2023年9月16日(土)、一睡もできずに朝を迎えた。6時を過ぎても外は暗い。6時半を過ぎて、ようやく空が明けてきた。日の出を見よう。インスタントのコーヒーを飲み干し外に出る。
ホテルの前にはバンク・オブ・アメリカ。人はいない。静かなフェニックスの夜明け。
気分が沈んでいるからか、異国情緒を感じない。旅を楽しむのが下手だ。これから逆転ホームランを打てばいいと頭で分かっていても、気持ちがついていかない。
チェイス・フィールドまで5分。なんという近さ。その手前にはフェニックス・サンズの本拠地トーキングスティックス・リゾート・アリーナがある。スポーツ観戦をするのにフェニックスは最高だ。
ジェファーソンSt.に入ると日の出。遮るものがないから山のほうから強烈な朝日が射してくる。日本の山と双璧、いやそれ以上か。「刺す」という表現が合うほど強烈な刃。
太陽の光でチェイス・フィールドが隠れる。犬の散歩をしている人がいた。不思議だ。朝日を浴びるだけで昨夜の悪夢が氷解していく。登山ではいつも朝日に救われてきた。
球場の前を路面電車が走る。カンカンという鐘の音が映画の西部劇を思わせる。砂漠の街フェニックスにふさわしい。
スカイ・ハーバー空港からは絶え間なく飛行機が翔ぶ。なんと勇ましい環境にある野球場。
ついに対面。昨夜もタクシーの車窓から見たが、初めてきちんと向き合う。
ゴツゴツした感じが逆にいい。まったくボールパーク感がない。
格納庫や倉庫と言われるが、例えるなら巨大な要塞。外観がファイティングポーズをとっているように感じる。
何気ない石像がノスタルジアをかき立てる。
煉瓦のチケット売り場。雰囲気があっていい。
チケット売り場のすぐ隣が入り口。フィールドの中が見える。瑞々しい人工芝。黒で統一されたシート。かなり狭く感じる。
係の人が掃除をしている。こんな朝早くから始めるのか。打者有利の「ヒッティング・パーク」に相応しく、ネクストバッターズサークルからバッターボックスまで土の花道ができている。これを観たかった。なんという幸運。屋根の隙間から光が射しこんでいる。全体的に西武ドームに雰囲気が似ている。
ライトのほうが狭いようだ。右打者に有利。ガラス越しだが、球場の雰囲気を掴めた。ホテルから近いことに加えて球場内まで見えるとは。大感謝。来た甲斐があった。
あとはウイニングラン。ここにもチケット売り場が。
ボールパーク感のあるモニュメントが並ぶ。
球場にはジムやBARも隣接。すでに運動している人がいた。
標高1375mのシエラエストレラ。山々に囲まれた街は台湾も同じだが、広大さが違う。
ガランとしたコンコース。昨夜の試合は盛り上がっただろう。鈴木誠也のホームラン、マーカス・ストローマンの復活、期待の新星コービン・キャロル。もう帰ってこない時間。
フェニックスでの行動は朝の散歩だけ。10万円以上かけて来て、1時間で終焉。一生忘れない濃密な朝の散歩。来年、プレミア12の書籍を執筆するとき今日のエピソード入れる。野球は旅。天候との共犯関係。野球を観に来たのに野球を観れなかった。それもまた野球観戦なのかもしれない。
幻となったフィールド・オブ・ドリームス。そこにはWBCの匂いと日照が残っていた。