侍ジャパンの開幕カードの相手は前回大会に続いて2度目のプレミア12出場、そしてWBCベスト8のオーストラリア代表。WBC、アジアCSでは7-1、10-0と完勝したものの、今回のプレミア12が最も手強い。特に打線は強力。今大会で最も躍進する可能性のあるコアラのマーチ。日本のエース髙橋宏斗が鍵を握る。
※メンバーは怪我などにより変更の可能性あり
監督デーブ・ニルソン
オーストラリア代表の監督はWBC、アジアCSに続いてデーブ・ニルソン。中日ドラゴンズでは「ディンゴ」の登録名で井端監督と共に汗を流した同僚。アジアCSでは18歳のジャック・ブシェルを日本戦で先発させるなど、アジアCSの意義を体現した。守備練習を最も大切にする監督で、アジアCSで多かった稚守をどこまで改善できているか。オーストラリアのプロリーグABL(オーストラリアン・ベースボールリーグ)は全8チームでリーグ戦は40試合。南半球で日本と季節が逆のため11月15日にシーズン開幕。主力選手はプレミア12に出場する。
オーストラリア代表の日程
- 13日 vs.日本(ナゴヤドーム)3-9⚫️
- 15日 vs.ドミニカ(台湾・天母)5-0◯
- 16日 vs.キューバ(台湾・天母)
- 17日 vs.台湾(台湾・台北ドーム)
- 18日 vs.韓国(台湾・天母)
※グループBで2位以内に入れば東京ドームのスーパーラウンドに進出
オーストラリアも日本と同じく移動の多い日程。13日に侍ジャパンとの試合を名古屋で終えた翌日に台湾に飛び、4連戦。最終日の韓国戦は前夜にナイターを戦ったあとのデーゲーム。最も疲労の溜まる状態となる。オーストラリアvs.韓国はWBCもアジアCSも東京ドームで観た。今回も天母棒球場で観戦。なにかと縁のあるカード。
府中合宿のスケジュール
日程 | 曜日 | 開始時間 | 対戦相手 |
---|---|---|---|
11月3日 | 日曜日 | 午後0時半 | エイジェック |
11月6日 | 水曜日 | 正午 | かずさマジック |
11月7日 | 木曜日 | 午後1時 | セガサミー |
11月8日 | 金曜日 | 午後1時 | 日本通運 |
11月10日 | 日曜日 | 午後0時半 | 全足利クラブ |
選手ロスターの特徴と注目
選ばれた28人の代表選手は彩りが豊か。
- MLB経験のある選手3名
- 2024年MLBドラフト全体1位指名選手
- WBCもしくはプレミア12の経験が選手25名
オーストラリア代表は去年のWBC、アジアCSに出場したメンバーが多い。WBCが完結編にならず、to be continuedになっていることが素晴らしい。代表メンバーは10月31日から毎年の恒例である東京の府中市で10日間のトレーニングキャンプを行う。全員は紹介しきれないので、注目選手をピックアップする。
内野手
トラヴィス・バザーナ(背番号4)
- 生年月日:2002年8月28日(22歳)
- 身長:182cm
- 投打:右投左打
- 代表:トップチーム初選出
オーストラリア最注目の選手。黄金ルーキーがついにヴェールを脱ぐ。高校卒業後、ABL(オーストラリアのプロリーグ)で3年間プレーし、オレゴン州立大学に渡米。今年は大学58試合で打率.416、28本塁打、66打点の成績を残し、オーストラリア人初、かつ二塁手としても初となるMLBドラフト全体1位指名をクリーブランド・ガーディアンズから受けた。井端監督も3月の欧州代表との試合で大学生を起用したが、オーストラリアは本戦でも大学生のスーパールーキーを選出。ナゴヤドームで代表デビューを飾る。
リクソン・ウィングローブ(背番号52)
- 生年月日:2000年5月23日(24歳)
- 身長:196cm
- 投打:右投左打
- 代表:2023年WBC、2023年アジアCS
24歳に見えない風格と196センチの巨漢。WBCでは準々決勝のキューバ戦でホームランを打つ活躍を見せたが、アジアCSではエラー連発と4試合で12打数ノーヒットと完全に足を引っ張ってしまった。今やオーストラリア屈指の打者。今季のABLで活躍した一塁手のジェイク・ボーウィ(37試合、打率.301、出塁率.400、本塁打5本、打点27)とスタメンを争う。アジアCSの悔しさを胸にプレミア12での挽回に挑む。
ロビー・グレンディニング(背番号6)
- 生年月日:1995年10月6日(29歳)
- 身長:189cm
- 投打:右投右打
- 代表:2023年WBC
WBC韓国戦で3番打者として逆転スリーランホームラン。2017年から2023年までMLBのマイナーリーグで過ごし、2024年はメキシカンリーグでプレー。強力オーストラリア打線の一角。
ダリル・ジョージ(背番号7)
- 生年月日:1993年3月14日(31歳)
- 身長:186cm
- 投打:右投右打
- 代表:2023年WBC、2019年プレミア12
WBCで4番を務め、東京ドームに「レッツ・ゴー・ジョージ」の歓声を響かせた。3年前のABLのMVP。2015年にはオリックス・バファローズでプレーした。
Amazon Kindle:WBC 球春のマイアミ
ジェイク・ボーウィ(背番号34)
- 生年月日:1996年7月16日(28歳)
- 身長:183cm
- 投打:右投左打
- 代表:2023年WBC
強打者&投手。オーストラリアの二刀流。体型はまったく違うが打撃フォームは大谷翔平に似ている。母国では「Shohei Bo-tani」と呼ばれている選手。
捕手
アレックス・ホール(背番号10)
- 生年月日:1999年6月8日(25歳)
- 身長:177cm
- 投打:右投両打
- 代表:2023年WBC、2023アジアCS
3月のWBCの日本戦では髙橋宏斗からホームランを打った。11月のアジアCSで捕手ベストナインを受賞したオーストラリアのナンバーワン選手。韓国戦では大会1号のホームランを放った。かつてはミルウォーキー・ブルワーズで5シーズンを過ごし、今季はABLでプレー。昨年のアジアCSから、さらに飛躍しているか注目。
ロービー・パーキンス(背番号9)
- 生年月日:1994年5月29日(30歳)
- 身長:188cm
- 投打:右投右打
- 代表:2019年プレミア12、2023年WBC
過去2回のWBC、前回のプレミア12と経験豊富な30歳。アレックス・ホールと2枚看板の捕手。昨年のWBCでは初戦の韓国戦で3点ホームラン。かつてはコロラド・ ロッキーズで 6シーズンもプレーし、トリプルAまで昇格。今季はABLでプレー。
Amazon Kindle:WBC 球春のマイアミ
外野手・ユーティリティ
ソロモン・マグワイア(背番号50)
- 生年月日:2003年3月4日(21歳)
- 身長:180cm
- 投打:右投左打
- 代表:トップチーム初選出
トップチームの代表は初選出となる21歳のソロモン・マグワイア。ピッツバーグ・パイレーツ傘下のマイナーリーグに所属し、2024年のU-23ワールドカップで本塁打2本、打点9と活躍。トラビス・バザーナと同じくチームに若き風と勢いをつける。
アーロン・ホワイトフィールド(背番号2)
- 生年月日:1996年9月2日(28歳)
- 身長:194cm
- 投打:右投右打
- 代表:2019年プレミア12、2023アジアCS
アジアCSの日本戦でフェンスに激突しながらのキャッチを見せた守備の名手。2020年にミネソタ・ツインズ、2022年にロサンゼルス・エンゼルスとMLB経験者でもある。今季はABLでプレー。WBCに出場したウルリッヒ・ボヤルスキー、主将のティム・ケネリーとともに外野の一角を担う。
リアム・スペンス(背番号15)
- 生年月日:1998年4月9日(26歳)
- 身長:185cm
- 投打:右投右打
- 代表:2023年アジアCS、2023年WBC
7つのポジションを守れることから「ユーティリティ・プレーヤー」というオーストラリア独自の登録となるのがリアム・スペンス。21年MLBドラフト5巡目でカブスに指名されたオーストラリア期待の星。WBCでは大勢、高橋宏斗と対戦して無安打。アジアCSでは打者としては活躍したが、ショートの守備ではエラーを重ねた。1年間でどこまで飛躍しているか注目。
投手
サム・ホランド(背番号40)
- 生年月日:1994年2月20日(30歳)
- 身長:195cm
- 投打:右投右打
- 代表:2023年アジアCS、2023年WBC
WBCで日本と韓国の打者を翻弄した変則サイドスロー。アジアCSでもエースとして活躍。先発とリリーフ両方できる貴重な存在。
ミッチ・ニューンボーン(背番号22)
- 生年月日:1997年6月27日(27歳)
- 身長:183cm
- 投打:右投右打
- 代表:2023年WBC
オーストラリアのエース格。WBCで3試合投げ、その内容が評価され、フィラデルフィア・フィリーズとマイナー契約を結んだ。日本との開幕戦での登板が濃厚。
ウィル・シェリフ(背番号56)
- 生年月日:2002年6月2日(22歳)
- 身長:183cm
- 投打:左投左打
- 代表:2023年WBC、2023年アジアCS
若き22歳の左腕。WBCで大谷翔平に特大の看板ホームランを打たれたピッチャー。アジアCSでは2試合にリリーフ登板し活躍。プレミア12で日本との対戦があるか。
コーエン・ウィン(背番号31)
- 生年月日:1999年1月25日(25歳)
- 身長:193cm
- 投打:右投右打
- 代表:2023年WBC、2023年アジアCS
アジアCSで最も印象に残った投手。ベストナインを受賞しても良かった。韓国戦と3位決定戦(台湾戦)でリリーフ。台湾戦では5回から8回まで打者12人を圧巻のパーフェクト、WBCの中国戦でもリリーフで打者10人と対戦し無安打無失点。オーストラリアのトップアーム。プレミア12で最も観たかったオーストラリアの選手。
Amazon Kindle:WBC 球春のマイアミ
トッド・ヴァン・スティーンセル(背番号21)
- 生年月日: 1991年1月14日(33歳)
- 身長:188cm
- 投打:右投右打
- 代表:2023年WBC
オーストラリアの守護神。WBCでは大谷翔平から三振を奪った。150キロ近い速球と大きく足を上げるダイナミックな投球フォームが特徴。
ルーク・ウィルキンス(背番号26)
- 生年月日: 1989年12月27日(34歳)
- 身長:183cm
- 投打:右投右打
- 代表:2019年プレミア12、2023年WBC
オランダのプロリーグに所属。前回のプレミア12の日本戦では周東に2度の盗塁とスクイズで点を奪われた。素晴らしきナイスガイ。
オーストラリア選手の特徴
WBCではベスト8と躍動したものの、アジアCSでは4試合で10失策(記録員が甘いだけで実際は倍近くの守備ミス)により4戦全敗。前回のプレミア12のようにスーパーラウンド進出を狙う。オーストラリアの特徴は体格の大きさ。投手は変則フォームが多く、バッターは右打者が多い。日本のような右投げ左打ちが少ないのが特徴。点を取られたら倍取り返す半沢直樹ベースボールは今大会も健在。
11月7日(木)セガサミー練習試合
府中市民球場で練習試合を見る前、球場の目の前にあるセブンイレブンに行くと、まさかの選手たちが昼ごはんを買っていた。あと1時間で試合だが、このタイミングで食べるのは驚き。
球場へ向かう途中ではトラヴィス・バザーナとルーク・ウィルキンスが快く写真撮影に応じてくれた。
開場は30分前。オーストラリア選手の練習は観られない。雲ひとつない快晴。地方球場の匂いが心地いい。田舎育ちだから都会の野球場には憧れを、地方球場には懐かしさを覚える。
トラヴィス・バザーナは戦闘モード。若者から戦士に変わる。
クローザーのトッド・ヴァン・スティーンセルから投げるブルペンデー。1イニングずつ交代。ボールのせいなのかコントロールに苦しむ投手が目立つ。
ヴェールを脱いだトラヴィス・バザーナ。第1打席は四球を選ぶ。
すかさず盗塁。手袋をつけずにヘッドスライディング。怪我だけはしないでほしい。
失策こそつかないが、オーストラリアは稚守を連発。ライトのティム・ケネリーや捕手のアレックス・ホールがポロポロとお手玉。
稚守から失点につながり2回に3点をとられる。しかし、点を取られてからがオーストラリアの本領発揮。その裏、8番リアム・スペンスのタイムリーで1点を返す。
守備ではミス連発のアレックス・ホールもバッティングで汚名返上。7番を打っているのが謎だが、それほど豪州打線は層が厚い。
トラヴィス・バザーナは猛打賞。初見のピッチャーに大振りせず左右に打球を振り分ける。個人成績よりチームの勝利を優先できる心構え、野球脳の良さ。1試合だけでMLB期待のナンバーワンに納得。侍ジャパンとの本戦がますます愉しみになった。
6回に飛び出したロビー・グレンディニングの逆転スリーランホームランなのでオーストラリアが殴り合いを制す。
16時になると西の空に三日月、ナイター照明が灯った。スコアは11-7。
強風による相手のエラーにも救われた。
真夏の宮崎でキャンプを張る侍ジャパンとは対照的に、真冬のような寒さで合宿するオーストラリア代表。緻密な野球と、大胆なベースボール。両者が中間地点の名古屋で激突。関ヶ原の合戦が始まるような胸の高鳴りがある。やはりプレミア12は面白い。国際大会は世界地図を広げてくれる。