2023年11月7日、『WBC 球春のマイアミ』をAmazon Kindleでリリースした。『フィールド・オブ・ドリームス』のケヴィン・コスナーのように野球場を駆け回った。誰が来てくれるのか?誰が現れるのかわからない。それでも自分の足だけを動かした。物書きとして直球しか持っていない。野球に真っ直ぐぶつかり、正面突破する以外の方法を知らない。
台北紀行
2023年8月末、東京の最高気温は35℃。夏が終わらない。海の向こう台湾で高校野球のワールドカップが行われるからだ。甲子園という世界でいちばん熱い夏が終わっても、その余熱を抱えて高校生の世界大会が開かれる。球児たちにとっては疲労がピーク。選ばれし者に夏休みはない。
旅の目的は2日目だが、初日は日本代表の試合がある台北市立天母棒球場に向かう。台北松山空港に向かう飛行機のフライトが7時55分の早朝。新宿発の始発に乗ればギリギリ間に合うが、万が一を考えて前夜に前のり。日付が変わる前に羽田空港に到着。
東京はスーパーブルームーン。駅には通勤という日常の匂いがあり、空港には旅という非日常の匂いがある。
国際線ターミナルに作られた日本橋。外国へ飛び立つ滑走路に見える。萩原慎一郎さんの短歌を思い出した。
きみのため 用意されたる滑走路 きみは翼を 手にすればいい
ここをキャンプ地とする。3時間ほど仮眠。寝返りをうっていないからか、膝と腰が激痛。帰国したらトム・ハンクスとスピルバーグの『ターミナル』を観よう。
いよいよフライト。乗り場に向かう途中『六厘舎』があった。7年前、エヴェレストに向かう前に和食納めとして食べた店。ネパールで嫌というほど日本食を食べることになったが。まだ残っていた。それだけでうれしい。食べようか迷ったが、機内食があるので我慢。アメリカに向かう前に食べるか。
機内は爆睡し、気づいたら台湾だった。日本時間11時半、台北では10時半に空港到着。都会なのに山に囲まれている。それだけで安心できる。山は偉大だ。早速、両替。長蛇の列。5万円。1元が4.7円。
タクシーはトヨタ。1,500円くらい。電車を乗り継げば40元。次からは電車で来よう。ファミマ、ダイソー、ユニクロなど日本の店も多い。ネパールや上海、色んな匂いが混ざっている。とにかく暑いが清潔な街だ。
一宿の世話になるホテル。カタコトの日本語が通じる。チェックインは15時なので荷物を預かってもらう。街を探索。
映画『台北暮色』で見たような光景。台北は観光地というより住んでみたい国だ。
路地裏にある寺院。地元の人の日課なのだろう。ネパールに似ている。
大通りの向こうに山々が見える。東京より住んでみたくなる。台北の街は最高気温30℃。湿度が凄いから日本と同じか、それ以上に暑く感じる。
最初に向かったのがホテルから近くの「忠孝橋」。と言っても15分から20分くらい歩く。
ここは映画『台北暮色』のラストで主人公の車がエンストし、大渋滞をつくってしまう場所。
たぶん、この道路だ。ここで車がエンストする。
せっかくなので橋を渡ってみる。黄昏に来たかったが、青空も清々しい。
ニューヨークのマンハッタンに似た風景。入道雲が夏を彩る。
台湾は右側通行。だから車も左ハンドル。日本と逆。
人生とは非日常を求めながら、日常を愛すること。ニューヨークにあるブルックリン・ブリッジと同じ匂いがあった。
ホテルのチェックインまで明日の下見。新幹線が通る台北駅。立派だ。これもニューヨークのグランドセントラル駅と似ている。
中山駅に向かう地下街にはQBハウスがある。料金も同じ1,300円くらい。言葉が話せたらカットしてもらうのだが。
地上に出ると公園を通り過ぎホテルへ。
とても綺麗なホテル。壁の装飾がオシャレ。
汗だくなのでシャワーを浴びる。使い方がわからず困惑する。何から何まで日本と違うところがいい。
台湾珈琲の専門店『森高砂咖啡館』へ向かう。
ホット珈琲の前に試験管に入った一口アイス珈琲を飲むシステム。珈琲の旨みはしっかりあるのに、めちゃくちゃ優しく感じる味わい。
単品でも美味しいけど、アップルパイのあとに飲むと口に豊かな風味が広がる。これで準備万端。野球場に向かおう。
夢のアリゾナ
WBCの取材も佳境に入ってきた。いよいよアメリカだ。マイアミのローンデポ・パークの前に目指すはチェイス・フィールド。アリゾナ州フェニックスにあるダイヤモンドバックスの本拠地。WBCのプールCが開催された。明日のフライトを待つばかりとなった9月14日。阪神タイガースが18年ぶりの優勝を決めた。それどころではない。リモートワークをしていると航空会社からメールが届き、明日の便が欠航。振替便はあるが、24時間しか滞在しないアリゾナ州でメジャーリーグの試合直前に到着してしまう。
それはないだろう。翌日にはマイアミに飛ぶ。チャンスは一度しかない。大慌てで仕事を切り上げ、コワーキングスペースからHISに電話をかける。なんとかしてくれ。都庁のライトアップを見上げながら願う。代わりの便が見つかった。ロサンゼルスではなくダラス経由。飛行機にいる時間が2時間延びる。身体にはキツイが仕方ない。松屋で晩ご飯を食べ明日に備える。
昨夜はワースポMLBを見て日付が変わる前に眠った。5時半に目を覚ます。なんとか起きられた。NHKではメッツ対ダイヤモンドバックス戦。千賀滉大が投げていた。客席はガラガラ。明日や明明後日も同じだろうか。チケットは取りやすいが寂しさもある。早朝の新宿は快晴。6年前にエヴェレストに向かったときも、こんな朝日だった。夏が終わらない。暑すぎる。
7時30分のバスで羽田へ。1300円。電車で行けば半額だが、とてもじゃないが満員電車に乗れない。バスがないと死んでしまう。少し空席があるようだ。自由席とは知らなかった。
8時15分に着きチェックインしようとしたが人生最大級の失態。ESTAを取得したと思い込んでいたが、できていなかった。係員の方に聞いて慌てて申請するがフライトに間に合わず。アメリカン航空のカウンターに行き、結局19時50分のフライトでロサンゼルスに行くことに。フェニックスに到着するのは夜の8時過ぎ。試合に間に合わない。自殺したくなる人の気持ちが少しわかった。でも仕方ない。フェニックスの空気とチェイス・フィールドの外観だけ見よう。人生は失敗と勉強の連続。くよくよしても仕方ない。アメリカン航空からは遅延のお詫びに、羽田空港の食事券3200円分をもらった。
13時前に空港内の『焼肉チャンピオン』で昼メシ。焼肉御膳2600円。クーポンを使って1000円になったが、それにしても物価が高い。みずほ銀行で7万円分を両替え。円安が堪える。仕方ない。泣きっ面にションベン状態だが、この先いいことはあるだろうか。
16時半に保安検査場を通過して六厘舎へ。6年前にエヴェレストに行くとき、お世話になった。店員さんが元気で明るい。味も変わっていなかった。これもアメリカン航空からもらった食事券でまかなった。
外は大雨、雷も鳴っている。欠航便や遅延だらけ。くよくよしても仕方ない。前に進もう。
悪天候で、さらに遅延。11時55分が20時10分のフライト。周りはアメリカ人ばかり。デカい。同じ人間とは思えん。凄い国に行こうとしている。
機内は幸運にも隣と後ろがいない快適環境。こんなに居心地の良いフライトは初めてだ。家の布団より疲れが取れる。モニターで映画『The Last Out』を観た。
MLBを目指すキューバの若者たちを追ったドキュメンタリー。早くマイアミの試合が観たくなった。2度の機内食も出てドリンクも4回。最後の卵とベーコンは餌だが贅沢は言えない。
入国してイモトWi-Fiを繋ぐ。メールが届き、またもや遅延。フェニックスに着くのが21時。ゲームオーバー。これでアリゾナでの行動が朝の散歩だけになった。なんという旅。
ロサンゼルスの乗り継ぎで手荷物検査。羽田で買った「いろはす」の水が没収された。一口も飲んでないのに。ロサンゼルスは夕方17時でも明るい。爽やかな風が吹いて気持ちいい。次のフライトまで2時間ある。
出発前にコーラを買う。なんと4ドル。日本の4倍!さすがにこの値段はキツい。飛行機は通路側だったが冷房が効きすぎて寒い。長袖の羽織るものを持ってくればよかった。
空港を出てすぐタクシーを拾いホテルへ。10分なのにチップ20%を入れて20ドル。3000円。さすがに、これからは20%はキツい。カブスやダイヤモンドバックスのユニホームを着たひとがゾロゾロ帰ってくる。鈴木誠也がホームランを打ち、なんとストローマンが復活するサプライズ。最高のゲームを観れたはずだった。
チェックインを済ませ21時半に部屋へ。気を取り直すしかない。弟にLINEで電話してアジアチャンピオンシップのエキサイトシートを取ってもらう。ニューヨークに行った13年前はSNSなんてなかった。便利な時代になった。
Amazonで買った2000円の髭剃りが全然剃れない。部屋に置いてある水を飲もうとしたが3ドルかかる。500円?ありえない。とんでもない旅になりそうだ。23時前に寝るが0時半に目を覚ます。これが時差ボケか?シャワーを浴びようとするが使い方は分からないし、お湯は出ないし、異国を旅する意味を痛感させられる。まだ初日なのに帰りたくなってきた。結局、一睡もできず、YouTubeを見ながら朝まで起きていた。朝が来れば気分が変わるだろうか。
アメリカの夜
フェニックスで唯一の行動であるチェイス・フィールドまでの散歩から帰る。球場の周りは朝7時から開いているカフェがあり朝食をとろうと思ったが、安いサンドイッチでも14ドル。2,000円を超える。さすがにキツい。
アリゾナでの朝食はタダで何杯でも飲めるコーヒーマシンのみ。ハイアットリージェンシーで一泊は意味ないと思ったが助かった。9時からホテルの目の前のタコベルがオープンしたが早く空港に向かいたい。予定の飛行機に乗れないのは金輪際、勘弁してほしい。
12時33分のフライトまで3時間以上あるが、チェックアウト。空港で昼ご飯を食べて余裕を持ってマイアミに向かいたい。
ホテルの前にタクシーが止まっていると思ったが一台もない。東京のようにはいかない。人生で初めてUberを使う。めちゃくちゃ便利だ。料金が人によって違うが、タクシーと変わらない。ニューヨークを旅行した13年前では考えられないサービス。チップ1ドルもアプリで払える。空港まで10分の運転なので十分だろう。
機械でのチェックインに戸惑ったが係員のおじさんがヘルプしてくれた。お目当ての「エル・ブラボー」を探したが見つからない。仕方なしに保安検査場を通過し、Wendy'sでナチョス・チーズバーガーとポテトSサイズを頼む。辛いチーズバーガーは違和感あるが、味は美味い。日本でもウケるだろう。しかし、12ドル(1800円)は痛い。すでに空港までのUber3000円使っているし、マイアミのタクシーはもっとかかるから今日の食事は終了。機内食が出てくれることを切に願う。
搭乗ゲートは大行列。そんなにマイアミに向かう人が多いのか?日本人はひとりもいない。アジア人すら自分だけ。それでも今回の旅はon timeで飛んでくれるだけで感謝だ。機内の4時間半はつらかった。通路側でトイレが隣なのは助かったが、冷房が効きすぎて寒い。寝ても寝ても時間が経たない深夜バス状態。「日本人」というテーマのエッセイを書いて時間を潰す。Wi-Fiはあるのに日本の携帯が使えないのが痛い。
なんとか無事にマイアミ国際空港に到着。Uberを手配しようとするがカードの支払いを拒否される。チップが目当てなのか、現金で払うのは怖い。仕方なしに2階に降りてタクシーを拾いたいが、なかなか止まらない。白人の係員が欧米人だけ誘導し、明らかに自分を無視して車を通過させる。どこの国でも差別はある。無理やりタクシーを止めて運転手にホテルの住所を見せる。さっきの白人が文句を言ってくるが、負けてられない。無視してタクシーに乗ると係員が「bye-bye!!」と嫌味を言ってきた。
21時過ぎにホテルには無事に着いたが、タクシーの運転手が遠いルートで走ったので51ドル(7600円)もかかる。たった15分の距離で高すぎる。渋滞を避けて迂回したのかもしれないが、Uberの倍以上かかった。文句を言えないのが情けない。マイアミの街も暗く、ホテルの場所は周りに何もない。せめてもの救いは球場まで歩いて50分、Uberでも10ドルの距離。
チェックインして4階の部屋へ。モニターにはうれしい歓迎だが、アメニティが何ひとつない。お湯やコーヒーも1階に降りなければいけない。こんなに何もない設備は初めてだ。これでフェニックスより料金が高いって、それはないだろう。外は雨が降り続いている。マイアミの天気予報は3日間ずっと雨。天候次第ではホテルの1階のビリヤードをやることになりそうだ。アメリカを旅するのに単独行はあまりにキツい。タクシー料金もシェアできない。
23時前に寝るが、0時半に目が覚める。フェニックスと同じだ。その雨を見ると気持ちが暗くなる。また昨夜のMLBを観れなかった悔いが押し寄せてくる。せっかく乗り越えたと思ったのに。気持ちを切り替えなければと、頭ではわかっていても心がついてこない。YouTubeを見て気を紛らわせる。飛行機に乗ったときは少しアメリカに慣れたと思ったのに、アリゾナの繰り返し。シャワーを浴びてサッパリするが、夜明けが遠い。アメリカの夜は溶け込めば世界最高のナイトライフだが、慣れないうちはこれほど旅人を不安にさせる闇はない。明日のメジャー観戦はどうなるだろうか。
Out of touch
朝7時を過ぎると夜明け。マイアミの街がシルエットになっていく。予報では雨だったが雲は少ない。太陽が出そうだ。海岸へ向かう。
プレステ2の最高傑作『GTA』で何度もやったバイスシティ。ヘミングウェイみたいなパパさんが朝の散歩をしている。
Brickell Aveを歩いて20分ほどでAlice Wainwright Parkに着く。サイクリストたちが多い。ジョギングのひとも多くいる。スペイン語だ。アメリカでもマイアミは特別。
子どもたちが遊ぶような器具もある。湿度が高いからTシャツはビショビショ。アロハシャツを着てくれば良かった。
もうすぐ海岸。太陽に照らされて来た。
強烈な朝日。フェニックスの山から降ってくる光も好きだが、海辺の来光もたまらない。
パームツリーが美しく照らされる。
目の前にビスケーン湾。その先にキューバ。たぶん、このふたりも。
印象、日の出。海の夜明けはこれがたまらなか好きだ。
ホテルに戻って朝食。7時からビッフェ形式で出るようだ。ありがたい。
美味しくはないが、バナナがあるのはラテン気分が出る。気持ちのいい朝は不安を浄化してくれる。
翌朝、7時前にUberを頼む。どうやら楽天カードは拒否されるようだ。セゾンを持ってきて良かった。もはやUber無しのアメリカ旅行は不可能になっている。夜明けのハイウェイ。サウスビーチに向かう。時間が早いからか、45ドルくらいかかった。
ビーチの前まで車で行ける。思わず駆け出してしまう。まだ日が昇る前でよかった。
美女が泳いでいる。水温はぬるいくらい。気持ちいいだろう。
近くのホテルなら水着で泳ぎたかった。カスマホを持って来光を待っている人もいる。
5分ほど待って、ようやく雲間から太陽が姿をあらわしてきた。
太陽が昇る位置、ど真ん中のストレート。眩しいからか、他に人がいない。
もうすぐ登頂。頑張れとなぜか太陽を励ます。
なんて美しい水平線。山から昇るアリゾナの朝日も凄かったが、海辺の朝日もたまらない。
印象、日の出の太陽の道。来れてよかった。
あとはサウスビーチの周りを探索。
キューバ料理を食べたかったが、どれも高そう。9時オープンの店にしようと思ったが、キューバンサンドイッチが18ドル、マンゴースムージーが9ドル、チップを入れたら30ドルを超える。4500円の朝食は厳しい。
諦めてセブンイレブンへ。
アイスだけ買ってホテルに戻る。これで300円くらい。日本に帰っても、しばらくはハーゲンダッツが安く感じるだろう。
Amazon Kindle:『WBC 球春のマイアミ』