孤高のベースボール

野球場で逢おう

おすすめの野球本

70年代、アメリカで売れない本の2大巨頭が日本人の本、野球の本だった。野球は止まっている時間が長いスポーツ。考える時間が長く、頭のスポーツ。映像で分かるのは氷山の一角。最も頭を駆使するスポーツであり。活字ベースボールに触れることで、野球の真の楽しみに近づく。

WBC 球春のマイアミ

WBC 球春のマイアミ YAMATO、Amazon Kindle、2023年、390ページ

YAMATO、Amazon Kindle、2023年、390ページ

2023年WBCの7カ所をすべて巡った野球叙事詩。開幕戦を東京ドームで観戦し、大会終了後に全国や世界中のすべての球場を飛び回って記した渾身のデビュー作。過去のWBCの大会、第5回大会のすべての試合を見直した上で、WBCとは何か?野球とは何かに迫る。世の中にあるWBCの本で最も詳しい著書。プロスポーツは観客のものであり、選手や関係者にインタビューをしなくても真髄に迫れることを証明した野球本。

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スローカーブを、もう一球

山際淳司、角川書店、 1981年、285ページ。

山際淳司角川書店、 1981年、285ページ

山際淳司デビュー短編集。伝説の野球ノンフィクション『江夏の21球』を収録。初めて読んだのは中学生。それまで野球本は漫画かノウハウ本しか知らず、野球のロマン、ドラマ、奥深さに衝撃を受けた一冊。特に『八月のカクテル光線』『スローカーブを、もう一球』の2編。山際さんは言葉で夏の匂いを、高校球児という永遠を届ける。高校生を子ども扱いせず、美化せず、地平線の眼差しで捉える。いまだこの本を超える野球本には出逢っていない。

イチロー、聖地へ

石田雄太、文春文庫、2005年、367ページ

石田雄太、文春文庫、2005年、367ページ

まだ日本人野手の荒野だった2001年のMLB挑戦から2004年にシーズン262安打を放つ孤高の存在となるまで、イチローが何と戦い、何を目指したかを追った一冊。野球を観る眼、イチローを捉える眼差しを変えてくれた。

誰よりも言語化能力に長けたイチローだが、取材という真剣勝負を挑んだ石田雄太さんが心の声、潜在意識を代弁。イチローと向き合う覚悟、姿勢、イチローがどれほど信頼しているかが随所から見える。

イチローのファンでなくとも、これほど野球の奥深さを痛感する本はない。本人の自伝や口頭筆記ではなく、物書きとして1人の発行体を追いかける意義が詰まった野球本。

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マネー・ボール

マイケル・ルイス、RHブックス・プラス、464ページ

マイケル・ルイス、RHブックス・プラス、464ページ

野球ファンは『マネー・ボール』を読んでいるか否かに分かれる。そう断言できるほど野球観を変えられた一冊。マネー・ボール以前の野球界は現場の人間全員が元選手。自身の経験と勘で指揮や育成を行う。野球は世界で最も閉鎖的なスポーツだった。そこにマネー・ボール理論が登場し、野球に数学的観点を持ち込んだ。スポーツ未経験の数学者などを雇用することで、後のフライボール・レボリューションや2番最強打者、オープナーなどのベースボール革命を生み出した。最も好きな一節。「プロスポーツの基盤は大衆の興味。大衆が大事な情報にアクセスできないのは球場に鍵をかけているのと同じだ」。映画しか知らない人は原作を読んでほしい。

夏を赦す

長谷川昌一、廣済堂出版、2013年、352ページ

長谷川昌一、廣済堂出版、2013年、352ページ

平成元年、後輩の不祥事で最後の夏を奪われた岩本勉阪南大高校野球部を追いかけたノンフィクション。主人公は野球部員だが、主役は長谷川さん自身。物書きとは何かを突きつけ、突き動かしてくれる。野球のボールが白いのは、青空に映えるため、そして人生の空白を獲得するためだ。

稚心を去る

栗山英樹、ワニブックス、2019年、240ページ

栗山英樹ワニブックス、2019年、240ページ

栗山英樹の多数の著書で最高の一編。日ハムの監督時代に執筆され、歌手がツアー中にレコーディングするような臨場感がある。野球の監督は「我慢」と「浪漫」が必要だと教えてくれる。『WBC 球春のマイアミ』など野球について書くときは「4番」と「四番」を分けているのは、この著書の影響。

八月のトルネード

阿部珠樹,KKベストセラーズ,2009年,213ページ

『八月のトルネード』という素晴らしいタイトル。野球には数字と季節が似合う。本人に取材するのではなく外野席から観た自分の眼で野茂英雄を定義する。物書きのかくあるべき姿。書き下ろし『大打者を記録する』で清原和博を「言葉の力の野球選手」と定義した感性も凄い。