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ベースボール白書

野球場で逢おう

全日本大学野球選手権〜ブルーはBlueの夢を見る

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プロ野球ソフトバンクオリックス阪神、広島と西高東低。アマチュア野球においては高校野球の甲子園がある西が圧倒的なブランドを誇る。野球のメッカは西なのか東なのか。

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日本の野球の興りは1871年に大阪でアメリカの水兵から日本人に伝えられたと研究が進んでいる。が、まだ検証中。今のところは1872年に東京大学(当時は第一大学区第一番中学)でアメリカ人教師のホーレス・ウィルソンが生徒たちに野球を教えたことが始まりと言われる。つまり、日本の野球は大学野球で黎明を迎え、その場所は東京から歩み出した。

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1952年に始まった全日本大学野球選手権は、東側の大学が伝統の矜持を見せている。昨年の決勝は青山学院vs.明治。東都vs.六大学で東京の大学同士の対決。歴史は繰り返す。令和六年の第73回大会も東都vs.六大学。

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大会前から予想したカード。だが、それは当たり前ではない。昔の高校野球のように全試合エースが投げるわけではない。チーム力の証。野球力の証。大海を泳ぎ、決闘の巌流島までたどり着いた。たゆたえども沈まず。

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6月16日の日曜。国立競技場での蹴球には4万9541人も来たらしい。外野席を開放しない大学野球選手権は8000人 。早慶戦は3万人を超える時もあるのに不思議だ。この日本一を決める大会が甲子園のようになる日は来るのか。

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桜や紅葉は毎年減っているが、紫陽花は去年と変わらず。夏は負けない。

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神宮球場に着くと三塁側で早稲田の部員が練習していた。初戦を観ているので愛着が出る。

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当日券、学生野球の最高峰が2000円で観られる。日本は贅沢だ。大学スポーツが盛んなアメリカなら争奪戦だろう。

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一面の曇天。涼しくて観やすいが、きっと青空が出てくる。そんな予感がした。生か映像かと同じくらい大切なのが大きさ。絵画は画集と原寸大では別の作品に感じるように、スポーツもパノラマで観るとまったく別の体験になる。野球は白球がポンポン打ち上がる花火大会。特に現場での観戦と相性がいい。

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クラシカルな伝統のカッコよさの早稲田に対し、プロ野球よりオシャレで爽やかな青学。神宮球場によく似合う青学ブルー。そのユニホームが土で汚れるのが野球。

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球場メシはパイン氷500円。25℃を超える夏日。神宮球場の名物でカラダを夏にする。かき氷を制する者は夏を制する。

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プレイボールの13時が近づくと一斉に雲が退場。お日様も観客のひとり。野球を観たいのだ。どんどん気温が上がるが、レモンスカッシュはなかった。

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大学野球は両校の応援も見どころ。早稲田側は前回出場した2015年は優勝。久しぶりの決勝戦に観客のボルテージは高い。

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青学には余裕がある。王者の余裕。東都の余裕。肩肘はっていない。

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早稲田も青学も流行の応援曲は使わない。何年も受け継がれてきた伝統の食材のみで勝負。試合前のキッズチアダンスではTimmy Trumpet『Narco』を入場曲に使っていたので、余計にクラシカルな応援が良かった。決勝戦にふさわしい。

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注目のひとりが2回生キャチャーの渡部海。侍ジャパンの日本代表にも選ばれた。早稲田の顔が4番キャッチャーの印出なので捕手対決。渡部は智辯和歌山の出身。青学は主将の佐々木泰が県岐阜商。四番の西川史礁が平安。リードオフマンの藤原夏暉が大阪桐蔭。西のメンバーが主軸。高校野球のメッカである関西から、ひと旗揚げに上京する。早稲田や慶應のように高校から繰り上げはない。これも青学の強さだろう。

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青学は部員数44人。出場27大学で最少の少数精鋭。しかもスタメン10人うち4回生は3人しかいない。人数が少ないほうが経験は多く積めるが、戦力不足に陥るリスクが大きい。2019年に就任した安藤寧則監督の育成力の賜物。箱根駅伝大学野球、大学2大スポーツを席巻している。

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13時プレイボール。早稲田は初戦と準決勝が延長タイブレーク。疲れが抜けていないだろう。チーム全体に疲労の空気が漂っていた。

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早稲田の先発は鹿田泰生。187センチの長身。149kmの直球を投げるというが、この日は140キロ前後。

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力感なく飄々と投げる。一見、平凡なピッチャーに見える。トップバッターの藤原夏暉も先頭打者でヒット。しかし、野球は面白いもので、気合全開の投手より、淡々と投げるほうがやりづらい。

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これは点が入りにくいなと覚悟する。青学もバットに当てフェンスギリギリまで飛ばすが早稲田の好守もありランナー釘付け。

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初回からいきなり西川史礁。侍ジャパンで観たときより風格が漂う。

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素振りを見ているだけでチームが勝てそうな気がしてくるスラッガーは10年にひとり現れるか。4番ではなく替えがきかない四番の資質。

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最初の打席はフォアボール。大会記録となる7つ目。選球眼の良さと威圧感。すごい打者はバットを振らなくても力を見せつける。

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スイングの力感、スケール感、伸びしろなら5番の佐々木泰は西川を上回る。プロに行ってからどこまで怪物化するか。

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青学の先発は3回生の中西聖輝。智辯和歌山。後輩の渡部とバッテリーを組む。

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昨年の下村海翔の背番号11を受け継ぐ右のエース。伸びある直球と躍動感のあるフォームは先輩を彷彿させた。来年も青学を背負うピッチャー。

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いきなり満塁のピンチを背負うが、無失点で切り抜ける。この試合を象徴する初回。

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印出太一は4番で捕手で主将も務める。阿部慎之助のような存在。

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レフトへの二塁打。打てる捕手が貴重な時代。この試合、早稲田の勝利の鍵を握る男。

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3回には早くも中西聖輝の球に力がない。疲労だろう。先頭打者に安打され、3番の吉納翼にデッドボール。1アウト一、二塁のピンチ。しかも打者は二塁打の4番・印出。

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野球は不思議なスポーツ。相手の治療中に水分補給しインターバル。ピンチなのに気持ちを切り替えられ逆にリラックス。抑えると確信した。止まってる時間が多い野球ならでは。

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ピンチを切り抜けた中西だが、4回に入るとさらに球の勢いは落ちている。先頭打者を歩かせるとキャッチャー渡部の送球エラーで手痛い先制点を許す。盛り上がる早稲田。一塁側に座っていると応援の迫力が爆風のようにやってくる。

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ここで投手交代。3回生のヴァデルナ・フェルガス。大阪出身。ドイツとハンガリーのハーフの父、香港出身の母がいるらしい。189センチの長身と端正なマスク。

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制球に苦しむ様子もあったが、ノーアウト三塁のピンチをピシャリ。この粘り強さが青学を象徴していた。マウンドの力は波紋のようにチームに広がっていく。

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先生を許した直後の5回。6番DHの松本龍哉から。前の回は主砲の佐々木で終わっているのでピッチャーはプレッシャーから解放され、調子を上げやすい。松本は指名打者なのでバッティングでチームを勢いづかせるしかない。試合を占う局面。

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見事、期待に応えセンター前に落としながらのツーベース。これで試合のモメンタムが青学に来た。

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7番の渡部が送りバントし、8番レフトの中田達也がライトへのツーベース。中田は今大会の首位打者。春のリーグ戦は全体ワーストの打率1割1分9厘だったという。その選手を起用した安藤監督もすごい。

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3回生で下位打線のふたりで同点。クリーンアップの4回生が沈黙しても試合を振り出しに戻す強さ。来年はふたりとも上位打線を打つだろう。

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勢いそのままに1番セカンドの藤原夏暉もセンター前安打で勝ち越し。

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青学の2得点はすべて3回生。決勝の大舞台で来年への飛躍を見せつける。

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藤原は前の早稲田の攻撃を抑えてベンチに帰ってきたとき「絶対に点獲るで!」とチームを鼓舞していた。4回生よりキャプテンシーを見せる。来年は主将ではないか。

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青学は途中からショートに1回生の山口翔梧を起用。平安高校の強打者。西川の後輩にあたる。

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1回生の春、夏から青学の試合に出るのは大器の証。

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快音は聞かれなかったが、大商大の真鍋慧と大学野球を引っ張ってほしい。

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西川史礁は良いところなし。体を泳がされ、ショートへのダブルプレー

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最終打席もショートゴロ。ヘッドスライディングで気合いを見せ、併殺をまぬがれるのがやっと。この借りは大学の侍ジャパンで返してほしい。

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5番の佐々木泰も3打席ともライトフライで完全に沈黙。秋のリーグ戦や神宮大会は残っているが、プロに行くのか社会人野球に進むのか。

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早稲田は初戦と準決勝でも投げたエース伊藤樹がブルペンで準備。リリーフが抑えたので出番はなかった。来年4回生になったとき、また全国大会に帰ってきてほしい。

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魔の8回・青学は2回生の鈴木泰成をマウンドに送る。ブルペンから走ってきての深いお辞儀が印象的だった。最高の晴れ舞台だが、打たれれば最悪の処刑台。

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雲ひとつない日差し。日焼け止めを忘れたことを悔いる。だが日焼けの痕は現場で刻まれた観戦の絵画。残った痛みが愛おしい。

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187センチの長身から投げ下ろす直球は力があるが、本来の力には遠い。コントロールが定まらず、フォアボール、デッドボールで1アウト満塁のピンチ。

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強烈な太陽はピッチャーマウンドにも容赦なく降り注ぐ。ピッチングを苦しめる灼熱か、それとも英雄のスポットライか。ここで粘るのが今日の青学。

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1番の尾瀬をセカンドゴロに打ち取り小さくガッツポーズ。まだ試合は終わっていない。笑顔を噛み締めた。

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最終回、「最後はお前が行ってこい!」と次期エースを送り出すヴァデルナ・フェルガス。この爽やかさが絵になるのが青学であり、青学の強さ。

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鈴木の背中に悲壮感はなかった。

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再びの深いお辞儀。勝てばお立ち台、負ければゴルゴダの丘。マウンドは野球で最も神聖なサンクチュアリ

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先頭打者を四球で歩かせる。どれほどのプレッシャーか。投手のみぞ知る苦痛。ノーアウト一塁で3番のクリーンアップを迎える。その最大のピンチを三者連続で抑えた。

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最後はファーストゴロ。小田 康一郎がベースを踏み歓喜の瞬間。

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この瞬間に立ち会えるのがトーナメント決勝。

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最後まで投げ切った2年生の鈴木を囲む。

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メンバーのほとんどが来年もあるからすごい。3連覇を待っている。

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早稲田も見事な戦いっぷり。2年連続で東都vs.六大学。東京が意地を見せた。東京がしっかり立っている。大学野球は、それがいちばん大事。

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優勝したとは思えない疲れ切った表情。強さには相手を押し出す力と、土俵際で耐えて耐えて耐え切る強さがある。試合の流れを保持していたのは早稲田。一筋の光明にすべてを放ち、勝ち切る。下位打線の活躍が勝負を分けた。プロやメジャーのような派手さはないが、人生で大切なものは学生野球が教えてくれる。

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MVPは佐々木泰。来年は誰が主将を務めるのか。戦い抜いた表情。男の仕事を完遂した顔。

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閉会式後、ベンチ前で胴上げ。爽やかに、泥臭く、派手に。

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まったく浮遊力のない胴上げ。この土手っ腹が連覇の秘訣。陸上部の原晋監督と同じく、大学スポーツに新しい風を吹かせてほしい。大学生たちに負けない笑顔。グラウンドにいる限り、男は何歳になっても野球少年である。