札幌ではなく北広島という小さな町に日本一の野球場がある。石狩平野の中央に位置し、明治の開拓で広島からの入植者が集落をつくったことから「北広島」になった。東広島市と姉妹都市。人口5万6000人。生まれ故郷、奈良県桜井市の田舎より少ない。ここで3万5千人が白球の行方を追いかける。
エスコンフィールドの最寄駅はJR北広島。野球がなければ地元民の他に訪れるひとは少ないだろう。
駅を出て信号を見上げると信号が縦型。積雪地帯であることがわかる。北広島はクラーク博士が帰国に旅立った場所であり、「Boys, be ambitious」の言葉を残した町（恵庭市という説もあり）
駅を降りてすぐのセイコーマートはオレンジではなく日本ハムのカラー。ただしグッズは売っていない。
駅から30分ほど歩くと北海道ボールパークFビレッジが見えてくる。下手にカッコつけず「村」のビレッジ。英語で少しだけ背伸びをしているところがアンビシャス。
2023年から本格始動したエスコンフィールド。外観はアリゾナ州にあるチェイス・フィールドのような要塞。まさしく北国の帝王。漆黒とガラスの組み合わせのスケールは日本にはない。北海道の大地だからこそ映える。東京や大阪であれば違和感。どこまでも続く地平線とセットになってこそ。
球場の外には子どもたちが遊べるプレイフィールド。ボールパークを演出する。エスコンフィールドの隣は北広島高校であり、地元と密着している。
名物のTOWER 11（タワー･イレブン）ゲート。温泉やホテルが球場の中にあり予約困難。メジャーへ羽ばたいたふたりの背番号11を冠している。
ダルビッシュ有と大谷翔平。2023年のWBCのMVPの2人が共に北の大地から育った。既成概念の打破、革新性、先進性。次に11を背負う逸材は現れるか。
三塁側ゲート。2024年から「3rd BASE GATE」が「F NEOBANK GATE」に変わった。ここは2028年にできる新駅の玄関口になる。北広島から30分も歩かなくて良くなる。夏場は助かる。
開場前の16時には長蛇の列。
美しい天然芝、開閉式ドームのオープンデーは抜けるような北国の青空。
シーズンシート購入者のみが入れるダイヤモンドクラブシート。選手にとってはこの上ない栄誉。
日本のフィールド・オブ・ドリームスと呼ぶにふさわしいボールパーク。南側の高さ70mのガラス壁から差し込むたっぷりの陽光によって天然芝を育てる。クロード・モネが描いた《サン・ラザール駅》のような近代化の鐘が聴こえてくる。
最前列から４列目まではシートの色が黒に変わる。ヒエラルキー。これでいい。お金は正義、ジャスティス。
日本の野球場はポールが黄色。しかしエスコンフィールドだけはファイターズのブルー。おそらく日本で唯一無二だろう。
驚くのが応援団の席。両チームとの内野の3階にある。広島のMAZDAは敵チームだけ内野席にしているが両チームとも応援団が内野にあるのは異例。甲子園のアルプススタンドの感覚。何から何まで常識外。
セ・リーグ6球団は本州にしかチームがない。中央集権の野球。パ・リーグは東京に野球チームがない代わりに北海道にも九州にもある。コンパスの幅、野球地図が広い。パ・リーグは地方の野球。中央の権力から自由。斬新な発想や規格外が生まれる。
360度周回できるコンコース。マイアミのローンデポ・パークとそっくり。
一塁ゲートの「コカコーラ・ゲート」。野球場で飲むコーラは格別。
選手たちのモニュメント。やはり日本ハムは大谷翔平ではなくダルビッシュ有のチームだとわかる。
北側は北海道の伝統的な家屋をモチーフにした重さ1万トンの三角屋根。開閉式ドームになっている。なんという開放感。
左翼97 m、中堅122 m、右翼99 mの左右非対称フィールド形状。両翼から中堅への膨らみが少なく、外野のフェンスラインを直線のみで構成。ホームベースからバックネットまでが15 mと観客からの距離が近い。外野フェンスも大部分が2.8 mのヒッターズ・パーク。北海道の伸び伸びした大地には投手戦より打撃戦が似合う。
3階の「FULLSWING」では選手グルメのコーナー。
球場メシは伊藤大海のホタテ焼き丼。
きつねマンゴー&カルピス。
総工費600億円を投じたエスコンフィールド。北国の涼風が夜を撫で、夜を駆ける。日本のボールパークの新時代を告げる鐘であり、野球界の未来でもある。将来はWBCやプレミア12の試合会場となるだろう。国際大会のスケールにふさわしい。アマチュア野球の聖地が甲子園と神宮球場であり、国際大会は東京ドームとエスコンの両翼。
球場に横丁がある。球場メシの宝庫。「七つ星横丁」。これまでのスタジアムには無かった試合終了後も飲んで食べて語らえる横丁エリア。
22時30分までオープン。選手グルメがある麺屋優光。
『万塁ホームラーメン』1300円。その日に活躍した選手グルメを食べられるのも大きい。見事なサービスの野球場。
観客のいなくなったエスコンフィールド。『フィールド・オブ・ドリームス』のとうもろこし畑の匂いがした。クラーク博士が贈ったアンビシャスを咲かせたエスコンフィールド。タイムマシンで連れてきたら、その大輪の花に微笑んだに違いない。
