プロ野球の春季キャンプが始まると代表監督の動きも活発になる。3月と11月に侍ジャパンの試合が2年連続であるのは球史で初。晩秋の大一番に向けて春と秋がキャッチボールする。
現在の侍ジャパンはWBCや五輪の幕間の扱いを受けているが、むしろ去年がプレミア12のためにある。祭りは本番より準備が楽しかったりする。サビよりイントロが良い歌もある。リハーサルは無限の可能性に満ちている。
去年の球春は熱かった。野球史上最高の1年の幕開け。WBCロケットスタート。神話を築いた栗山英樹監督のあと、多くのOBが代表監督の打診を断った。誰も火中の栗を拾おうとしなかった。あれ以上の野球はあり得ない。どんな成功も栗山監督と比較される。賢明な判断。しかし、トップチームの監督どころかU-15(15歳以下)代表監督の二刀流に挙手した野球バカがいた。
井端弘和
2013年のWBCで選手として伝説を築き、コーチとして2019年のプレミア12で優勝。満を持して代表監督に就任したMr.侍ジャパン。その初陣となるアジアプロ野球チャンピオンシップで栗山監督を超える可能性を示した。任期は2024年11月のプレミア12まで。継続の可能性はあるが、9回裏が迫っている中で井端監督は野球の何を変えようとしているのか?何を超えるようとしているのか?
井端監督からは野球の常識を壊してやろうとか、野球史に新たな軌跡をつくるファーストペンギンになるとか、そんな野心や野望を感じない。ただ純粋に野球の頂上へ向かっていく。イチローのような「求道」や大谷翔平のような「球童」でもない。栗山監督のような「大志」でもない。アスリートの匂いすらない。だが、情熱は誰よりもある。ただ一心に至高の野球を実現する。井端弘和は限りなく透明な白球を追いかけている。
欧州の風は熱く
劇的な優勝で初陣を飾った井端監督の第2戦は欧州代表との強化試合。3月6日と7日、舞台は京セラドーム(大阪ドーム)。アジアCSの翌日2023年11月20日、鉄は熱いうちに打てと言わんばかりに開催が発表された。
侍ジャパンが欧州代表と戦うのは2015年3月10日、11日に東京ドームで行われた「GLOBAL BASEBALL MATCH 2015」以来9年ぶり。当時の監督は小久保裕紀。欧州代表は元メジャーリーガーや元NPBなどWBCに出場したオランダやイタリアの選手を中心に構成された。日本は坂本勇人、山田哲人、藤浪晋太郎など2年前のWBCに選ばれたメンバー中心で挑み1勝1敗。
日本と野球が似ているアジア勢と違い、欧州は身体の大きさや打撃、投球フォームがまるで違う。日本人から見ればクセがあり、初モノと一発勝負が求められる国際大会の佳き経験となる。欧州との強化試合を経た9年前のプレミア12は準決勝で韓国に敗れたが、井端ジャパンは何を見せてくれるか。
2月14日 代表メンバー
東京の最高気温が18.5度を記録した2月14日、春風とともに28人の侍が発表された。
【投手】
11 山下舜平大(オリックス)21歳,ドラ1
13 宮城大弥(オリックス)22歳,ドラ1
15 松山晋也(中日)23歳,育成ドラ1
16 種市篤暉(ロッテ)25歳,ドラ6
18 森下暢仁(広島)26歳,ドラ1
19 金丸夢斗(関大)21歳
20 栗林良吏(広島)27歳,ドラ1
21 隅田知一郎(西武)24歳,ドラ1
23 渡辺翔太(楽天)23歳,ドラ3
28 中村優斗(愛工大)21歳
59 根本悠楓(日本ハム)20歳,ドラ5
61 平良海馬(西武)24歳,ドラ4
【捕手】
22 古賀悠斗(西武)24歳,ドラ3
31 坂倉将吾(広島)25歳,ドラ4
50 山本祐大(DeNA)25歳,ドラ9
【内野手】
6 源田壮亮(西武)31歳,ドラ3
7 中野拓夢(阪神)27歳,ドラ6
10 宗山塁(明大)21歳
24 紅林弘太郎(オリ)22歳,ドラ2
25 石川昂弥(中日)22歳,ドラ1
51 小園海斗(広島)23歳,ドラ1
55 村上宗隆(ヤクルト)24歳,ドラ1
【外野手】
1 森下翔太(阪神)23歳,ドラ1
3 西川史礁(青学大)20歳
8 近藤健介(ソフトバンク)30歳,ドラ4
9 塩見泰隆(ヤクルト)30歳,ドラ4
60 田村俊介(広島)20歳,ドラ4
66 万波中正(日本ハム)23歳,ドラ4
日本の顔、総大将となる佐々木朗希はプレミア12のお楽しみ。
・WBCで控え野手やリリーフだった選手
・昨年のアジアCSで大活躍した選手
・今シーズン中にブレイクしそうな選手
・WBCの経験を伝える侍レギュラー
・将来の日本代表候補の大学生
これほど彩り豊かな侍ジャパンは過去にない。平均年齢23.8歳。アジアCSの24歳の年齢制限すらクリアしている。最年少は青山学院の西川史礁、日ハムの根本悠楓、広島の田村俊介で20歳。監督、コーチ陣も最年長は村田善則バッテリーコーチの49歳。50歳以上がいない。
大学生がトップチームに選出されるのは11年ぶり。2013年11月に台湾で行われた「BASEBALL CHALLENGE」の強化試合。監督は小久保裕紀。当時は九州共立大学の大瀬良大地、明治大学の岡大海、日立製作所の岡崎啓介など大学生・社会人の合同チームが組まれた。だが、その後が続かない。
WBCはその国のトップだけで行う大会だが、プレミア12に出場する国のランキングは12歳からトップチームまでの総合点で決まる。国が一丸となって挑む真の国別対抗戦がプレミア12。井端監督はその年にアマチュアと合同の野球をルネサンス。
この28人の中から投手、捕手、内野手、外野手、大学生の注目選手を紹介する。昨年のWBCとアジアCSに選ばれた選手はすでに紹介しているので除く。
投手 平良海馬
名前:たいら かいま
出身地:沖縄県石垣市
生年月日:1999年11月15日(24歳)
身長:173cm
体重:101 kg
投打:右投左打
プロ入り:2017年 ドラフト4位(西武)
投手は初モノが多く、特に気になるのは佐々木朗希に比肩する山下舜平大。去年3試合を見ているリリーフの松山晋也(中日)、仙台で観た楽天の渡辺翔太も気になる。だが第1戦で先発する平良海馬を外せない。ストレートは最速160キロ超え、強化試合では縦に小さく沈む新球「ジャイロスライダー」を試すと公言。"データマスター"の異名を持つほどラプソードやスマートウォッチを駆使する理系投手。顔と真逆なところが良い。3年前には藤川球児が保持していた日本記録を破る39試合連続無失点。そのまま中継ぎをやればいいものの先発に固辞して転向、背番号61も球団から変更を打診されたが却下。侍ジャパンでも同じ番号を背負う。超のつく頑固者。昨年のアジアCSも辞退。それで少し嫌いになった。だから今回で印象を変えてほしい。惚れ惚れする投球を見せてほしい。ぐうの音も出ないほど、息もできないくらいのピッチングを見せつけてほしい。
捕手 山本祐大
名前:やまもと ゆうだい
出身地:大阪府大阪市
生年月日:1998年9月11日(25歳)
身長:180cm
体重:87 kg
投打:右投右打
プロ入り:2017年 ドラフト9位(DeNA)
去年の9月24日に横浜スタジアムで観ているがまったく覚えていない。戸郷が完封シャットダウンで無双したので印象にもない(2打数無安打)。しかし面白いのが経歴。京都翔英高校を卒業後、決まっていた大学進学を翻意し、独立リーグの滋賀ユナイテッドベースボールクラブに入団。高校時代は外野手だったがキャッチャーに戻り、ドラフト9位という謎の順位で指名(育成3位のようなものか)。昨年、盗塁阻止率.455(71試合で規定未達)の鬼肩を披露し、東克樹と最優秀バッテリーを獲得。今の球界は打てる捕手を欲しており、同い年の天才・坂倉将吾、森友哉、大城卓三、そして後輩の松尾汐恩など捕手はショートと並ぶサバイバル・ポジション。盗塁阻止率においても歴代4位の記録( .412)を持つ侍ジャパンの同僚・ 古賀悠斗がいる。井端監督は全選手を起用すると明言しており、そこで何をアピールするか。
内野手 石川昂弥
名前:いしかわ たかや
出身地:愛知県半田市
生年月日:2001年6月22日(22歳)
身長:186cm
体重:100kg
投打:右投右打
プロ入り:2019年 ドラフト1位(中日)
内野手では紅林弘太郎も気になる。去年3試合も観ているが印象に残らなかった。アジアCSで楽しみにしていたが怪我で欠場。井端監督お気に入りの大型ショート(187センチ)。下手をすればパ・リーグMVPもあり得る逸材。もっと注目したいのが石川昂弥。U-18 W杯で4番を務め、3球団競合の鳴物入り。去年4試合観ているが、打撃練習が頭抜けている。ポテンシャルで言えば侍ジャパンの4番。しかしシーズン成績は121試合で打率.242、13本塁打、45打点。まだ蕾。まだまだ蕾。ポジションは一塁と三塁。岡本和真と村上宗隆がいる。だから面白い。絶望のポジション、最も可能性の低いポジションにこそ浪漫と我慢の花が咲く。石川昂弥が開花するところを見てみたい。
外野手 田村俊介
名前:たむら しゅんすけ
出身地:京都府舞鶴市
生年月日:2003年8月25日(20歳)
身長:178cm
体重:93kg
投打:左投左打
プロ入り:2021年 ドラフト4位(広島)
昨年、侍ジャパンとの練習試合で2安打を観ているが覚えていない。むしろホームランを打った1番の中村貴浩の印象が強い。しかし、井端監督は田村俊介を射抜いた。1軍で10試合しか経験のない侍ジャパン最年少。外野手では珍しい左投げなのでポジションは右翼。そこには怪物・万波中正がいる。
左の田村、右の万波。シンメトリーの2人には共通点がある。
ドラフト4位
今回の強化試合で大学生を除く侍ジャパン24人の分布図を見ると一目瞭然。
ドラフト1位:9人
4位:6人
3位:3人
6位:2人
2位:1人
5位:1人
9位:1人
育成1位:1人
アジアCSと同じくドラヨンがドライチの次に多い。台湾遠征のために巨人の選手はいないが、アジアCSのMVP・門脇誠もドラヨン。年末のプレミア12でもドラヨンの活躍は必至。1年を通して研究するテーマである。
大学生 宗山塁
名前:むねやま るい
出身地:広島県三次市
生年月日:2003年2月27日(21歳)
身長:175cm
体重:79kg
投打:右投左打
プレミア12直前に行われるドラフト会議で競合確実な遊撃手。門脇がいる巨人、小園がいる広島、紅林がいるオリックスを除く9球団の競合もある逸材。一度そのプレーを見れば誰もが魅了される。守備力はプロを含めても5本の指に入る華麗さ。そしてイケメン。坂本勇人を彷彿とさせる次世代のスーパースター候補。バッティングもよく、広角に鋭い打球が打てる。打率も高い。どこを切り取っても一級品。
強化試合には同じZETTの内野手グラブを使う源田壮亮という最高の見本、守備の頂上がいる。打撃では小園海斗という異常なまでの天才打者がいる。宗山塁が2試合で得るものは大きい。
2月27日 打撃練習見学
2月27日、ローソンチケットで3月7日の打撃練習の見学チケットが発売された。バックネット裏からの見学で50分1500円。今までファンが観られなかったイベントを有料で開放する。Win-Winの試み。野球もどんどん進化している。最も観たいのは青学の西川史礁。
名前:にしかわ みしょう
出身地:和歌山県日高川町
生年月日:2003年3月25日(20歳)
身長:182cm
体重:87kg
投打:右投右打
青山学院の法学部。平安高校の出身。3回生で大学日本代表の4番を務めた。「みしょう」という変わった名前の由来は本人も知らないという天然。親に聞くでしょ。神宮で見たときに快音は聞かれなかったが、6月からどれ程パワーアップしてるか。今の大学生はプロ顔負けのパワーを見せる。村上宗隆や万波中正というメジャーリーガー顔負けのスラッガーから学ぶものは多い。宗山塁と同じく、史上最高の英才教育が待っている。
欧州代表の注目選手
侍ジャパンと対戦する欧州代表のメンバーが決まった。イタリア、オランダ、スペイン、ドイツ、チェコ、スイスの6カ国の連合チーム。
ヨーロッパ野球は馴染みが薄く、学生野球は基本ができておらずフォームも守備もめちゃくちゃ。昨年の18歳以下のW杯の日本戦は6回コールド負けだった。ただし、身体能力は日本人を上回る。本気でメジャーリーグを目指す選手もおり、ヨーロッパ野球のレベルが上がれば野球は一気に変わる。現在、バスケのNBAは欧州プレーヤーが席巻。トッププレーヤー5人のうち3人がヨーロッパ人。野球も欧州勢が天下をとる可能性を秘めている。
9年前に行われた侍ジャパンvs.欧州代表でも、侍ジャパンはベストに近いメンバーで臨んだが1勝1敗。内容は2試合とも負けていた。3万人を超える観客の前でプレーする機会の少ない欧州にとって大きな晴れ舞台。大箱に慣れた日本の選手とは気合が違う。今回も全力プレーを見せてくれるだろう。
監督はイタリアのマルコ・マッツィエーリ(61歳)。第2回、3回WBC、第1回プレミア12で代表監督を務めた。
選手の注目は昨年のWBCで侍ジャパンと戦ったチェコ代表の4人。
マルティン・シュナイダー(投手)
背番号31。WBCで日本戦の登板はなかったが、オーストラリア戦で5回1失点の好投。チェコ代表のエース。3月4日で38歳になる。普段は消防士。7歳から野球を始め、メジャーリーガーを目指したが叶わず。世界のトップ・オブ・トップが集まるWBCを「僕にとってのメジャーリーグ」と気合全開で臨んだ。今回の侍ジャパンとの初対戦が愉しみな投手。
マルティン・チェルベンカ(捕手)
背番号55。31歳。キャッチャーマスクを被るのがもったいないイケメン捕手。WBCでは全試合に出場。日本戦は4番を務め、佐々木朗希から先制打を放ったキャッチャー(ショートゴロだったが中野拓夢がエラー)。米国のマイナーリーグでプレー経験があり、現在はセールスマン。今回の試合について「チェコはヨーロッパでもトップクラスのチームであり、世界の舞台でも戦える」と誇る。
マルティン・ムジーク(内野手)
背番号49。27歳。WBCの中国戦で9回に劇的な逆転スリーランを放った一塁手。WBC本戦出場をかけたスペインとの予選決勝でも逆転ホームランを打っており勝負強い。日本戦は6番ファーストで出場したが3打数ノーヒット。普段はグラウンドの整備をするグラウンドキーパーとして働く。
マレク・フルプ(外野手)
背番号37。25歳の中堅手。WBCのときは大学生で、現在はアメリカの独立リーグでプレー。佐々木朗希の163キロを弾き返して二塁打を放ち初回の先制点につなげた。この球速が長打になったのはMLBでも2019年7月以来ということで話題になった。高校卒業後にメジャーリーガーを夢見て渡米した野球少年。その想いを大阪ドームでも披露する。
欧州代表は3月4日にプロ野球2軍チーム『くふうハヤテ』と京セラドームで練習試合を行い、6日の本番に挑む。
3月6日(水)第九の詩
大阪は朝から小雨。昼前にあがり、試合前に京セラドーム前のイオンモールで弟に確定申告をやってもらう。自分ひとりなら丸一日かかるところ。
試合途中には牛串を差し入れてくれた。一本700円と高級。めちゃくちゃ旨かった。自分の好きなこと、夢に向かうことは簡単だが、他人のために動くことは難しく尊い。
野球はバッターとピッチャーが1対1でPK戦を行う球技。ただしバックには守備がいる。個人競技と団体競技がグラデーションになった不思議なスポーツ。全員が一斉に動く球技より混沌が強く、息を合わせるチームプレーが難しい。日本代表も欧州代表も集合したばかりでチームになっていない。しかも、国際試合はいつもと違う打順、ポジション、役割を求められるので本来の力も発揮しにくい。野球は1日にしてならず。特に今回は1国(日本)vs.欧州連合というカオス。勝ち負けへのモチベーションも湧かず、オールスターを楽しむ日米野球とも違う。
春先は怪我もしやすい。今年は厳しい寒春。秋と違って選手も応援団もあったまっていない。WBCと違い全力プレーは命取り。名勝負を期待する試合ではない。用意された興奮ではなく、自分で愉しみを見つけるイベント。
各地ではプロ野球のオープン戦も行われファンが分散。27,698人はよく入った、試合前の国家演奏、欧州代表はヨーロッパ・アンセム。ベートーヴェンの『歓喜の歌』だった。9人でやる野球にふさわしい幕開け。
球春の開幕投手は平良海馬。プレミア12にピークを持ってくるため調整登板。球速も制球もローギア。ただし、テンポが素晴らしい。捕手のサインに首を振らない、返球を受けたらすぐに投球モーションに入る。世界でいちばんピッチクロックが不要な投手だろう。
国際試合はセレモニーやCM、選手交代が多く試合が延びる。それもまた愉しからずやだが、移動の多い現場主義者にとって短いほうが助かる。プレミア12でも観たいと投手だった。
平良海馬から琉球の襷を受けたのがサウスポー宮城大弥。これまたテンポが速い。時短ピッチャー駅伝。この日は最速152キロ、最遅85キロのカーブ。驚異の67キロ緩急。打者と投手の対戦において、20キロ以上の差があればバッターは重心移動の速度が変わってしまい、タイミングが狂う。宮城はその3倍以上。
去年の夏にZOZOマリンで観たとき「上原浩治クラスの投手になる」とツイートしたが、自信が確信に変わった。今シーズンは投手タイトルを総ナメにする。山本由伸の穴を埋めるのはもちろん、プレミア12では佐々木朗希と左右エースを形成するだろう。気が早いが、決勝戦は佐々木朗希→宮城大弥→栗林良吏の優勝リレーが観たくなった。
現場に来ると侍ジャパンのホームユニホームのカッコよさが際立つ。泥だらけになる野球だからこそ、戦闘服の美しさは重要。サッカーやバスケは土がないので汚れない。野球は土で汚れるからこそ汗が輝く。
普段のチームより投球フォームが映える。これが侍ジャパン。
159キロを計測した山下舜平大。調整のため直球多めのピッチングだったが、ことごとくバットに当てられ、キレもコントロールもこれから。しかし、この球速は侍ジャパンの強さを物語る。去年のWBCでは佐々木朗希や今永昇太が自己最速を、大谷翔平が102マイル(164キロ)を記録した。周りが超一流投手ばかりの侍ジャパンでは、今までのリミッターが外れる。これが侍ジャパンの全進野球。
2日間、欧州代表でチェックしたいのはオランダの選手。欧州代表の6カ国で唯一プレミア12に出場する国。再び11月に侍ジャパンと対戦する可能性がある。
最も光ったのはチェコの捕手マルティン・チェルベンカ。強肩強打。国籍の違う投手をリードする難しさのなかで試合を引き締しめた。チェコでセールスマンをやっている31歳だが、NPBにスカウトしてもらいたいもの。
この日のMVPは青山学院の西川史礁。最年少20歳。ピンチランナーで登場したときの堂々たる走塁が活躍を予感させたが、その期待を上回るパフォーマンス。
6回の初打席で初球を振り抜き、左翼線を痛烈に抜けるタイムリー。大舞台、国際試合、途中出場、癖のある投手、初モノとの対戦。すべてがマイナス材料のなかでチームを勢いづけた。
速球に対応するため、すり足のトータップ打法が主流になった野球のなかで、豪快に足を上げるレッグキック。プロに入ってからも続けてほしい。
最後は守護神・栗林良吏が完封リレー。2安打され調子が上がらず。ここからプレミア12まで這い上がるドラマが待っている。
2戦目は大学生の金丸夢斗が先発。2イニングを投げる。アジアCSではオーストラリア代表の18歳ジャック・ブシェルが侍ジャパン相手に1失点に抑えた。大学生という免罪符は要らない。世界一のユニホームを背負っている限り、下手なピッチングはできない。プロの先輩投手の度肝を抜くパフォーマンスを期待している。
3月7日(木)PERFECT DAY
最終日。15時39分に到着。昨日より暖かい。少しずつ春らしくなっている。今夜の試合が終われば次に侍ジャパンが集まるのは半年以上先、プレミア12直前の宮崎合宿。国際試合を経験できるのも今日が最後。
最終日は数百人限定で16時から侍ジャパンの打撃練習の見学。50分で1500円。プロ野球でも実施してほしい取り組みだ。
打球音が違ったのが村上宗隆と万波中正。村上は昨年のWBCの中国戦で東京ドームの看板に何本も直撃させたが、この日は調整で軽めのスイング。たぶん柵越えはなかった。
他の選手も調整のためマン振りしない打者ばかり。調整時期なので仕方ないが、有料で見学に来た者として寂しい。そんな中で柵越えはなかったが、フルスイングを見せてくれたのが青学の西川史礁。
空振りであってもうれしい。三振でも魅了できる昭和の野球の匂いがする。プロに入っても失わないでほしい姿勢。
マンチューは柵越え連発。しかも全部が弾丸ライナー。見たことない驚愕のバッティング練習。 昨年、大谷翔平がやった片膝ホームランやブロークン・バット本塁打もできそうなパワー。スタメンを外れているのが惜しい。
右肩の骨折で無念の欠場となった宗山塁は簡単な守備練習のみ。スローイングができないのでキャッチングだけ。それでも源田壮亮や中野拓夢からアドバイスをもらう。早く怪我を治し、六大学野球の通算安打記録を抜いてほしい。
打撃練習が終わると一度退場して再入場。大阪ドームの中は送風で寒い。これでは選手のコンディションも上がらないだろう。タコ焼き700円とコカ・コーラ300円を買って球場メシ。
19時プレイボール。侍ジャパンがビジターユニホームで先攻。リードオフマンに抜擢されたのは青学の西川史礁。応援歌はWBCでヌートバーのために作られた曲。20歳の若武者がたっちゃんに負けない気迫を見せる。
打撃練習の勢いそのままフルスイング。強烈なピッチャー返しで先制パンチ。手元で動くボールにプロの打者が沈黙するなか、西川の安打が試合の流れを作った。
先発を務めたのが関西大学の金丸夢斗。背番号19。かつて上原浩治が背負った栄光のナンバー。三者凡退で鮮烈な侍デビュー。
トップチームのマウンドは、大学生にとってフィールド・オブ・ドリームス。肩に力が入り、コントロールが乱れるのが常。だが、金丸は制球力に驚かされる。こんな落ち着いたピッチャー初めてみた。
しかも絶滅危惧種のワインドアップ。セットポジションからのピッチャーが幅をきかせるなか、振りかぶってくれるのはうれしい。やはり投手にはダイナミックな躍動感が欲しい。
金丸のあとを継いだのが愛知工大の中村優斗。慣れないリリーフ。しかし堂々たる投球フォームから一抹の不安も感じない。何も知らない人が見たらプロの一流投手と間違えるだろう。
自己最速157キロ、直球7球すべて155キロ超え。金丸がコントロールで魅せるなら、中村は球威。プレミア12の強化試合のはずが、最強大学生たちの披露宴に変えてしまった。
残りは4人のプロ投手が抑えて完全試合を達成。特に圧巻は金丸と同じ4三振を奪った隅田知一郎。アジアCSで投手ベストナインに選ばれた実力を披露。"神隠し"チェンジアップと直球の緩急は初対戦で打つのは無理だろう。
サウスポーでは宮城大弥が頭ひとつ抜けていると思っていたが、タイトル争いがわからない。現在のピッチャーは球速に注目が集まるが、ピッチングの奥深さを教えてくれる。
試合には敗れたが、守備が光った欧州代表。9年前はホームランで日本を押したが、基礎のファンダメンタル野球が大きく進化していた。プレミア12にはオランダが出場する。台風の目となるかもしれない。
2日間のMVPは最年少の西川史礁。フルスイング、全力疾走、ダイビングキャッチ。すべてがプロ選手を上回る気迫とパフォーマンス。1試合も負けられない国際試合にいちばん必要なものを大学生が教えてくれた。プレミア12では誰がリードオフマンを担うか。
25,379人が見届けた継投による完全試合。プロ野球において未達であり侍ジャパン初。プロ野球の公式戦でも平成の31年間で槙原寛己、令和の5年間で佐々木朗希のみ、夏の全国高校野球では100年を超える歴史で一人も達成していない大記録。ノーヒット・ノーランも凄いが四死球は安打と同じ。ノーノーとパーフェクトでは天と地の差がある。完投ではなく継投だから、ではなく、むしろ6人の投手全員が好調というのは確率が低く、今回のように最初から出番が決まっている試合では尚さら難易度が高い。初対戦でピッチャー有利とはいえ欧州代表は速球に強く、西川のダイビングキャッチは本来なら二塁打だった。
実力もさることながら、左・右・右・右・左・右を配置した井端監督の采配も見事であり、プレミア12に向けて好結果につなげた強運も持っている。
井端監督の采配は7試合、球場で観ているが、なんで?と疑問に思うことが一度もない。「育成」と「結果」の二刀流に挑んでいるが、どんな決断にも野球愛が溢れている。メジャー組でもプロ野球選抜でもなく、大学生との混合チームで完全試合という偉業に井端監督が切り拓く前人未到の光が濃縮されている。次に侍ジャパンのユニホームと対峙するのは宮崎合宿。
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