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ベースボール白書

野球観戦、野球考察。活字ベースボールを届けます。『WBC 球春のマイアミ』をリリースしました。

蒼き龍〜髙橋宏斗

雲が仕事をしなくなって久しい。青空は気分を明るくしてくれるが、こうも毎日続くとありがたみが薄れる。人間は贅沢な生きものだ。

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2023年7月29日土曜。朝8時から大谷翔平のホームランを観て2017年のWBC中国戦をYouTubeで観てゴロゴロ過ごす。野球中毒の身体になって半年。まだまだ野球漬けの日々は終わらない。昼下がりの東京ドームは4月の開幕カードより混んでいた。人口が増え続ける東京と同じく、観客の数も増えているのだろうか。

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12時13分、一塁側22列目に座ると中日のノックだった。都市対抗や大学野球の7分間の守備練習と違い、ゆとりがある。牧歌的な光景。

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岡本和真プロデュースの「よくばり和真のテリチキエッグドッグ」920円と「ジャイアンツソーダ」500円。1,420円の豪華ランチ。ホットドッグはともかく、ジャイアンツソーダはマンゴーと炭酸の相性が抜群。夏のドーム観戦の定番にしたい。

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試合開始が近づくと先発ピッチャーが発表。背番号19対決、ともにチームの未来を担うエース候補。

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上原浩治、菅野智之という巨人のエース番号を継承する山﨑伊織。ドラフト前から獲得を切望し、「将来の巨人のエースだ」とジャイアンツファンの仲間に言い続け、ようやく観ることができた。しかし、今日のお目当ては他にいる。

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高卒3年目の二十歳にして侍ジャパンに選出された若き竜、髙橋宏斗。3試合1イニングずつ投げ、決勝のアメリカ戦では上位打線を抑えた。

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本来なら大学2回生の小龍が銀河系軍団のアメリカを呑み込んだ。これまでの野球の常識に縛られない、未知との遭遇。秋に出版するWBCの本を書く上で、髙橋を生で観ておきたい。予告先発を見たときは何度もガッツポーズした。今日のチケットはWBCの中国戦を一緒に観た友人に誘われ、1ヶ月以上前から取ってくれたので、髙橋が投げるのは偶然。いや、必然だったのかもしれない。

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あどけなさの残る若武者は、敵地も関係なく、グラウンドを駆け回る。縦横無尽に、無邪気に走り回る。

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中日ファンのレフトスタンドが近づくと帽子をとって一礼。決闘前のピッチャーの孤独が好きだ。

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自軍のベンチ前ではなく、センターの位置でストレッチ。アウェーも関係なし。壁がない。こんなピッチャーを観たことがない。大海原を自由に泳ぎまわる蒼き龍。髙橋宏斗の魅力と強靭さを見た。

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1回裏、マウンドに上がるドラゴンズブルー。

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この日は絶不調だったのが、立ち上がりが悪く、ボールがすべて高めに浮く。

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5回を投げ、球数94、被安打8、2四球、1四球、5失点で三振は3つしか奪えなかった。

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投手では珍しく、右腕と左腕が一直線となるショートアームのテークバック。水平線を描くように美しい。そして柔軟な肩甲骨周りをフルに活かしたフォームから放たれる球速は常時150キロを超える。148、149キロは投げられるが、あと1、2キロの壁を越えられない投手がごまんといるなか、髙橋のストレートは一度も150キロを下回らない。

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そして、決め球のSFF。アメリカの記者から「悪魔のスプリット」と恐れられた。数多くの彗星を観てきたが、これほど直球と見分けがつかないスプリットは初めて。

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成績は振るわなかったが、ずっと見つめていたいと思う。エースの資質。顔はおとなしいが、髙橋宏斗のオーラは蒼き炎に包まれている。