同じルールなのに野球ほどプレーする場所の特徴が違うスポーツはない。野球場こそがベースボール最大のアイデンティティ。2024年8月27日、福岡ドームを訪れてプロ野球の本拠地・準本拠地13の球場をすべて訪れた。その集大成として「ひなたサンマリンスタジアム宮崎」「SOKKENスタジアム」「ジャイアンツ球場」を入れた16球場をランキング形式で紹介する(ベストナインまで。10位以下は順不同)。単純に球場の良さだけでなく、歴史や開催される大会も加味したトータルでランク付けしている。
1位:甲子園
- 開場: 1924年(大正13年)8月1日
- 収容:47,359人(高校野球)
- 正式名称:阪神甲子園球場
- 所在地:兵庫県西宮市甲子園町
- 内野:黒土
- 外野:天然芝
- 両翼:95 m
- 中堅:118 m
- フェンス:3.0 m
- 主な大会:高校野球(センバツ、選手権)、タイガース主催試合
- 球場メシ:甲子園カレー、カチ割り
日本の野球場の盟主は甲子園。企業名も地名もつかない純然たる球場の名前。初代の正式名称は「甲子園大運動場」。ベーブ・ルースが広すぎると嘆いたほど左中間が本塁から137mもあった。現在の正式名称は「阪神甲子園球場」だが通称の「甲子園」がふさわしい。毎日がWBCと形容される阪神タイガースの熱気はランキングに加味していない。あくまで高校野球の聖地としての球場であり、その一点だけで日本の野球場の頂点に立つ。高校野球になると聖地に変わる。
聖櫃な空気は高校野球でしか出ない。2023年のWBCの熱狂も、1997年の平安高校の躍進の興奮には及ばない。これまでも、これからも甲子園は日本の野球場の盟主である。
球場メシ
開場した 1924年(大正13年)8月1日から歩んできた甲子園カレー。普通のレトルトカレーだが、山小屋で食べる普通のカレーが別格なように、甲子園で食べるカレーは一味違う。
もう一つの名物が1957年から販売された「かちわり」。発売開始当初は1袋5円。六甲山系の地下水を汲み上げた氷を小さく割ったもの。溶けた氷水を飲み、額に乗せて涼をとる。これがないと直射日光の当たる場所での観戦は死んでしまう。夏の高校野球のみの販売で、タイガースの試合では販売されない。
開催試合
選抜高等学校野球大会(春)、全国高等学校野球選手権大会(夏)。この2大会のためだけに甲子園はあると言っていい。2024年8月1日に100周年を迎えた日本最高のフィールド・オブ・ドリームス。
2位:東京ドーム
- 開場: 1988年(昭和63年)3月18日
- 収容:43,500人
- 正式名称:東京ドーム
- 所在地:東京都文京区後楽
- 内野:人工芝
- 外野:人工芝
- 両翼:100 m
- 中堅:122 m
- フェンス:4.24 m
- 主な大会:侍ジャパン、ジャイアンツ主催、都市対抗など多数
- 球場メシ:東京ドームドッグ、ジャイアンツ・ソーダ
東京ドームは球場自体の良さはランキング下位になる。怪我の多い人工芝など負の遺産は多い。しかし開催される大会、日本の野球文化を育む卵・BIG EGGとしてのレゾンデートル(存在意義)だけで他球場を圧倒する。
宇宙一のベースボールであるWBCが第1回からすべて開催された球場は世界でも東京ドームだけ。ドームランと揶揄されるように、ボールが飛びやすくホームランの多さは日本一。国際大会を彩る祝砲、打ち上げ花火。
本塁打の多い球場だからこそ、ピッチャーの孤高が際立つ。東京ドームのマウンドはゴルゴダの丘。敗戦投手になるか英雄になるか。ヒッターズ・パークは打撃戦を愉しむ場であり、同時にピッチャーの孤高に耳をすませる球場でもあるのだ。
球場メシ
「火が使えないから東京ドームにうまいものなし」は都市伝説。67店もグルメが並び、名物の東京ドームバーガーと東京ドームドッグはまあまあだが、ジャイアンツ・ソーダは逸品。特におすすめは大阪焼肉ふたご『牛テールスープ』。まだ練習前で人がいないとき体を温めてくれる。
開催試合
WBC、アジアCS、そしてプレミア12。侍ジャパンのトップチームの大会はすべて東京ドームで行われる。都市対抗や大学野球日本選手権も素晴らしいが、WBCやアジアCSなどの侍ジャパンのユニホームが躍動するとき、東京ドームはサンクチュアリになる。This is Field of Dreams
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3位:楽天モバイルパーク宮城
- 開場: 1950年(昭和25年)5月5日
- 収容:31,272人
- 正式名称:県営宮城球場
- 所在地:宮城県仙台市
- 内野:天然芝、黒土クレー
- 外野:天然芝(ファウルエリアは人工芝)
- 両翼:100.1 m
- 中堅:122 m
- フェンス:2.5m
- 主な大会:楽天主催、東北学生野球
- 球場メシ:浅村 栄斗の牛タン弁当
プロ野球の本拠地としてだけ比較するなら圧倒的なナンバーワン。NPBの本拠地では甲子園、神宮球場に次いで3番目に誕生。ジャッキー・ロビンソンやジョー・ディマジオもプレーした宮城球場から歴史を刻み、2016年の大改修で全面が天然芝に生まれ変わった。観覧車が象徴するように、これぞボールパークのお手本、代名詞。1973年から数年間はロッテ・オリオンズが本拠地にしていた。
JR仙台駅の東口を出て宮城野通り、別称「イーグルロード」を直進。入場ゲートで『Take Me Out to the Ball Game』が流れる外観・内観ともに日本一のボールパーク。
メージャーリーグの球場にもない観覧車。メリーゴーラウンドもある「スマイルグリコパーク」。小さな子どもを連れてきたい野球場ナンバーワン。
夜になると幻想的な雰囲気に変わる。屋外球場の魅力も凝縮した最高のボールパーク。
球場メシ
『浅村 栄斗の牛タン弁当』1,450円。ゴールデンイーグルスのホームランの願掛けにぴったり。
開催試合
楽天ゴールデンイーグルスの主催試合、東北学生野球のメッカであり甲子園や神宮球場を沸かせるスターを育んでいる。寒さと風(同じ風速でも寒い分、空気が重い)によりホームランが出にくく、終盤は寒さでクローザーも本来の力を発揮しにくいなか、浅村栄斗のホームラン、松井裕樹の日本最後のセーブを観られたのは財産。
4位:マツダスタジアム
- 開場:2009年(平成21年)4月1日
- 収容:33,000人
- 正式名称:広島市民球場
- 所在地:広島県広島市
- 内野:天然芝
- 外野:天然芝
- 両翼:左翼101m、右翼100m
- 中堅:122 m
- フェンス:2.5m
- 主な大会:カープ主催
- 球場メシ:カープうどん
東京、横浜、名古屋、兵庫と都市に集中するセ・リーグの本拠地で、唯一の地方球場が広島にあるマツダスタジアム。この例外が都会の野球場を下剋上する。都会vs.広島の仁義なき戦い。正式名称は「広島市民球場」である。
球場までの「マツダロード」にはカープ色のローソンがあり、球場の高いメシを逃れ、ここでドリンクやツマミを買うファンが多い。
内外野の美しい天然芝、グラウンドとの距離が近い。1周600mのコンコースも視界が開け、どこからでもグラウンドが観られるだけでなく、隣のコストコの駐車場や新幹線やJRの車両からも試合が観られるほどオープン。
レフトのほうが1mだけ深く、左右非対称はエスコンフィールドとマツダスタジアムの2球場のみ。東北東の向きに造られた唯一の野球場であり、奥には中国山地が連なる。場内の雰囲気といい、台湾の球場に似ている。
球場メシ
カープうどん850円。1957年から続く広島のソウルフード。関西出汁と思いきや、少し関東風なのが面白い。コカ・コーラが最も似合うチームであるのは言うまでもない。
開催試合
相手チームの応援席がファウルゾーンある露骨な嫌がらせが素晴らしい。仁義なき戦い。野球はこうであってほしい。阪神ファンの「あと一球」vs.広島ファンの「ワッショイ」。令和の世でも、昭和の応援合戦で盛り上がる。
5位:エスコンフィールド
- 開場: 2023年(令和5年)3月14日
- 収容:36,000人
- 正式名称:なし
- 所在地:北海道北広島市Fビレッジ
- 内野:天然芝
- 外野:天然芝
- 両翼:左翼97m、右翼99m
- 中堅:121m
- フェンス:2.8m
- 主な大会:ファイターズ主催、高校野球予選
- 球場メシ:万塁ホームラーメン
日本の野球場の未来。今後あらゆる球団が造るべきボールパークのお手本。札幌ではなく人口5万6000人の北広島に立つアンビシャスな球場。
要塞、北国の帝王の外観。漆黒とガラスの組み合わせのスケール、北海道の大地だからこそ映える。
球場の外にあるプレイフィールドがボールパークのなんたるかを物語る。
高さ70mのガラス壁から差し込むたっぷりの陽光によって天然芝を育てる。クロード・モネが描いた《サン・ラザール駅》のような近代化の鐘が聴こえてくる。セ・リーグ6球団は本州にしかチームがないが、パ・リーグは中央の権力から自由。斬新な発想や規格外が生まれる。外野のポールまでファイターズカラーのブルーなのはエスコンのみ。
北側は北海道の伝統的な家屋をモチーフにした重さ1万トンの三角屋根。開閉式ドームになっている。なんという開放感。
球場メシ
伊藤大海のホタテ焼き丼、22時半まで営業している七つ星横丁の『万塁ホームラーメン』。その日に活躍した選手のグルメを堪能し、ワイワイ語らい帰宅できる。
開催試合
日本ハムの主催以外にも、高校野球の予選でも使われる。将来はWBCやプレミア12など侍ジャパンの公式戦も行われるべき球場。
6位:ナゴヤドーム
- 開場: 1997年(平成9年)3月12日
- 収容:36,418人
- 正式名称:ナゴヤドーム
- 所在地: 愛知県名古屋市東区
- 内野:人工芝
- 外野:人工芝
- 両翼:100m
- 中堅:122 m
- フェンス:4.8m
- 主な大会:ドラゴンズ主催
- 球場メシ:がぶりもも焼き
得点もホームランも12球団で最も入りにくい問答無用のピッチャーズ・パーク。左右中間の外野フェンスまでの距離が116 mと東京ドームより6mも深く、フェンスの高さ4.8mも横浜スタジアムの5mに次いで高い。UFOを思わせる円盤状の不思議な魔力が働くのか、ナゴヤドームを主戦場にした平田良介は「この球場は明らかにボールが飛ばず、フェンス手前で失速する」と公言。野球場の七不思議である。
70年代、80年代の2度の計画では名古屋駅から徒歩10分の場所にドーム球場を造る計画だった。なぜか電車で30分近くかかる東区に建設。その結果、ナゴヤドーム前矢田駅から直結するドラゴンズロードが生まれた。
ナゴヤドームの最大の長所は居心地の良さ。ブルーとグリーンのコントラストが美しく、ドームの閉塞感がない。ライトスタンドの5階席は大谷翔平の打撃練習の伝説を生んだ。ナゴヤドームのポールは天井まで伸びている。ホームランかファウルかを判定しやすくするため。落合監督の進言によるもの。
球場メシ
ナゴヤドームが開場すると、野球ファンは練習見学そっちのけで名物「がぶりもも焼き」を求めて並ぶ。
プレミア12の開幕戦でようやく食べられた。スパイシーだけど油が上質。食べ応え満点。
もうひとつの名物が「球弁(たまべん)」。ホームラン弁当1,300円を食べた日は、2本のホームランを観られた。この縁起のいい弁当のおかげか。ご飯、おかず、どれも絶品。この日も売り切れ。
進化版が満塁ホームラン弁当。見た目の美しさ、作り置きと思えない米とおかずの美味さ。究極の球場弁当。
開催試合
かつては高校野球の予選や女子プロ野球も行われたナゴヤドーム。2024年、プレミア12で侍ジャパンの公式戦デビューを果たす。今後はWBCの公式戦も行われるか。
7位:神宮球場
- 開場:1926年(大正15年)10月23日
- 収容:30,969人
- 正式名称:明治神宮野球場
- 所在地: 東京都新宿区霞ヶ丘町
- 内野:人工芝
- 外野:人工芝
- 両翼:97.5m
- 中堅:120m
- フェンス:3.3m
- 主な大会:大学野球日本選手権、大学野球、高校野球など
- 球場メシ:オリジナル珈琲、レモンスカッシュ
東京ドームと同じく、球場自体の良さより歴史や開催試合の意義によるベストナイン選出。何よりも大学野球の聖地。所有者は明治神宮。
歴史は甲子園の次に古く2年後輩。東大の加盟により東京六大学リーグ戦がスタートした1925年の翌年の大正15年(1926年)からスタート。第6回WBCがある2026年に100周年を迎える。
デーゲームであれば一塁側からは国立競技場や新宿の高層ビルが見え、東京ドームより東京の野球場感がある。両翼97.5mはプロ野球の本拠地で最も短く、ホームランは東京ドームの次に出やすい。プロ野球の球場としては物足りず、やはり神宮球場は学生野球の聖地。ブルペンがフィールド内にあるのも神宮球場だけである。
球場メシ
レモンスカッシュ450円が夏を連れてくる。夏を呼ぶ。夏を追い越す。秋の神宮野球大会では内野席に鳩が何羽か歩いて一緒に野球観戦をする。
神宮球場オリジナル珈琲。球場創設時の1926年(大正15年)に日本で流行していたブラジルとジャワ豆のブレンド。酸味と苦味のバランスが優れて高級な味わい。
開催試合
神宮球場=早慶戦のイメージが強いが、1952年に始まった大学野球日本選手権が一番。大会期間中、神宮球場は東の甲子園に変わる。グラウンドにいる限り、男は何歳になっても野球少年。
8位:サンマリンスタジアム宮崎
- 開場:2001年(平成13年)
- 収容:30,283人
- 正式名称:宮崎県総合運動公園硬式野球場
- 所在地: 宮崎県宮崎市大字熊野
- 内野:天然芝
- 外野:天然芝
- 両翼:100m
- 中堅:122m
- フェンス:3.4m
- 主な大会:フェニックスリーグ、WBC合宿など
- 球場メシ:地産地消ドリンク
プロ野球の球団を持たないのがもったいないほど名球場。福岡ドームにない南国感が広がる。バックスクリーンの頭上に太陽、広大なファウルゾーン、海から吹く風がグラウンドの匂いを連れてきてくれる。
ジャイアンツ色に染まった無人、改札なしの木花駅から歩いて10分。パームツリーが至る所にあり、球場の周りは地元住民が散歩やジョギングをしている。
グラウンドや土の匂いが伝わってくる。ここを本拠地とする球団があればと願う。ボールパーク化は大歓迎だが、野球場は余計なものを削ぎ落としたシンプルな構造のほうが良いことも多い。
球場メシ
WBC合宿の際は露店があるが、フェニックスリーグでは店はなし。球場内の地産地消自動販売機で宮崎県限定のドリンクが買える。秋でも暑いサンマリンスタジアムには冷たいドリンクが何より。
開催試合
プロ野球の2軍のフェニックスリーグも良いが、やはり春のWBC合宿の場所。侍ジャパンが世界へ羽ばたく滑走路。いつか河津桜が咲き誇る季節に行ってみたい。
9位:西武ドーム
- 開場: 1979年(昭和54年)4月14日
- 収容:31,552人
- 正式名称:西武ライオンズ球場
- 所在地:埼玉県所沢市大字上山口
- 内野:人工芝
- 外野:人工芝
- 両翼:100m
- 中堅:122m
- フェンス:3.2m
- 主な大会:ライオンズ主催
- 球場メシ:ライオンズ焼き
「夏の西武ドーム」「夏のベルーナ」とい季語が存在する野球場。西武球場に屋根をカポっとかぶせた西武ドームは観客を小籠包のセイロのように蒸す。その苦行が特別な体験をつくってくれる。壁がないので日本で唯一「場外ホームランの出るドーム球場」である。
所沢から西武池袋線に乗り換えると、ぶつかりそうな距離の家々の間を抜け、下山口駅を越えると木々の緑が深くなる。西武新宿駅から387円。1時間1分で着ける。凄いのが駅改札から球場までの近さ。駅近の球場で西武ドームの右に出るものはない。改札を出れば球場は目の前。
西武ドームの名物がブルペンかぶりつき。ピッチャーの神聖な儀式をファンと共有できる。しかし、ここは打者の球場。横浜スタジアム、グリーンスタジアム神戸に次いで3番目に得点が入りやすく、ホームランの出やすさも東京ドーム、神宮についで3番目。二塁打はハマスタ、千葉マリン、大阪ドームに次いで4番目。三塁打も千葉マリン、甲子園、京セラドームに次いで4番目と日本で最も長打が出やすい。どこを切り取ってもヒッターズ・パーク。
緑が深く、空気が重い。場内が暗い代わりに白球が見やすい。観客も選手も打球を見失うことがない。内野席に座ると、外野スタンドに差し込む光が眩しい。カラスが飛んで糞を落としていく草野球の匂い、昔の野球の粗野を残してくれる球場。野っ原の匂い、昭和の野球臭、昔のパ・リーグ感が残る。野球場はそれだけで素晴らしい。試合後はグラウンドでくつろげる日もある。
球場メシ
対戦相手によって味が違う「ラインオンズ焼き」。夏は冷やしあんこが涼をくれる。
コーラもライオンズブルー。埼玉名物・狭山ほうじ茶のソフトクリームも夏の必須スイーツ。
開催試合
かつては社会人野球や高校野球でも使用されていた西武ドーム。今はライオンズ主催試合がほとんど。この素晴らしい雰囲気をもっと地元密着で開放して欲しい。
試合後はファンをグラウンドに招いて天井でプラタネリウムなんてあったりする。ライオンの夢よ永遠に。
順不同:グリーンスタジアム神戸
- 開場:1988年3月6日
- 収容:35,000人
- 正式名称:神戸総合運動公園野球場
- 所在地:兵庫県神戸市須磨区緑台
- 内野:天然芝
- 外野:天然芝
- 両翼:99.1m
- 中堅:122m
- フェンス:2.45m
- 主な大会:オリックス主催、侍ジャパン壮行試合、少年野球
- 球場メシ:鶏塩もも
「グリーンスタジアム」の名前が示す全面の天然芝、球場周りを緑の木々が囲む美しい球場を「日本一の野球場」と呼ぶファンは少なくない。目の前の大阪湾から海風が吹き、土煙が舞い上がる。
特徴はフェンスの低さ。2.4mと日本で最も低い。バッターの打率も得点の入りやすさも横浜スタジアムに次ぐ2位のヒッターズ・パーク。なのにホームランの数は少なく、大阪ドーム、甲子園と同じく関西は本塁打が出にくい。
マウンドからホームベースまで引かれた土の直線はグリーンスタジアム神戸のみ。野球黎明期の1800年代の形式でメジャーでも少ない。ダグアウトから打者の花道が設けられているのもメジャー仕様。地元では少年野球の大会でも使われるというから贅沢だ。
球場メシ
球場メシは少なく鶏塩もも。関西は鶏出汁の文化。
開催試合
夏の甲子園が終わったあと、高校代表vs.大学代表の試合も行われる。8月のカクテル光線や5回裏のあとの花火も侍ジャパンを祝福する。
順不同:千葉マリンスタジアム
- 開場: 1990年(平成2年)3月24日
- 収容:29,635人
- 正式名称:千葉マリンスタジアム
- 所在地: 千葉県千葉市美浜区
- 内野:人工芝
- 外野:人工芝
- 両翼:99.5m
- 中堅:122m
- フェンス:3.3m
- 主な大会:マリーンズ主催、プレミア12、高校・大学野球
- 球場メシ:かずちゃんのモツ煮込み
東京湾岸にあり海風が勝敗を左右するザ・屋外球場。バックスクリーンには上空の風速を示す電光掲示板がある。ラッキーゾーンにあたる「ホームランラグーン」が2019年に設置されるまでは強烈な逆風のためパ・リーグで最も本塁打が出にくい球場だった。李承燁(イ・スンヨプ)が打った場外ホームランは今でも神話だ。
赤土が映え、どこからでも見やすく美しい。千葉マリンは12球団で最も三塁打が出やすく、二塁打もハマスタに次ぐ2位。長打が出やすくヒッターズパークでもありピッチャーズパークという不思議な球場。
孤島のような、ローマのコロシアムのような佇まい。マイアミの南国感もある。西船橋まで行き、武蔵野線で海浜幕張駅へ。冷房の効いていないプラットフォームには人が溢れ、汗が吹き出す。スタジアムまでは徒歩15分。駅から100円で送迎バスが出ているが、それも行列。夕陽がよく似合い、アクセスが良いと言えないが、他の球場とは別世界が待っている。かつて「光の球場」と呼ばれた南千住の東京スタジアムと反対に、千葉マリンスタジアムは照明塔を設置せず球場の円に沿ったLED。それでも此処には光の球場の匂いがある。同じ千葉の舞浜にある夢の国より夢の国である。
球場メシ
千葉マリン名物モツ煮込みの中でも逸品が『ストライク』で買える「かずちゃんのもつ煮込み」650円。1992年から販売している。全国の球場メシでナンバーワン。
開催試合
ロッテの主催試合では佐々木朗希の完全試合や山本由伸のノーヒット・ノーランの舞台となった。アマチュア野球の殿堂であり高校、大学、社会人野球の試合も行う。さらには2019年のプレミア12でスーパーラウンドが行われたストライクゾーンの広大な球場である。2023年アジアCSの際も試合前日の練習に開放。日本野球への貢献度は計り知れない。
順不同:横浜スタジアム
- 開場:1978年(昭和53年)4月4日
- 収容:33,912人
- 正式名称:横浜スタジアム
- 所在地:神奈川県横浜市中区横浜公園
- 内野:人工芝
- 外野:人工芝
- 両翼:94.2m
- 中堅:117.7m
- フェンス:5.0m
- 主な大会:ベイスターズ主催、全日本少年軟式野球大会
- 球場メシ:みかん氷
関内駅の赤煉瓦を背に、数メートル歩くと野球場が見えてくる。命名権が溢れる世の中で「スタジアム」に地名が入っているのはハマスタだけになった。球場名から「風」を感じられる。横浜スタジアムの前身・横浜公園球場はベーブ・ルースやルー・ゲーリッグがプレーした。
昼は赤煉瓦、夜はナイター照明。青空が仕事を終えると闇にうっとり地上の星が光る。屋外球場のナイターは時間を愛でるワインのような恍惚がある。
ハマスタ名物のYの字の照明灯。ブルペンを外野スタンド下に収めたことでフェンスの高さは5メートル。ハマっ子のプライドの高さのように12球団イチの高身長。歴代のプロ野球の球場で最も打率が高く、得点が入りやすい打者有利のヒッターズ・パーク。やたら二塁打が出やすい代わりに三塁打、ホームランが出にくい。野球ファンはスタジアムからの贈り物を受け取り、また野球場に帰ってくる。ハマの風に乗って。
球場メシ
名物は「みかん氷」。甲子園のかちわりのような清涼を届けてくれる。「東の甲子園」と呼ばれるハマスタにふさわしい。
青星寮カレー900円。目玉チャーハンは今永昇太の好物。ハマには中華が似合う。
開催試合
ベイスターズの試合以外にも全日本少年軟式野球大会の舞台であり、「東の甲子園」と呼ばれる所以。はじめてハマスタを訪れたのも中学生の軟式全国大会だった。
スターマンはマスコットの中で12球団イチの可愛さを誇る。マイナスイオンを出し、勝敗がどうでもよくなる不思議なチカラがある。腰にタオルを刺してるのがファッショナブル。地上の星は明日も野球ファンを癒す。
順不同:大阪ドーム
- 開場: 1997年(平成9年)3月1日
- 収容:36,220人
- 正式名称:大阪ドーム
- 所在地: 大阪府大阪市西区千代崎
- 内野:人工芝
- 外野:人工芝
- 両翼:100m
- 中堅:122m
- フェンス:4.2m
- 主な大会:侍ジャパン強化試合、バファローズ主催、社会人や旧日本選手権
- 球場メシ:いてまえドッグ
東京、福岡に続く3番目のドーム球場として1997年に誕生。たこ焼きドームの愛称、スタンドが真円形で、すべての席が二塁ベース後方に向いている。光の照り返しが少なく目に優しい。難波から阪神電車で4分。1時間以内に4万人が捌ける東京ドームと違い、環状線や阪神電車、地下鉄と駅が分散するのに帰りは混む。
6つのリングを重ねた天井は宇宙船に入ったような気分。左右中間がナゴヤドームと同じく116mと深く、二塁打はハマスタ、千葉マリンに続いて3番目に出やすいがホームランが生まれにくい。いてまえ打線のイメージとは逆に、ナゴヤドーム、楽天ボールパークに次いで3番目に本塁打が生まれにくい球場。タフィー・ローズや中村紀洋がいかに凄かったか。
球場メシ
座席の幅とほぼ同じ長さ、30センチを超える、いてまえドッグ。
『いてまえ猛牛カレー』1,200円とメロンソーダ300円。どこまでも庶民の味の甲子園カレーと違い、欧風の少し高級感ある味。
開催試合
社会人野球日本選手権の開催も重要だが、それ以上に侍ジャパンの強化試合の聖地と呼べる。大谷翔平が2本のホームランをかっ飛ばし、ペッパー・ミル誕生の地。2024年の欧州代表との試合ではリレーながら完全試合の伝説が生まれた。関西人としてはWBCやプレミア12の公式戦の開催を望む気持ちもあるが、東京ドームの本戦に上京する前の大事な中継地点を継続してもらいたい。
順不同:福岡ドーム
- 開場:1993年(平成5年)4月2日
- 収容:40,062人
- 正式名称:福岡ドーム
- 所在地: 福岡県福岡市中央区地行浜
- 内野:人工芝
- 外野:人工芝
- 両翼:100m
- 中堅:122m
- フェンス:4.2m
- 主な大会:ホークス主催、2013年WBC
- 球場メシ:ドームドック、ドームバーガー
日本初の開閉式ドームとして誕生し、2013年WBC1次ラウンドの開幕球場。ドーム球場の建築面積では日本一。4万人以上を収容できるのは甲子園、東京ドームと福岡ドームの3つだけ。高さ68mの屋根。グラウンドを見渡すとコンパスで描いたような真円形のコロシアム球場。最も平成の匂いがする野球場。
博多湾に面し、その先には玄界灘。最寄駅は唐人町(とうじんまち)駅。博多駅から地下鉄で11分と少し離れている。
Bon Joviの『Because we can』が似合う力強い雰囲気。両翼100m、中堅122m。フェンスの高さが4.2mは大阪ドームと同じスペック。それでも雰囲気が大きく違うから不思議だ。ボールパーク化が進むなかで、巨人とホークスのセ・パ2強はクラシカルな球場を残してほしい。
球場メシ
食の街・福岡。球場の周りを23時半まで営業している居酒屋「鷹正」の赤提灯が囲み、ドーム内の球場メシは「スタジアム横丁」で全支配下選手のコラボグルメがある。ドームドッグを食べたが普通。『ギータのチキンガーリックライス』1450円。フルスイング級の美味さ。ニンニク・マッドネスにとってコーラが一瞬に消える。ドームドックとコーラを追加した。
開催試合
再びWBCやプレミア12の侍ジャパンの試合が行われる日は来るのだろうか。国際都市・福岡には国際試合が似合う。
順不同:SOKKENスタジアム
- 開場:2014年2月(球場の命名)
- 収容:5500人
- 正式名称:宮崎市清武総合運動公園
- 所在地: 宮崎県宮崎市清武町今泉甲
- 内野:混合土
- 外野:人工芝
- 両翼:100m
- 中堅:122m
- フェンス:不明
- 主な大会:プレミア12、アジアCS合宿
- 球場メシ:釜揚げうどん、宮崎牛の串焼き
人口3万人弱、北には美しい清武川が流れ、南は山頂から日向灘を望む荒平山に挟まれた宮崎市清武町にあるスタジアム。最寄りの清武駅からは徒歩40ほどかかる。黒潮が流れる太平洋まで4キロと近く、雨は多いが温暖な気候から秋の侍ジャパンの合宿地となっている。
名前の「SOKKEN」は郷土の儒学者・安井息軒(やすい そっけん)にちなんだもの。観客席は5,500席と少ないが、両翼100m、センターまで122mあり東京ドームと同じ。内野は完全な土、外野は人工芝。秋は風が強く肌寒い。
侍ジャパンの合宿は世界でもトップクラスの野球を眼の前で、しかも無料で見られる。キャンプは夕方までなので、子どもだけでも観に来られる。こうして野球文化は育つ。
球場メシ
侍ジャパンの合宿中、球場外にSAMURAI PARK(侍パーク)のキッチンカーの出店ができる。侍ジャパンは地域おこしも兼ねている。
「釜揚げうどん」600円と「宮崎牛の串焼き」800円。たまらない美味しさ。クセになう。これぞキャンプ飯。
開催試合
2024年のプレミア12も合宿の舞台。夕陽に照らされ、土煙をまいて滑る。太陽と埃の中で。宮崎で見る野球は胸を締めつけてくれる。SOKKENスタジアムは本戦への向けての滑走路となる。
順不同:ジャイアンツ球場
- 開場: 1985年10月4日
- 収容:4,000人
- 正式名称:読売ジャイアンツ球場
- 所在地:神奈川県川崎市多摩区菅仙谷
- 内野:黒土(クレー舗装)
- 外野:天然芝
- 両翼:97.6m
- 中堅:121.9m
- フェンス:不明
- 主な大会:ファーム
- 球場メシ:ジャイアンツ・キュロス
「ファーム(農場)」と呼ばれるように、日本のプロ野球を育てるのは2軍の野球場である。1軍は収益、2軍は育成。一軍の野球場にはない心地よい泥臭さと真っ直ぐがある。
ジャイアンツ球場は東京ではなく、神奈川県川崎市にある。京王よみうりランド駅から、よみうりV通り、巨人への道を歩いて球場に向かう。坂がつらく無料の送迎バスが出ているが、巨人ファンは自分の足で登りたい。
猛暑の屋外球場。夏は16時プレイボールの薄暮の野球が観られる。フィールド・オブ・ドリームスのような夕暮れの中、ナイター照明が灯る。それは選手たちの夢を照らす希望の光である。
球場メシ
必ず食べたいのがジャイアンツ・キュロス500円。東京ドームで販売しておらず、ジャイアンツ球場のアイデンティティ。Sweet Emotion。
もうひとつの名物が『多摩のシャモ親子丼』。坂本勇人のお気に入りで、体調が悪いとき東京ドームに届けてほしいと、わざわざ女将さんに頼んだほど。歯応えたっぷりの軍鶏肉は、まさにアスリート飯。出汁が染み込んだ甘めの玉子とバランスがよく、坂本の内角打ちと同じ天才的センス。
開催試合
岡本和真もジャイアンツ球場を経て東京ドームへと羽ばたいた。次に羽ばたくのは浅野翔吾。未来のジャイアンツ戦士への滑走路。
若き血と汗が躍動する優勝決定戦は現場で観てこそ。
野球場で逢おう
「野球」は「野っ原でやる野生の球技」。野球場はワインの畑(テロワール)のように文化を育む土壌。良い野球場からは良い野球が生まれる。日本の野球が母国アメリカをも凌ぐほど素晴らしいのはイコール野球場の素晴らしさ。野球場の多くが川や海の近くに造られる。野球選手も野球ファンも川や海を渡る旅人。野球場は未来への大航海の港。野球場で逢おう。