝山駅前の一番出口には松屋があり、外国人の居住区だけあり欧米人が多い。国際色が豊かになる。台北ドームよりプレミア12の国際試合の雰囲気がある。球場までは1.5キロ。小雨のなか徒歩で20分。忠誠路一段を三日月を描くように登っていくと天母棒球場が顔を出す。奈良の田舎育ちだから、都会の野球場には憧れを、地方球場には懐かしさを覚える。

収容1万人。人工芝と赤土が美く、国際大会のユニホームが映える。バックスクリーンの奥には陽明山。球場前にはすき家、高島屋がある。


味全ドラゴンズのホーム球場で普段は眼が焼けるように真っ赤な天母棒球場もプレミア12カラー。ロッカーもペナントも紺色に装飾。球場周りは圧倒的に侍ジャパンのユニホーム。台湾人のNPBファンが多い。開場まで2時間。気温23度。雨の湿気も手伝い汗が噴き出る。

球場内にGReeeeNの『キセキ』が流れた。ロード・オブ・メジャーの『心絵』も続く。野球場が野外コンサートに変わり、日本を応援しているように感じる。両軍のベンチ上で遠慮なく踊り歌うように、贔屓のものを全力で応援する。これが台湾。16時開場。キューバのファンは見当たらない。占有率なら昨日の台北ドームより多い。


侍ジャパンは梵英心コーチがボールの転がりやフェンスの跳ね返りをチェック。雨のグラウンドの状態を確かめる。球場メシ。焼肉ロールドッグ110元(550円)。試合前のパワーチャージ。色んな球場メシがあるが、野球場にはホットドッグが似合う。台湾の肉はルネサンスの味がした。

少し青い空も見えるが雨はやまない。

雨の国際試合で思い出すのがWBC。雨の国際試合といえば2017年WBC準決勝のアメリカ戦。名手・菊池涼介、松田宣浩の守備ミスで失点につながり敗北。雨のグラウンドはボールが跳ねず滑るためバウンドがいつもと違いエラーが起きる。あの大会でアメリカが負けていればWBC開催はその年で打ち切りだったといわれている。屋外球場の魔物は野球の歴史を変える。

雨の中でもノックやキャッチボールを行うキューバ代表。栗原陵矢がモイネロと談笑していた。手の腫れは引いて今日は出場。モイネロはインフルエンザが悪化したと報道あったが胃腸炎らしく、すっかり元気になった様子。

降ったり止んだりを繰り返す天母。昨年買ったアジアCSのブルーのフェイスタオルを頭にかぶる。キューバ代表はノックをするが侍ジャパンはベンチに姿を見せない。

最初にグラウンドに現れたのが清宮幸太郎。

17時20分に全体ウォーミングアップ。応援団の演奏が鳴り響く。雨が強くなり霧雨が舞う。

NPBの面々が並ぶキューバ代表。もともとの陽気さに加え、勝手知ったる仲間たちがいるから余計に明るい。18年前、2006年の第1回WBCは日本とキューバの決勝戦で世界一を決めた。母国アメリカでも優勝候補のドミニカ共和国でもなく、アメリカ大陸を海で隔てた島国同士が野球に維新をもたらした。

険しい表情の井端監督。選手の疲労もかなり溜まってきている。

試合前の入場で最初にキューバに脱帽して深く一礼していたのが森下翔太。そのあと他の選手も続いた。

キューバはNPB所属選手が多いので侍ジャパンも和気あいあいで楽しそう。これまでの国際大会で見たことないオールスター戦のような空気。

ドミニカ、韓国に負けて2敗のキューバだが、日本、台湾に2連勝すればスーパーラウンドに進出できる。

早川隆久は小雨の影響も感じさせず三者凡退。最高の滑り出し。

最初のアウトがショートゴロ。この試合で源田壮亮のもとに6つの打球が飛んできた。それをミスなくさばいてアウト。柔らかいハンドリング、捕球してからのスローイングの速さ、送球の安定。一連の動きを見ているだけで不安が氷解していく。そんなことを感じさせてくれる守備は源田壮亮だけ。今では韓国や台湾の内野手も尊敬し、源田の動きを取り入れるほど。源田の守備は国境を超える。この試合に限れば源田壮亮がいなければ結果は変わっていただろう。

1番打者の桑原将志が打率1割台。リードオフマンの役割を果たせていない。この日も最初の打席はライトフライ。

2回裏、試合前に円陣の声出しを行った8番DHの佐野恵太が2アウトから貴重な先制パンチ。最初はキューバの先発フィゲレドの球威に押され2ストライクと追い込まれてていたが、すぐに合わせる。ドラフト9位から日本代表へ。2016年のドラフトでセ・リーグが指名した最後の選手だった。そこからベイスターズで活躍し、29歳にして侍ジャパン初選出。外野と一塁を守れるユーティリティ。日本シリーズの疲労が残るなかで日の丸を背負う。背番号7がマウンドからはっきり見えるほど肩を入れ込む打撃フォーム。井端監督は佐野を初見の投手に強く国際大会に重要なバッターとして重宝。その期待に見事に応えた。

早川隆久はファインプレーを見せた元ロッテの1番サントスから始まる6回も継続。四球とタイムリーで失点し、ピンチを広げる。雨の中、ボールは滑りマウンドの土もぬかるんでいる。ランナーを背負った状態でリリーフに託す。

カクテル光線が灯る上空に月が輝く。月もナイター照明も不気味な光をグラウンドに投げかけている。

オーストラリア戦でもランナーを背負った状態でマウンドを託された横山陸人。日本ハム所属のマルティネスをファウルフライに打ち取るが、連続タイムリーを浴びて2点を失う。5ー4に1点差に詰め寄られ、さらにフォアボールを出し2アウト満塁のピンチ。

嫌な状況でロッテの先輩、鈴木昭汰がリリーフ。ノリノリのキューバベンチが押せ押せムードの中、9番ウォルターズを空振りの三振。2日連続の火消しに成功。

6回裏からリバン・モイネロが登場。しかし、不安定な立ち上がりで1アウト満塁のピンチを作り、栗原陵矢に押し出し。侍ジャパンが6-4と2点を勝ち越す。

鈴木昭汰は7回も登板。今年ペナントレースでも回を跨いでいない初めての経験。選手が少なく、疲労の溜まるメンバーを休ませる必要もある。チーム事情を考えてのことか。不穏な空気が天母に漂う中、1アウト一、二塁のピンチを招き、清水達也にリリーフ。

ここまでエラー0で来た侍ジャパンだが、清水達也が痛恨の一塁悪送球。同点にされてしまう。
7回は侍ジャパンも無得点。モイネロがきっちり抑える。

8回は清水達也が抑え裏の日本の攻撃。先頭の小園海斗がショートのファンブルで出塁すると代走に五十幡亮汰。一気に勝負をかける。

盗塁を期待する場面で辰己涼介が右肘にデッドボールを受け病院に直行。ここで離脱してしまうと、侍ジャパンにとってあまりに痛すぎる代償。しかし、好機を生かして五十幡亮汰がタッチアップ。浅いフライ、しかもダッシュで勢いがついている状態でも成功。井端監督の賭けが成功した。7-6と勝ち越す。

9回は大勢ではなく藤平尚真。本来は中継ぎだが、連投の大勢を休ませないといけない。侍ジャパンも苦しい戦いが続く。

藤平尚真はチェコ戦から9者連続三振と絶好調だが、慣れないクローザーに加え悪天。最初のギベルトを源田の華麗な守備でショートゴロに打ち取るが、今大会、初めて三振を奪えなかった。雨足が強くなったデスパイネ、マルティネスにヒットを許すとデッドボールを与え1アウト満塁。台湾のファンは「加油!(頑張れ)」のコール。

最も怖いモンカダ。最高のストレートで見逃し三振。

一打逆転の場面で8番コスメを空振り三振でファイナル・アウト。最後は日本人に負けず台湾人のファンが声援を送った。台湾でしか実現しない凄い試合。

喜びを爆発させる侍ジャパン。

一人で6つの打球をさばいた源田壮亮がいなければ負けていたかもしれない試合。そしてキューバの凄さ。99.9%日本のファン。昨日の台北ドームより凄いファンの占有率のなかキューバの粘りが凄かった。これぞ国際大会。これぞプレミア12。

観客席から見ていても苦悩が伝わってくる井端監督。WBCの栗山監督を思い出す。スタメンのオーダーや選手交代のタイミングなど、外野からは分からない難しさがプレミア12にはある。孤高の侍は選手だけではない。残り5試合、どんな采配を見せてくれるか。

雨の中でも日本とキューバを盛り上げる台湾のチアリーダー。開催国の鑑。スーパーラウンドのホスト国である日本も見習ってほしい他国のおもてなし。

辰己涼介へのデッドボールには真っ先にブーイングし、侍ジャパンがピンチになると日本人より大きな声援を送る。こんな素晴らしい国は他にない。国際大会のあるべき姿を台湾は教えてくれる。昨夜の韓国の6点差大逆転の直後、2夜連続で凄い勝負を生んでくれた天母棒球場。地下鉄メトロで台北駅から25元(125円)。台北ドームより5元(25円)高く、駅前の台北ドームと違って20分歩く。その僅かな差が大きな旅の差になる。
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