千葉マリンスタジアム(ZOZOマリンスタジアム)とは因縁がある。立命館大学の卒業を半年後に控えた2005年、タイガースファンの友人からロッテー阪神の日本シリーズを観に行こうと誘われた。
「巨人以外は草野球」を公言していた自分だったが、青学に通う弟の引っ越しを手伝ってくれること、日本シリーズ未観戦だったことでOK。10月29日(土)、この日は22歳の誕生日。だが第6戦のチケットを入手したものの、阪神が歴史的大敗を喫し4連敗。初の千葉マリンスタジアムは幻となった。ボビー・バレンタイン監督が率いた同年のロッテは強く、8人が半年後のWBC日本代表に選ばれている。韓国代表にはイ・スンヨプも送り出した。あれから17年、WBCが縁となり、幻だったマリンスタジアムに来ることができた。侍戦士の山本由伸が登板するからだ。
8月8日(火)、仕事を15時で切り上げて海浜幕張へ。台風接近により曇天の予報だったがカンカン照り。野球観戦はいつだって小旅行。しかも今回は都を越え隣の県、そして初めてのスタジアム。総武線で西船橋まで行き、武蔵野線で海浜幕張駅へ。約1時間半。
ZOZOマリンスタジアムまでの徒歩15分がキツい。駅から100円で送迎バスが出ているが利用する気持ちがわかった。日中にゲリラ豪雨があったようで湿度が最凶。マンガみたいな汗が噴き出る。サウナ状態。これが海辺の街か。
ZOZOマリンは映画『冒険者たち』の孤島のような、ローマのコロシアムのような佇まい。
来月に行くマイアミの空気を思わせる。夕陽がよく似合う。アクセスは良いと言えないが、東京ドームや神宮球場とは別世界が待っている。
「ガーナゲート」「コアラのマーチゲート」「クーリッシュゲート」など面白い名前で野球ファンを迎える。東京ドームも「長嶋茂雄ゲート」「王貞治ゲート」「沢村栄治ゲート」「松井秀喜ゲート」など、先人たちへのオマージュを込めた工夫をすればいいのに。
レフトスタンド7列目に陣取るとオリックスの守備練習中。南国感たるや。赤土が映える。どこからでも見やすく、美しい。子どもの頃に来ていたらプロ野球選手を目指したくなっただろう。千葉の市川出身の会社の同僚は一度も来たことないらしい。
腹が減っては野球観戦はできぬ。球場メシを求めて彷徨う。食べたいと思っていた『ストライク』の「かずちゃんのもつ煮込み」650円。1992年から販売しているらしい。これが中々見つからず、球場内を歩き倒した。
これまで食べた球場メシでダントツのNo. 1。なんですか、もつ煮込みと野球の相性は。これを考えた人は佐々木朗希のパーフェクトに匹敵する快挙。
超・超・大行列のロッテリア。先に買っておけば良かった。
朗希ロコモコチーズバーガー900円。かずちゃんのもつ煮込みには遠く及ばないが、これもイケる。
エースのマウンド
試合開始30分前、眼の前で山本由伸がピッチング練習。単なるウォームアップではなく、死地に向かう戦士の崇高な儀式。プロ野球のピッチャー全員がそうではなく、山本由伸だからこそ発するオーラ。同じものを感じたのはWBCの大谷翔平だけ。
しなやかで強靭。よほど体幹が強いのか、190センチを越えるメジャーリーガーよりも力感がある。「柔」と「剛」を足して2で割らない。究極のフォームと呼んでいい。
試合が始まっても圧巻。テークバックは威風堂々、大きく広げた両腕。打てるものなら打ってみろという自信が漂ってくる。足をスライドするステップは今年から取り組む「すり足」。ミサイルを放つように一気に加速していく。
肩を外旋させるレイトコッキングでは全身のバネを使って強靭なねじれを生み出す。そこから放たれるストーレトは最速157キロ。155キロを下回ることがほとんどない。左脚で強力なブレーキをかけ、全身の力を押し出す。時折、混ぜるカーブは120キロ台。30キロ近い緩急は打者を困惑させる。ちょっと手が付けられない。
肩を内旋させるアクセラレーションは凄まじい右腕のしなり。コルトパイソン357マグナムに変化球の機能を搭載したような手のつけられなさ。日本人初のサイ・ヤング賞は大谷でもダルビッシュでも佐々木朗希でもなく、山本由伸だろう。一軍の投手が並レベルに錯覚してしまう。それが山本の恐ろしさ。
相手のロッテ打線もすごい。157キロでもバットに当てる。4本のヒットも失投ではなく、むしろ厳しいコース。さすが2位のチーム。プロ野球のレベルはここまで進化したか。それでも山本は動じない。菅野智之や田中将大はランナーを出してからギアを上げるが、微動だにしない、迷わない、不動の境地。
フォロースルーは歌舞伎の見栄のようなフィニッシュ。打たれる気配を一切感じさせない。敵地のマウンドが山本由伸のために存在しているようだ。
森友哉がファウルフライにダイブすると、マウンド上から拍手を送り、直後に三振を奪う。エースの風格。7回110球4安打2四球の無失点。奪三振は4で少なかったが、日本最高峰のピッチングを見せてくれた。
山崎颯一郎
8回のセットアッパーは山崎颯一郎。女性ファンが多い。去年のソフトバンクとのCSファイナルステージ第4戦では球団最速の160キロを記録した。190センチの長身から投げ下ろすストレートが武器。
山本由伸が157キロでもバットに当てられたのに対し、山﨑颯一郎は150キロでも空振りを奪える。長身による角度なのか、タイミングの取りにくさなのか、ストレートの質を改めて考えさせてくれる。
3年後のWBCのリリーバー候補。このダイナミックなフォームが東京ドームで観られる日を楽しみにしている。
光の球場
小学生の頃、こち亀の『光の球場』を読んで憧れた大毎オリオンズの東京スタジアム。現在のZOZOマリンスタジアムは照明塔を設置せず、球場の円形。美しいマリン。青空が似合う。
拡声器で叫ぶ昭和を彷彿とさせる応援、照明塔のない演出、千葉マリンスタジアムは個性にあふれている。老朽化で移転や改装も噂されているが、球場が変わってもこの雰囲気は残してほしい。
わずか数時間で、こんなに空の感情が変わっていく。屋外球場の魅惑。
祝福の花火。ホームランが出なかったこの日、唯一の祝砲となった。
こち亀で憧れた光の球場の匂いがZOZOマリンスタジアムにある。
やはり千葉のスタジアムは夢の国より夢の国だった。
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— YAMATO (@yamatoclimber) 2023年11月9日
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