ベースボール白書

野球観戦、野球考察。活字ベースボールを届けます。『WBC 球春のマイアミ』をリリースしました。

高校野球

秋季近畿地区高校野球大会〜まほろばの熱球、新しい物語の始まりに

10月の風が、球場の芝をかすかに揺らす。夏の喧騒が遠ざかり、グラウンドには新しい声が響く。秋季近畿地区高校野球大会は、そんな季節の変わり目に静かに幕を開ける。 2025年10月18日。大和三山・畝傍山が見守る、まほろばの古都・橿原。さとやくスタジアム…

高校野球秋季大会〜古都に吹く秋風、紅葉の都に響くスパイクの音

夏の甲子園が幕を閉じ、蝉の声が遠のき、鴨川に涼風が流れはじめる頃、京都の球児たちはもう次の舞台を見据えている。それが秋季京都府高等学校野球大会だ。 夏の大会を戦い終えた三年生が引退し、新たに二年生を中心とした新チームとして挑む最初の公式戦。…

『栄冠は君に輝く』夏空に響く甲子園、高校球児の汗を束ねた旋律

夏の甲子園には、始まりを告げる音楽がある。アルプスに並ぶブラスバンドのラッパが鳴るよりも早く、開会式のスピーカーから流れてくる旋律。『栄冠は君に輝く』である。 その旋律は、行進曲のように明るくもなく、軍歌のように威圧的でもない。どこか静かな…

甲子園、深紅の大優勝旗〜燃え尽きた夏を照らす永遠の到達点

夏の甲子園を制したチームに授けられるのが、正式名称「大深紅旗」、通称「深紅の大優勝旗」である。春のセンバツに用いられる「紫紺旗」と並び、高校野球を象徴する存在だ。紫紺が芽吹きの季節にふさわしい静けさを帯びる色とすれば、深紅は真夏の太陽に映…

甲子園の土〜夏を刻む舞台、踏みしめられた記憶

無数のスパイクに踏みしめられる甲子園の土は、汗や涙、歓喜、悔しさ、すべてを受け止める。甲子園の土は「生きもの」とも言われる。乾いて硬くなれば打球は速くなり、少し動くだけで土埃が舞う。そこでグラウンドには散水を行い、弾力のある状態を保つ。厚…

甲子園の芝生ー歓声の下で揺れる芝、球児を受け止める緑

甲子園球場が開場した1924年、そのグラウンドは一面の土だった。白線が引かれ、黒土が広がるだけの舞台。二年後には、外野にクローバーなどの草が自生し、芝の代役を果たすようになる。 やがて1928年から翌29年にかけて、外野に本格的な芝が張られ、甲子園は…

甲子園かちわり氷〜炎天下の救い、掌に溶けた夏、スタジアムの命水

甲子園には、ひとつの名物がある。それが「かちわり氷」だ。 かちわりは、大きな純氷を小さく割ったもの。袋に入った氷を口に含み、溶けた氷水を飲む。あるいは額に乗せて涼をとる。真夏の直射日光が照りつけるスタンドで、これがなければ観戦そのものが危う…

甲子園アルプススタンドの記憶〜声で戦う者たち、背番号なきユニホーム

高校球児は甲子園のグラウンドを目指す。その夏のすべてを懸けて、マウンドへ、打席へと歩みを進める。 同じ時間、同じ夢を背負って目指す場所がもうひとつある。それがアルプススタンドだ。選手の家族も、仲間も、応援団も、校歌を知る者も、があの場所に集…

甲子園のヒマラヤスタンド〜アルプスの対岸、グラウンドを見下ろす小さな山脈

野球の外野席というのは、値段が安い。誰にでも開かれている。 甲子園もそうだ。アルプス席のように学校ごとに色づけされることもない。そこにあるのは、ただ野球が見たいという欲望だけだ。 夏の全国大会、第22回大会の昭和21年(1936年)には外野スタンド…

甲子園の浜風〜スコアに残らない主役、球を戻し、夏に揺れる

勝敗を分けるのは、バッテリーの配球でも、監督の采配でもなく、甲子園に住みついた風そのものだったりする。 甲子園の歴史を振り返れば、浜風が試合を支配した場面は数えきれない。けれども記録には残らない。スコアブックに風向きを書く欄はなく、公式記録…

甲子園のスコアーボード〜沈黙の証人、九つのマスに閉じ込められた物語

真夏の陽射しを浴びながら、数字だけを静かに刻み続ける甲子園のスコアボード。そこには、延長戦での死闘も、一瞬の逆転劇も、歓喜と涙の入り混じる物語も、すべてが簡潔な数字として収まっていく。その数字の背後には、幾度となく姿を変えながら時代を歩ん…

甲子園球場のサイレン〜夏を閉じ込めた16秒、銀傘の下、あの夏を呼び戻す

写真はイメージ図 春と夏の甲子園で鳴り響くサイレンは、内野席を覆う銀傘の下に設置されており、試合開始前や終了後に鳴る甲子園の風物詩だ。正式には、試合前のシートノック、プレイボール、ゲームセット、そして8月15日正午の計4回、放送室にいるウグイス…

甲子園球場「銀傘」:聖地を見守る銀色の大屋根

甲子園球場が開場したのは1924年(大正13年)8月1日。そのときから、一塁側から三塁側までを大きく覆う半円形の屋根がスタンドの上に架けられていた。 金属の骨組みにトタン板を張ったその構造が、陽光を受けて銀色に輝くことから、やがて人々はそれを「銀傘…

甲子園のツタ、緑の衣をまとう聖地、外壁を覆う青春の色

高校野球の聖地・甲子園球場。そのシンボルが、外壁を覆う蔦(ツタ)だ。使われているのは、ブドウ科のナツヅタで、季節ごとに違った表情を見せる。常緑樹のため、冬でも緑の葉を蔓(つる)に残す。日陰になりやすい場所では、日陰に強いキヅタという別種も…

野球のエース、背番号1の奥にあるもの〜左腕の投影、永遠がそこにいた

陽炎のように揺れる内野の向こうで、ひとりの投手が立っている。 帽子の庇を深く下ろし、マウンドを蹴る足に力を込める。8月の風が、背中に貼りついたユニフォームの「1」をなぞっていく。 その投手を、我々は「エース」と呼ぶ。 数字で言えば「1」という背…

夏の甲子園:開会式、開幕試合、八月のカクテル光線

開幕試合 八月のカクテル光線 全国高校野球選手権大会の開会式。代表49校が、ひとつの球場に、ひとつのルールに従って歩みを進める。全員が胸を張り、決められたテンポで、誰かに見られていることを意識しながら、誰かに見られていることなど関係ないかのよ…

甲子園への道:京都大会、西京極の陽炎に、夏の夢は揺れている

京都の夏は、湿気がやわらかく体にまとわりつく。街を歩けば、石畳からじんわりと熱が立ちのぼり、蝉の声が時間にしみ込んでくる。そんな蒸し返すような午後に、太陽の下に集う高校生たちがいる。汗にまみれながら、静かに、何かを信じている。 「甲子園へ行…

全国高校野球選手権大会、夏の甲子園〜球児たちの365日、夏のすべて

「夏の甲子園」は正式名称を「全国高等学校野球選手権大会」といい、毎年8月に阪神甲子園球場で開催される。高校野球最大の全国大会である。 春の「選抜高等学校野球大会(センバツ)」と並ぶ二大大会のひとつで、全国の頂点を決める“真夏の決戦”。49代表校…

高校野球 春季大会〜平安高校と川口知哉が京都に夏を呼ぶ

高校野球の春季大会 3月の 選抜(センバツ)高校野球が終わると、4月に各都道府県で春季大会が始まる。夏の甲子園の出場には直接、影響しない。ベスト8に進んだ高校が、夏の地方大会のシード権が得られる。 そんな晩春の風が吹くグラウンドに、本当の球春が…

第97回センバツ高校野球〜白球を、春の風に託して

春の光を浴びながら、阪神電車が静かに走る。湾岸の風を連れて淀川を渡り、武庫川を越えると、車内にアナウンスが響く。 「次は甲子園、甲子園。球場前です。甲子園の次は西宮に停まります」 夢の球場は始発でも終着でもない。通過点。 2024年、甲子園球場は…

選抜(センバツ)高校野球、春の甲子園の歴史・見どころ

「センバツ」は正式名称を「選抜高等学校野球大会」といい、春に阪神甲子園球場で開催される高校野球の全国大会。 「全国高等学校野球選手権大会(夏の甲子園)」と並ぶ全国大会であり、32校が「紫紺の大優勝旗」を争う。主催は日本高等学校野球連盟(高野連…

第106回全国高等学校野球選手権大会

猛暑が続く令和6年の夏、東京では2日続けて人生で経験したことのない大雨が降った。梅田に向かう深夜バス、静岡では大雨による交通規制が出るほどの土砂降り。高校野球が熱を帯びる関西では17日間、好天に恵まれた。甲子園の100周年を神様も祝福。 8月23日、…

イチロー選抜vs高校野球女子選抜〜ビューティフル・ドリーマーたち

草野球から侍ジャパンまで。令和6年は空前絶後の激動だ。ようやく秋らしく涼しい朝を迎えた2024年9月23日(月)。寒さで起きるなんて何ヶ月ぶりだろうか。なか卯の朝ご飯、店内はglobe『DEPARTURES』が流れていた。野球界にとっても今日は新たな旅立ち。 甲…

グリーンスタジアム神戸〜八月のカクテル光線

甲子園や大阪ドームと違い、野球ファンしか名前を知らず、オリックスの準本拠地である「グリーンスタジアム神戸」。正式名称は「神戸総合運動公園野球場」 神戸にあるのにアクセスは不便。神戸市営地下鉄の西神・山手線で「総合運動公園駅」を目指す。すでに…

遙かなる甲子園〜100年目の詩

2024年8月23日、決勝戦の甲子園球場 令和6年、阪神甲子園球場は100周年を迎えた。夏、9回、金属バット。三重奏が織りなすシンフォニーは日本の八月を照らすカクテル光線であり打ち上げ花火。野球は反時計回りにベースを一周するボールゲーム。時間の法則に逆…