ベースボール白書

野球観戦、野球考察。活字ベースボールを届けます。『WBC 球春のマイアミ』をリリースしました。

韓国プロ野球の球都・釜山のサジク野球場

韓国プロ野球の球都・釜山のサジク野球場

韓国の釜山は博多港からフェリーで3時間。陸路で東京に行くより早く「日帰り釜山」の小旅行を経験している人もいる。長崎の対馬からも釜山の山が見え、戦前は釜山の病院に通う島民もいた。2004年の映画『チルソクの夏』では下関の女子高生が韓国人の友達に夏休みに会いにいく。

韓国プロ野球の球都・釜山のサジク野球場

韓国プロ野球は1982年に6チームで幕を開け、2024年に43年目のシーズンを迎えた。KBOは10チームが1つのリーグで144試合を戦う。人口は5000万人と日本の半数以下だがプロ野球の人気は高い。

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前売り券を取りたかったが、日本のように簡単にコンビニで発券できない。宿泊した西鉄ホテルで前日にチケットの取り方を聞いたが、スタッフも知らなかった。当日券の発売時刻もわからないので試合開始の3時間前には球場に着きたい。MLBなら5時間前からチケットが取れる。昼ごはんを食べたトンネから歩いて社稷(サジク)へ。9月26日の釜山は快晴。『フィールド・オブ・ドリームス』の青Tシャツは汗だくになった。

韓国プロ野球の球都・釜山のサジク野球場

釜山のトンネ地区にある社稷(サジク)野球場。1985年10月の開場。来年40周年を迎える大ベテラン。ロッテ・ジャイアンツの本拠地である。

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ロッテは日本企業なのか韓国企業なのかの議論は昔からあり、創業者が在日韓国人の重光武雄 氏。本名・辛格浩(シン・キョクホ)。ロッテは1948年に東京で創業した日本生まれの企業。67年に韓国にも進出し、現在ロッテグループの売り上げの95%は韓国。製菓の他にも観光、流通も手がけ、韓国ロッテは日本ロッテの10倍以上も稼ぐ。

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ロッテ・ジャイアンツのチーム名は日本で育った創業者の重光武雄 氏の憧れだった「ジャイアンツ」を冠した。千葉ロッテ・マリーンズとロッテ・ジャイアンツは異国兄弟のようなもの。

向かったのはグッズショップ。なぜかクレヨンしんちゃん。メガネをかけたスタッフに「日本から来ました。チケットはどこで買えますか?」と英語で聞いたら親切にもチケット売り場の前まで案内してくれた。「発売は16時か17時です」と関係者でも不明な様子。かなりアバウトのようだ。

ロッテ・ジャイアンツを初優勝に導いた功績から「鉄腕」のニックネームを持つ。背番号11は永久欠番。リリース直前のポージングの躍動感も見事だが、足元に添えられた花束に地元からの愛を感じる。

ロッテ・ジャイアンツを初優勝に導いた功績から「鉄腕」のニックネームを持つ崔東源(チェ·ドンウォン)の銅像。背番号11は永久欠番。喧騒の中で中でひっそり息をしながら釜山の野球ファンを今日も見守っている。

韓国プロ野球の球都・釜山のサジク野球場

球場の前にはプレイグラウンド。少年野球の子どもたちが学校帰りに練習をしている。

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ひとりだけ場外ホームランを連発し、ノックでは源田壮亮のようなフィールディングを見せて歓声を浴びていた天才少年。将来、韓国プロの野球選手になるかもしれない。

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黎明期からプロ野球を支える釜山は「球都」と呼ばれる。KBOで最初に1シーズンの観客動員数が100万人を突破し、2009年には1試合平均で2万人を突破。これは現在でも破られていない年間観客動員の記録である。KBOの43年の歴史で優勝は2回しかなく、決して強豪チームではない。しかし、その弱さが港町の熱を生むのか人気が突出しており、リーグ全体の観客動員数をロッテ・ジャイアンツが左右する。

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待てど暮らせど始まらない当日券の販売。17時を過ぎても開場もせず、球場の周りは人だかり。

韓国プロ野球の球都・釜山のサジク野球場

券売機の前が鳥獣戯画展みたいな地獄と化す。なんと発売が開始されたのは17時半。試合開始の1時間前。入場できるのがギリギリになる。券売機は日本語はもちろん英語表記もなく韓国語のみ。数人の欧米人がいたが迷って若い女性スタッフが案内していた。まだまだドメスティックな野球。今後、国際化のゲートは開かれるか。

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売り切れないか冷や汗をかいたが、なんとか内野席をゲット。スタンド上段で1万ウォン(1000円)と安い。もうすぐ試合が始まるので荷物チェックもなく、なにもかもアバウト。

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入り口には対戦する両チームとは関係ないKTウィズや、KIAタイガースのユニホームを着た観客もいる。単純にファッション的に好きだからという理由。日本のように相手チームのユニホーム着用禁止なんてお堅いルールはない。スポーツはこうあるべきだ。

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球場メシはあるが、日本のような選手グルメなどはなし。数も少なく、チェーン店やセブンイレブンが中心。

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球場に入ると少女時代の『GEE』が流れていた。韓国に来て初めて知っている歌に出合えた。旧友に再会した気分。これぞ郷愁の港町・釜山。

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サジク野球場の天然芝と赤土の美しさ、屋外球場の開放感がたまらない。開閉式ドームと屋外球場は別。純然たる青空を従える屋外球場の観戦は胸を締め付ける。

韓国プロ野球の球都・釜山のサジク野球場
韓国プロ野球の球都・釜山のサジク野球場

左を向けば釜山の都会の街並み、右を向けば山並み。台湾の天母野球場に似ている。グラウンドを包み込むように急勾配のスタンドが山のように聳える。ファンの歓声が選手たちに迫るのではないか。

韓国プロ野球の球都・釜山のサジク野球場

球場にはテーブル席が多い。これも韓国プロ野球の特徴で、日本のように独りで仕事帰りなどに立ち寄る人は少なく、仲間と飲食を愉しむファンが多い。野球場は巨大な居酒屋であるが、韓国のファンはそれを体現している。

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韓国プロ野球の名物である応援団のステージ。ソウルのチャムシル野球場は両軍の応援団(チアリーダー)が許されているが、釜山は地元チームのみ。

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応援団が外野席にある日本と違い、韓国は内野席。台湾も同じ。日本が特殊といえる。

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サジク野球場のフェンスの高さは6mで韓国一。他の球場は5m台もなく、ぶっちぎり。日本で一番フェンスが高いハマスタの5mより1m高いのは釜山のプライドか。

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黄昏がサジク野球場を迎えにくる。横浜スタジアムを模したすり鉢型。これから陽が落ち、夜という祭囃子が聴こえてくる。兵どもが夢を駆け抜けていく。

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マウンドやネクストバッターズサークルからホームベースまで土の花道があるのは1800年台の野球黎明期の名残。現在のメジャーリーグでも2、3球場しかなく、日本ではグリーンスタジアム神戸のみ。クラシカルな野球の匂いがサジク野球場を漂流している。WBCやプレミア12など国際大会の舞台になっても遜色ない。

韓国プロ野球の球都・釜山のサジク野球場

両軍のベンチ、ブルペンが丸見えの開放感も野球観戦の愉しさを倍増させる。

韓国プロ野球の球都・釜山のサジク野球場
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球場メシは18,000ウォンの牛肉弁当と釜山に来て病みつきになったチルソンサイダー。ロッテ七星飲料が1950年から発売し、微炭酸で甘み抑えめ。最高のバランス。日本でも買えるようだが見たことがない。日本の球場で販売してほしい。場内にはBon Joviの『 It’s My Life』が流れる。

韓国プロ野球の球都・釜山のサジク野球場
韓国プロ野球の球都・釜山のサジク野球場

トゥサン・ベアーズ(ソウル)の監督は歴代でいちばん好きな外国人イ・スンヨプ。三塁コーチは歴代でいちばん好きなジャイアンツ戦士の後藤孝志。元ジャイアンツ同士のコンビというレアなチーム。

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日本のような試合前の茶番も華やかな選手紹介もなく、太陽と月の狭間から射し込む光のようにやさしく静かなプレイボール。

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地元ロッテ・ジャイアンツの先発はWBC代表にも選ばれたパク・セウン。チームのエースだが、立ち上がりが悪く初回に3点を失う。このあと0点に抑えた修正は見事だったが、この失点が響いた。

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1回表の守りが終わり、イベント会社から派遣された応援団長とチアリーダーが内野スタンドのステージに上がると場内が暗転。巨大なスクリーンにその勇姿が映されるとオーケストラの指揮者が登場するような地鳴りの拍手で迎えられる。日本のような楽器の演奏はなく、スピーカーから流れる音楽に合わせて歌い踊る。

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チアリーダーも自分たちが主役ではなく、あくまで観客を束ねるマエストロ。DJのようなもの。韓国の応援の素晴らしさは観客と応援団の一体によるもの。チアダンスには沈んだ太陽を再び昇らせるような力がある。

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ベアーズの先発もエースのクァク・ビン。WBCは防御率13.50だったが、アジアCSの決勝戦を任され、侍ジャパンを5回1失点に抑えた。まだ25歳。150キロを超えるストレートと必殺のカーブ。他の投手とは球威が違った。そして追い込んでからの「コマンド」がすごい。ストライク率は低いが、最も大事な場面で狙ったコースにズバッと入る。この日は死球を与えた打者を気遣うやさしさが印象的だった。素晴らしい人格だが、勝負師としては足枷になる。韓国球界を背負うエースを期待されているが、プレミア12でも見られるか。防御率4点台が信じられないレベルの球。6回を投げ無失点投球を見せてくれた。

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4-3。両エースの投げ合い、最後は2アウト満塁であわや逆転サヨナラの好ゲーム。ホームランはなし。日本の野球と大きな差は守備力。日本ならダブルプレーと思うゴロも一塁セーフ。この差がプレミア12で出る気がする。しかし、明らかに日本より上なのは観客。相手チームの牽制球に厳しい釜山のファン。応援団のリーダーが合図すると一斉に「馬」と3回叫んでビジョンもチャントをとる。

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一眼レフで推しの顔を追いかけるファンは見当たらず、全力で歌い踊ってゲームを愉しむ。プレイヤーでなく観客が主役。観客が歌い手になるコンサート会場。球都と呼ばれる理由がわかった。野球の素晴らしさがファンによって夜空に溶けていく。日本が失った理想の野球観戦が韓国にあった。

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熱き大地に建つサジク野球場は2025年を終えると解体作業に入り、2031年に新球場に生まれ変わる。韓国では現在ドーム球場はWBCやプレミア12が行われたコチョクスカイドームしかない。今後は一気にドーム球場が増える。

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孤高の夢先案内人である永久欠番の銅像は、飛びたつ鳥を見守る歌人のようだった。一抹の寂しさを残し、明日も韓国野球は前進する。

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