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長嶋茂雄という物語の続き—「長嶋茂雄賞」設立案

長嶋茂雄という物語の続き—「長嶋茂雄賞」設立案

2025年6月3日。その報せは静かな朝を、野球界の芯を揺らした。

ミスタープロ野球・長嶋茂雄さんの死去。享年89(やきゅう)という数字が、長嶋さんが生粋の野球人であった宿命を物語る。

ここで長嶋茂雄さんの功績を伝えるのは難しい。現役時代を知らない自分にとっては「史上最も好きなプロ野球監督」であり、ジャイアンツファンになるきっかけを作ってくれた人である。

今、プロ野球界の一角で「長嶋茂雄賞」の創設が提案されている。その中身は白紙。そこで考えてみたい。

「長嶋茂雄賞」は、どんな賞がふさわしいか。

賞は、記録のためだけに贈られるものではない。誰かの心に、深く残り続ける“記憶”のためにも存在する。

※NPBは11月10日、2026年から「長嶋茂雄賞」を新設することを正式に発表。選考基準や選考委員会の人選等の詳細は未定。

プロ野球の「人物名を冠した賞」

現在の日本のプロ野球では、個人名を冠した賞は決して多くない。むしろ、驚くほど少ないと言っていい。主だったものとしては、「沢村賞」と「正力松太郎賞」の2つが挙げられる。

沢村栄治賞(沢村賞)

長嶋茂雄という物語の続き—「長嶋茂雄賞」設立案

完投型の先発投手を対象として贈られる特別賞。沢村賞選考委員会が、いくつかの厳格な基準を用いて審議を行う。

誤解が多いが、「その年に最も活躍したピッチャー」に贈られる賞ではない。受賞者がいない年もある。2024年も受賞者なしだった。

正力松太郎賞

正力松太郎賞

その年の日本のプロ野球の発展に大きく貢献した人物を対象として贈られる賞。通称「正力賞」。大日本東京野球倶楽部(読売ジャイアンツ)の創設者である読売新聞社社主・正力松太郎の名前を冠している。

対象はプロ野球の発展に大きく貢献した人物(監督・コーチ・選手・審判)で、日本シリーズで勝利したチームの監督が選ばれることが多い。

「正力松太郎賞選考委員会」によってシーズン終了後に審議され選出される。

メジャーリーグを追随する賞

長嶋茂雄さんが憧れたジョー・ディマジオ

長嶋茂雄さんが憧れたジョー・ディマジオ

MLBの打撃賞を模倣するケースを紹介する。ちなみに、長嶋茂雄さんが最も憧れた「ジョー・ディマジオ賞」は存在しない。ディマジオはヤンキースで56試合連続安打のMLB記録を保持し、これは今後、最も破るのが難しい打者記録と言われている。

MLBは、ジャッキー・ロビンソンの賞もないのが意外である。

ハンク・アーロン賞

ハンク・アーロン賞

その年の打撃で最も際立った活躍をした選手に贈られる賞。ア・リーグ、ナ・リーグからそれぞれ1人ずつ選出。2024年は大谷翔平が受賞している。

MLB通算本塁打755本、バリー・ボンズに抜かれるまで、33年間その記録を守り続けたハンク・アーロンの名を冠している。選考にはファン投票と委員会審査の両方が用いられ、1999年創設という新しい賞である。

ベーブ・ルース賞

ベーブ・ルース賞

プレーオフ(ポストシーズン)で、最も顕著な活躍をした選手に贈られるのがベーブ・ルース賞。ワールドシリーズMVPとは別で、ポストシーズン全体での活躍をもとに選出される。言うまでもなく、「野球の神様」であるベーブ・ルースの名を冠している。

勝者だけが選ばれるわけではない。敗れたチームの選手が選ばれることもある。打者、投手の区別もない。2人同時のケースもある。「野球の神様」の懐の深さを象徴する賞。

受賞者の選定は、全米野球記者協会ニューヨーク支部が決める。

日本プロ野球のオリジナル賞

ここから「長嶋茂雄賞」の提案に入る。

トリプル・スリー賞

山田哲人

「トリプル・スリー」を達成した選手に贈る賞を「長嶋茂雄賞」とする案はどうか。背番号「3」を背負った長嶋さんに相応しい数字だ。

トリプルスリーとは、野球の1シーズンで打者が打率3割・30本塁打・30盗塁の3つを達成すること。最初の達成は1950年の岩本義行(松竹)で、史上最多3回も達成している山田哲人(ヤクルト)や松井稼頭央(西武)、金本知憲(広島)などがいる。

実は長嶋さん自身、この記録を正式には達成していない。入団1年目、打率3割5厘、本塁打29本、盗塁37。9月に一塁ベースを踏み忘れる伝説の「幻の本塁打」があり、30本目が記録から消えた。その瞬間、記録を超えて記憶に刻まれる物語となった。

そういった伝説もあって、あえてトリプル・スリー達成者に贈る賞として「長嶋茂雄賞」があってもいい。選考不要、数字で明快に決まる。ただし、この賞は「山田哲人賞」が相応しいかもしれない。

最優秀守備選手賞

長嶋茂雄さんは、三塁というポジションの風景を変えた選手。打撃だけでなく、守備でもファンを魅了した。

現在、プロ野球には各ポジションで最も優れた守備選手に贈られる「ゴールデン・グラブ賞」がある。

セ・リーグ、パ・リーグから各ポジション9名ずつが選ばれるため、長嶋茂雄賞は、ポジションを超えて「その年に最高の守備を見せた選手」1名を選ぶのはどうか。受賞できるのは1シーズンで1人のみの栄冠。

「ゴールデン・グラブ賞」が野球記者による投票なので、長嶋茂雄賞は、現役の選手間の投票で選ぶのを提案したい。

日本シリーズMVP

長嶋茂雄という物語の続き—「長嶋茂雄賞」設立案

巨人といえばV9。9年連続で日本シリーズを制覇し続けた濃密な季節。その中心にはいつも、長嶋茂雄さんがいた。

日本シリーズMVP(最高殊勲選手)、長嶋さんはこの賞を、通算4度も手にしている。いまだに破られていない記録である。2度の受賞者は何人かいる。古田敦也、秋山幸二、今江敏晃など。だが、3度目の受賞者の名前はどこにもない。長嶋さんだけが、4度もその場所に立っている。

個人記録では、本塁打こそ王貞治の29本に次ぐ25本だが、打率.343、91安打、66打点は歴代トップの数字。特に91安打という数字は、次点の柴田勲(69安打)を大きく突き放している。現役最多の柳田悠岐でさえ、41安打。半分にも届かない。

打点でも、柳田の19に対して、長嶋さんは66。誰よりも多く、誰よりも深く、秋の頂上決戦の劇場で"記録"を作り、“記憶”を打った男。

日本シリーズMVP(最高殊勲選手)は「長嶋茂雄賞」にふさわしい。

長嶋茂雄ホームラン賞

長嶋茂雄ホームラン賞

「その年、最も劇的なホームラン」を打った選手に「長嶋茂雄ホームラン賞」を贈ってはどうか。1959年(昭34年)6月25日の天覧試合で長嶋さんが放ったサヨナラ本塁打をイメージしたもの。一打が持つ熱と高揚、記録では語りきれない伝説。数字を超え、物語になった一打に与える。

2001年、近鉄の北川博敏が打った優勝決定グランドスラム、2023年WBC準決勝で吉田正尚が打った同点スリーランなどが受賞にふさわしい。

ファンが選ぶMVP

長嶋茂雄という物語の続き—「長嶋茂雄賞」設立案

長嶋茂雄という存在を、野球ファンは「記録」だけではなく「情熱」でも覚えている。ファンに最も愛された野球人。

だからこそ、すべての垣根を越えたMVPをファンの手で選ぶ賞があってもいい。プロ・アマ問わず、監督でも選手でも、その年もっとも野球の輝きを体現した人に贈る賞。

たとえば2023年であれば、WBC優勝に貢献した、大谷翔平や栗山英樹監督。

1998年なら、甲子園の決勝戦でノーヒット・ノーランを達成し、全国大会の春夏連覇を達成した高校生の松坂大輔が選ばれてもいい。

様々な垣根を越えて、最も印象に残った野球人をファン投票で選び、「長嶋茂雄賞」を与えてはどうだろうか。

記録は破られる。記憶は語り継がれる。賞は未来のためにある。誰かが記憶の続きをつくっていける。そんな賞こそ、長嶋茂雄さんにふさわしい。

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