ベースボール白書

野球観戦、野球考察。活字ベースボールを届けます。『WBC 球春のマイアミ』をリリースしました。

WBCとは?歴史、歴代優勝国、参加資格

Amazon Kindle『WBC 球春のマイアミ』より一部を抜粋。WBCとは何か?を今一度、振り返る。

WBCの創生

WBCの正式名称は「ワールド・ベースボール・クラシック(World Baseball Classic)」

ワールドカップではなく「クラシック」と名付けられた陽春の古典劇。MLB機構が主催し、メジャーリーガーの参加が唯一許される国際大会でもある。野球の万国博覧会として普段は見られない野球文化に触れることができ、同時に国・地域別で争われる世界一決定戦でもある。それまで国際大会の頂点にはオリンピックがあったが、メジャーで活躍するトップ選手の参戦はなく、アマチュア野球の王者であるキューバの独壇場。WBCにより初めて世界のベストプレーヤーが名を連ねる国際大会が始まろうとしていた。

故郷を離れてアメリカで野球をするトッププレーヤーたちにとって、母国を背負って戦える唯一の大会であり、出場を決めた選手は怪我を恐れず最大出力で挑み、アドレナリンを噴火させる。選手もファンも野球少年に戻り、ハーメルンの笛吹男に誘われるようにWBCという洞窟に向かっていく。

バド・セリグ第9代MLBコミッショナーを中心に1999年から構想が進められ、2005年5月に第1回大会開催を発表。元々はWBCではなく「スーパーワールドカップ」の呼称だった。MLB30球団で開催に反対票を投じたのはニューヨーク・ヤンキース1球団のみ。

当初、一方的な開催通告に日本は難色を示し参加を保留していたが、MLB側の警告により2005年9月16日に参戦を決定。12月2日にはイチローが出場を表明。「本当に大会を盛り上げるならシーズンを中断してやるべき」と当初は態度を保留していたが「まずは始めないと」と参加を決断。12月27日には松井秀喜が出場辞退を表明し、日本代表30人が決定したのは2006年1月13日。紆余曲折を経て3月3日、東京ドームでの韓国vs.台湾戦でWBCの歴史がはじまった。5,193人がレガシーの証人となり、韓国が2-0で勝利。

「それを作れば、彼はやってくる」

最も有名な野球映画の一節のとおり、やがてWBCは野球を愛する選手、関係者、ファンの夢の球場となる。

WBCのロゴと優勝トロフィー

WBCのロゴは中央に地球儀と野球のボールを組み合わせ、球体の周りを4色(黄・青・緑・赤)の羽の形をした半円が囲む。「黄」が陽気・解放感、「青」は冷静・誠実、「緑」は成長・平等、「赤」は情熱・高揚・愛などのメッセージが込められている。

優勝トロフィーはティファニー製。材質は銀(スターリングシルバー)。高さ25インチ(約63.5 cm)、重さ30ポンド(約13.6 kg)。プールAからDまで4つのリーグを表す羽の真ん中には野球のボール(地球)が添えられ、優勝チームには金メダル、準優勝チームに銀メダルが授与される。

WBCの参加資格

2023年の第5回大会では日系人のヌートバーの代表入りが話題になったが、そもそもWBCの参加資格は幅広い。

  1. 参加国の国籍を持っている

  2. 参加国の永住資格を持っている

  3. 参加国で生まれている

  4. 両親のどちらか参加国の国籍を保持

  5. 両親のどちらかが、参加国で出生

  6. 参加国の国籍かパスポートの資格あり

  7. 過去のWBCで、参加国の最終ロースターに登録された

第1回大会の準優勝国であるキューバ代表が「オールアマチュア」であったように、実力さえあればアマチュアでも出られ、性別や年齢制限もない。いつの日かスーパー高校生が現れ、トップチームのユニホームに袖を通すかもしれない。韓国代表のイ・ジョンフは父が中日ドラゴンズの選手だった関係で名古屋で生まれており、資格である「参加国で生まれている」を満たしているため、日本代表になることも可能。WBCは真に国際色豊かな大会となっている。

WBCのルール

  • 主催はMLB(メジャーリーグベースボール)とMLB選手会

  • 世界中の国と地域から出場(2023年大会では20チームが参加)

  • メジャーリーガーの参加が可能(主力選手も多数出場)

  • 春(主に3月)に開催される

  • 球数制限あり(登板間隔・球数など細かく規定)

  • 勝敗が並んだ場合、TQB(得失点率)ではなく直接対決や失点率が優先される

  • 使用球はアメリカのローリングス製(プレミア12は日本のSSK製)

  • 3位決定戦は行われない(準決勝で敗退した2チームが同率3位扱い)

これがプレミア12だと真逆になる。

プレミア12の概要

Amazon Kindle :『燃月

  • 世界野球ソフトボール連盟(WBSC)が主催

  • WBSCが選出した12ヵ国・地域に限定

  • メジャーリーガーは参加できない

  • 秋に開催される

  • 球数制限がない

  • 勝敗が同じ場合、TQB(得失点率)を優先

  • 使用球が日本のSSK製(WBCは米国のローリングス製)

  • 3位決定戦がある

  • 球数制限がない

  • 勝敗が同じ場合、TQB(得失点率)を優先

  • 使用球が日本のSSK製(WBCは米国のローリングス製)

延長タイブレークに関しては、9回を終えて決着がつかない場合、10回以降は無死二塁からスタートになる。 打順は9回終了時点から引き継ぎ、先頭打者の直前の打順の選手か、その代走が二塁走者となる。

投手の球数制限と登板間隔

投手の故障リスク軽減のため、前回大会と同様の球数制限と登板間隔が設けられる。

  • 1次ラウンド:65球
  • 準々決勝:80球
  • 準決勝以降:95球

上記の球数を超えると、次打者に投球できなくなる。このため1次ラウンドでは先発投手が3~5回あたりで降板するケースが多く、各チームにとってロングリリーフする「第2先発」の存在が重要となる。

登板間隔

  • 50球以上投球:中4日空ける
  • 30球以上投球または連投:中1日空ける

コールドゲームは準々決勝まで

  • 7回終了時に10点差以上
  • 5回終了時に15点差以上

上記の場合、コールドゲームが宣告される。準決勝以降は採用されない。

1次ラウンドのタイブレーカー

5チームで争う1次ラウンドでは、全チームが2勝2敗で並ぶ可能性もある。その場合、以下の順でラウンド突破チームを決定する。

  1. 当該チーム同士の直接対決の勝敗
    • 3チームが並んだ場合、あるチームが他の2チームに勝っていれば1位
  2. 得失点率差(TQB)
  3. 自責点率差(ER-TQB)
  4. 当該チーム同士の対戦での打率
  5. くじ引き

2026年(第6回大会)からの新ルール

2026年3月、20周年を迎えるWBCが新たな時代を迎える。今回の大会では、国際大会として初めて「ピッチコム」「ピッチクロック」「拡大ベース」という3つの新ルールが本格導入される。いずれも、競技のスピード化と安全性の向上を目的としたもので、国際舞台の野球をより近代的なものに変えていく。

ピッチコム

まず注目されるのが、ピッチコム(PitchCom)。投手と捕手の間でサインを電子的に伝達する装置で、通信機器には9つのボタンがあり、球種やコース、けん制などを設定して送信できる。最大3回の操作で細かな指示を伝えられる仕組み。サイン盗みの防止とサイン交換の迅速化を狙ったこのシステムは、MLBではすでに定着しており、WBCでも試合テンポを大きく変えることになる。

ピッチクロック(Pitch Clock)

続いて導入されるのが、ピッチクロック(Pitch Clock)。投手が投球間に要する時間を制限するルールで、走者がいない場合は15秒以内、走者がいる場合は18秒以内に投球動作を開始しなければならない。制限を超えると自動的に1ボールが加えられる。これにより、試合時間の短縮とテンポの改善が期待される。MLBではこの制度によって平均試合時間が30分以上短縮されたというデータもあり、WBCでも試合のリズムがより軽快になる見込みだ。

拡大ベース(Larger Bases)

三つ目は、拡大ベース(Larger Bases)。選手の怪我防止と安全性の向上を目的に、ホームベースを除く1塁、2塁、3塁のベースサイズが拡大される。従来の15インチ(約38.1センチ)四方から、18インチ(約45.7センチ)四方へと一辺が約3インチ(7.6センチ)広がる。塁間の距離がわずかに縮まるため、盗塁や内野安打などの攻防にも微妙な変化をもたらすことになる。

大会運営側は「選手の安全と競技の質を両立する国際基準」としてこれらのルールを採用。これまでの“伝統的な野球”から、“テンポと精度の野球”へ。新しいルールがもたらす変化の先に、どんなドラマが待っているのか。次の春、その答えが示される。

その他の大会ルール

チャレンジ(ビデオ判定リクエスト)

審判の判定に異議を唱えるビデオ判定は、準々決勝までは1試合につき1回、準決勝以降は2回まで行える。ただし、判定が覆った場合は権利は消滅せず、その試合で使える。

タイブレーク

9回終了で決着がつかない場合、通常の延長線は採用されず、タイブレーク方式が採用れる。延長10回以降から無死2塁の状況から攻撃をスタート。二塁走者はイニングの先頭打者の前の選手が立つ。

コールドゲーム

準々決勝までは、コールドゲームが採用される。5回終了時で15点差、7回終了時で10点差の場合、試合終了となる。

球数制限

  • 準々決勝まで:65球
  • 準々決勝:80球
  • 準決勝、決勝:95球

今大会も1試合につき球数制限が設けられており、こまめな継投が試合を左右する。さらに、球数制限に加えて、登板間隔も制限される。

  • 50球以上:中4日以上
  • 30球以上または2試合連続登板:中1日以上

 

 

 

WBC歴代優勝国

WBCは歴史が浅い分、ベネズエラ代表の三冠王ミゲル・カブレラのような5大会の皆勤賞もいる。過去と現代をキャッチボールしながら見ることで、WBCをさらに楽しめる。2006年からの歴史絵巻を紐解いてみよう。

WBCは2006年に始まり、2026年で6大会を終えた。優勝国は日本、ドミニカ共和国、アメリカ合衆国、ベネズエラの4か国。最初の20年は、日本の連覇で幕を開け、ドミニカの完全優勝、アメリカの初戴冠、日本の奪還、そしてベネズエラの悲願の初優勝へと続いた。2026年決勝でベネズエラはアメリカを3-2で破り、MVPにはマイケル・ガルシア(Maikel Garcia)が選ばれた。

  • 第1回2006年:日本
  • 第2回2009年:日本
  • 第3回2013年:ドミニカ共和国
  • 第4回2017年:アメリカ合衆国
  • 第5回2023年:日本
  • 第6回2026年:ベネズエラ

第1回2006年

第1回2006年

MVP:松坂大輔

2006年(平成18年)、暗夜航路のなかを船出した記念すべき第一歩。16の国と地域が招待され、アジア、北米、中米、南米、オセアニア、ヨーロッパ、アフリカとワールドワイドな大会となった。開催場所は日本(東京)、プエルトリコ(サンファン)、米国(4ヶ所)。試合数は39。日程は3月3日から21日までの19日間。記念すべきカーテンレーザー(幕開け)は3月3日、東京ドームでの韓国vs.台湾。

開催国のアメリカをはじめ、ドミニカ、プエルトリコ、ベネズエラなどはオリンピックに出場できなかった球史に名を残すメジャーリーガーが次々と参戦。豪華な顔ぶれが集結した。

初代王者は日本。96年アトランタ五輪や00年シドニー、04年アテネ五輪の参加者が多く、イチローや大塚晶則のメジャーリーガーも参戦。監督は王貞治。1次ラウンドを2位通過し(1位は韓国)、米国に舞台を移してからは誤審の常習犯であり、皮肉にもWBCを最も盛り上げた立役者ボブ・デビッドソン審判の影響でタフ・ロス(不運な敗戦)を喫する。しかし、その影響で3月3日に東京ドームで灯った種火が一気に炎上。5人のメジャーリーガーを擁し「ドリーム・オブ・ドリームチーム」と称された韓国代表を準決勝で破り、国際大会37回連続決勝進出のキューバ代表に勝利し栄冠。

MVPは3勝を挙げた松坂大輔が選ばれた。アメリカ戦、準決勝の韓国戦を最少失点、無失点に抑えた上原浩治の快投、慣れない米国での戦いを支えたイチロー、大塚晶則のサポートが光った。決勝の舞台はサンディエゴのペトコ・パーク。プエルトリコやドミニカを破って勝ち上がってきたキューバを相手に10-6で勝利。アメリカでもドミニカでもなく、遠いアジアの島国が優勝を決めた瞬間、スタジアムに維新の紙吹雪が舞った。野球はWBCによって生まれ変わろうとしていた。

第2回2009年

第2回2009年WBC

MVP:松坂大輔

4年後が待てないと言わんばかりに第1回から3年後の2009年に第2回大会を開催。前回と同じ顔ぶれで16の国と地域が参加。開催場所は日本(東京)、メキシコ(メキシコ・シティ)、カナダ(トロント)、プエルトリコ(サンファン)、米国(3ヶ所)と前回から2ヶ所増加。試合数は前回と同じ39。日程は3月5日から24日までの20日間。日本vs.中国戦で幕が開けた。

今大会から「SAMURAI JAPAN」が誕生。当時は英語表記。監督は原辰徳。前年に左膝手術を受けた松井秀喜は連続で出場辞退。イチロー、松坂大輔、福留孝介、岩村明憲、城島健司と5人のメジャーリーガーが参加し、日本での熱が着火。空前のWBC旋風が吹き荒れた。

前回の総当たり方式のリーグ戦をやめ、2回負けたら敗退するダブルイリミネーション方式トーナメントに変更。この入り組んだ方式により、アメリカvs.ベネズエラが3回、日本vs.韓国戦が5回も行われるカオスな大会となった。前回からの改良点は、マイナーリーグ所属の審判のみの構成から、メジャー審判や国際審判を採用。日本からも4人の審判が参加した。さらにはホームランのみビデオ判定が導入。延長13回からはタイブレーク方式が採用された。

準決勝で日本はアメリカを破って3年前の雪辱を果たし、決勝の相手は韓国。ドジャースタジアムに集まったWBC史上最多54,846人もの観客が見守るなか、5-3で大会連覇。MVPは2大会連続で松坂大輔。3試合に登板し全勝の投球でチームを牽引。韓国には前回大会で1勝2敗と負け越したが、今大会は3勝2敗と勝ち越した。決勝戦でイチローが延長10回に放った勝ち越しタイムリーは、その後の多くの侍戦士を生む火種となる。

第3回大会2013年

第3回大会2013年

MVP:ロビンソン・カノ

MLB所属のイチロー、ダルビッシュ有、岩隈久志、青木宣親、川﨑宗則、黒田博樹の6人全員が出場辞退。NPB所属選手だけの侍ジャパンとなった。1次ラウンドは初の福岡ドームでの開催。初戦はブラジル。今大会から完全招待制ではなく予選ラウンドが行われた。本戦を目指す16チームで争った結果、台湾、カナダ、ブラジル、スペインの4チームが出場。招待された12チームと合わせて16の国・地域で覇権を争った。

開催場所は日本(福岡、東京)、台湾(台中)、プエルトリコ(サンファン)、米国(4ヶ所)と前回より増加。試合数は3回連続で同じ39。日程は3月2日から19日までの18日間に短縮。オーストラリア vs.台湾でテープカット。

侍ジャパンは1次ラウンドを2勝1敗で通過し、第2ラウンド1回戦で予選を勝ち上がってきた台湾と対戦。延長10回、4時間37分の激闘はWBC史上に残る伝説となった。勢いに乗った日本はオランダを撃破して米国ラウンドに進出するが、準決勝でプエルトリコに敗戦。前田健太と井端弘和が大会ベストナインに選ばれた。

王者はドミニカ共和国。第1回、第2回大会も優勝候補に挙げられながら、三度目の正直で戴冠。全8試合に勝利し、史上初の全勝優勝。決勝の相手はプエルトリコ。前回大会の日本と韓国に続き、海を隔てた隣国同士の決戦は、降りしきる雨のサンフランシスコで行われた。日本を破ったプエルトリコを相手に3-0の完封勝利。大会MVPのロビンソン・カノをはじめとする強力打線に目が行きがちだが、チーム防御率は1.75(前回の日本の1.71に次ぐ歴代2位)の投手陣が光った。弓を引くポーズで大会を盛り上げた抑えのフェルナンド・ロドニーは8試合すべてに登板し無失点。1大会で7セーブは今後も破られないであろう記録の一つ。チームもトータルで14失点と、歴代最少失点優勝。WBCに大きな金字塔を打ち立て、サンフランシスコのバナナをAT&Tパークの夜空にペンライトのように掲げた。

第4回大会2017年

MVP:マーカス・ストローマン

国内外の選手の多くが辞退を表明。MLBではヒューストン・アストロズ所属の青木宣親が35歳のチーム最年長で唯一メジャーリーガーとして参戦。前回同様、前年に予選ラウンドが行われオーストラリア、メキシコ、コロンビア、イスラエルが本戦に出場。

開催場所は日本(東京)、韓国(ソウル)、メキシコ(ハリスコ)、米国(3ヶ所)。試合数は前回から1試合増え40。日程は3月6日から22日までの17日間に短縮。開幕カードはイスラエルvs.韓国。

前回大会までの侍ジャパンは代表候補合宿を行い、大会直前に何人かが落選する方法だったが、選手や球団の反発から振るい落とす方式を撤去。あらかじめ集められた代表選手で本戦を戦うことになった。日本は1次ラウンド、2次ラウンドを6戦全勝で進み、チーム本塁打10本は歴代最多。

しかし、雨のロサンゼルスに乗り込んだ準決勝で惜敗。2大会連続で準決勝の壁を突破できなかった。優勝国は日本を破ったアメリカ。開催国のホストであり野球の母国でありながら「オープン戦感覚」と揶揄され続けたWBCだったが、4度目の正直にして初の戴冠。特に2次ラウンドはアメリカ、プエルトリコ、ドミニカ、ベネズエラとアメリカ大陸の最強四天王が集う超激戦。どの試合も夏と錯覚するほど熱い試合が繰り広げられ、季節を狂わせた。

決勝は全勝で勝ち進んできた最強プエルトリコを相手にMVPのマーカス・ストローマンが7回途中までノーヒットに抑える異次元のピッチング。打線もMVP級のクリスチャン・イエリチを筆頭に大爆発。アメリカはリーグ戦でドミニカ、プエルトリコに敗れていたが、トーナメントで強さを発揮。予想を裏切る8-0の大勝で、ついに王者の系譜に「チームUSA」を刻んだ。

第5回大会2023年

MVP:大谷翔平

侍ジャパン7戦全勝で幕を閉じたWBC。開幕前に書いたように、このタイミングで開催されたことが成功につながり、最強の侍ジャパンを生み出した。完全にコロナウイルスに屈した東京オリンピックとは真反対に、コロナによって延長したことが奏功。はじめてコロナを超えたイベントとなった。

大会の観客動員数は130万6414人。2006年に始まったWBC史上最多を記録。これまで最多だった2017年大会の108万6720人から20%増加した。

侍ジャパンは代名詞の「スモールベースボール」から「全進野球」へ進化し新たな歴史を刻んだ。最初は鈴木誠也のロスを近藤健介が埋めるところからはじまり、村上の不調を吉田正尚が、栗林良吏の離脱を大勢をはじめとするリリーバー陣が、最後はメジャー組の不振を岡本など下位打線が、誰かが誰かの穴を必ず埋めた。

投手とDHでベストナインに選ばれる二刀流の大車輪。大谷翔平のWBCは強化試合のバッティング練習で開幕、そして大谷の投球で閉幕。完璧な二刀流で魅了した。大谷の大谷による大谷のためのWBC。史上最大のSHO-TIME。おそらく今後は二度と破られないパフォーマンスと記録を樹立した。

第6回大会2026年

MVP:マイケル・ガルシア

20年目のWBCは、ベネズエラの悲願の初優勝で幕を閉じた。決勝の相手は、2大会連続の決勝進出となったアメリカ。スコアは前回と同じく3-2。最後まで一球ごとに空気が張りつめる、WBCという大会の現在地をそのまま映したような決勝戦だった。MVPには、2番打者、三塁手として活躍したマイケル・ガルシアが選ばれた。準々決勝からの重要な3試合すべてで打点をあげ、7試合で26打数10安打、打率.400、1本塁打、7打点、OPS.970という成績を残した。10安打は今大会を通じての最多安打。

ベネズエラがWBCを制したのはこれが初めてであり、日本、ドミニカ共和国、アメリカに続く4つ目の優勝国となった。

2006年に空席の目立つ東京ドームから始まったWBCが、20年を経て、完全に“世界の大会”へと成長したことを示した大会だった。アメリカ、ドミニカ、ベネズエラのスター軍団に加え、イタリアの躍進、韓国と台湾の激闘など、野球の勢力図が広がり、厚みを増していることがはっきりと見えた。もはやWBCは一部の国だけの見本市ではない。各国がそれぞれの野球を持ち寄り、その成熟度をぶつけ合う本物の短期決戦になった。

そのなかで頂点に立ったベネズエラは、スターの数で勝ったのではない。つなぐべき場面でつなぎ、守るべき場面で守り、一瞬の甘さを逃さない。派手な打力だけではなく、試合運びのうまさ、そして何より「この大会を獲りに来た」という気迫が際立っていた。WBCがスターの展示会ではなく、結束と完成度を競う大会であることを、ベネズエラは最も鮮やかに証明した。決勝打を生んだのはエウヘニオ・スアレスの一打だったが、その土台にはガルシアを中心とした、全員で戦う野球があった。

一方で、この大会は光だけでなく影も照らした。保険問題、球団による出場制限、MLBルールへの適応、そして代表活動とシーズン準備の衝突。グラウンドの外にある構造的な問題が、グラウンドの中の勝敗にまで深く食い込んでいる現実も、2026年大会ははっきりと浮かび上がらせた。今大会は、熱狂の完成形であると同時に、制度面ではまだ未完成の大会でもあった。

侍ジャパンにとって今大会は、「日本の野球を世界にぶつける大会」から、「MLB式ベースボールへの適応」を問われた大会だった。ピッチクロック、ピッチコム、拡大ベース、直前合流となるメジャー組、そして球団側の管理下で制約を受ける起用法。これまでのWBCで日本は、自分たちの野球の完成度で世界を押し切ってきたが、今回はまず環境に順応すること自体が大きなテーマになった。そのなかで侍ジャパンは、初めてベスト8で敗れた。今大会は、日本が世界に何を見せるかだけではなく、日本が世界標準にどう向き合うかを突きつけられた大会でもあった。

それでも、WBCは確実に前へ進んでいる。日本の連覇で始まった歴史は、2023年の侍ジャパンの優勝を経て、2026年にベネズエラの悲願へとたどり着いた。勲章や知名度だけでは勝てない。個人の栄誉と、国を背負う覚悟は別物である。その残酷さと面白さを、20年目のWBCは改めて教えてくれた。ベネズエラの初優勝は、単なる一国の歓喜ではない。WBCが次の20年へ進むための、新しい号砲だった。

 
 

WBCに出場する選手やコーチ陣の報酬

WBCは、国を背負って戦う名誉の舞台である。その熱狂の裏側では、選手やコーチ陣を支える報酬の仕組みも整えられている。日の丸や星条旗を胸に戦う姿は、しばしば「誇り」や「使命感」で語られる。もちろん、それは間違いではない。ただ、現実の国際大会は、精神論だけでは回らない。WBCもまた、巨大な興行であり、そのなかで選手やスタッフに還元される資金の流れが存在する。

2026年の第6回大会では、参加した全20チームに、まず一律で75万ドル(約1億2000万円)の出場料が支払われた。そのうえで、勝ち上がった段階に応じてボーナスが積み上がっていく。プール突破で100万ドル(約1億6000万円)、準々決勝勝利で125万ドル(約2億円)、準決勝勝利で125万ドル(約2億円)、そして優勝チームにはさらに250万ドル(約4億円)の優勝ボーナスが加算される仕組みだ。

準々決勝で敗退した日本は、出場料75万ドルにプール突破の100万ドルが加わり、合計175万ドル(約2億8000万円)を得た計算になる。ベスト8で大会を終えたとしても、代表チームには相応の金額が支払われる。WBCは「出るだけで名誉」の大会ではない。少なくとも大会運営の側は、出場国に対して明確な経済的対価を用意している。

重要なのは、この賞金が場当たり的に決まるものではないという点だ。MLBと選手会の共同契約に基づき、予想収益をもとに、大会開始前からあらかじめ金額が設定されていた。勝ち進めば増えるが、そもそもの設計は開幕前にできあがっている。そこには、国際大会を一時の熱狂ではなく、継続可能なビジネスとして成立させようとする意思が見える。

さらに興味深いのは、大会全体の収益が2023年の前回大会の約2倍に達したことだ。米サイト「ジ・アスレチック」は、Netflixが日本国内での独占放映権に1億ドル(約158億円)以上を支払ったと報じている。もしこの報道どおりなら、収益倍増の大きな要因の一つは、Netflixによる巨額の放映権料だったと考えられる。つまり、いまのWBCは、グラウンドの上の勝負だけでなく、放映権ビジネスの規模でも急拡大している大会なのである。

ここで考えさせられるのは、選手やコーチ陣の報酬の意味だ。代表に選ばれた者は祖国のために戦う。だが同時に、自分のキャリア、所属球団との契約、怪我のリスク、シーズンへの影響という現実も背負っている。そうした条件のなかで国際大会に参加してもらう以上、報酬や賞金の枠組みが整っているのは当然とも言える。むしろ、それがなければ、WBCはここまで大きな大会には育たなかった。

もちろん、WBCに出る理由の中心が金ではない。大半のスター選手にとって、クラブレベルの年俸と比べれば、大会賞金は決して絶対的な額ではない。それでも、代表チームにきちんと金銭的価値が付与されている。そこには「国際大会もまた、野球界の正式な労働の場である」というメッセージが含まれている。

WBCは、夢と興行が共存する大会だ。ファンは国の威信を見つめ、選手は誇りを胸に戦い、主催者は放映権と収益を最大化する。その三つが噛み合って、初めて大会は成立する。選手やコーチ陣の報酬の話は、熱狂に水を差す現実ではない。むしろ、WBCが“本物の世界大会”になったことを示す、もう一つの証拠なのである。

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