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ベースボール白書

野球観戦、野球考察。活字ベースボールを届けます。『WBC 球春のマイアミ』をリリースしました。

広島カープとマツダスタジアム〜仁義なきベースボール

マツダスタジアム

新幹線のぞみが新大阪駅に停まると車内は関西弁に変わった。景色がなくてもわかる。西に来た。パ・リーグの首位はソフトバンク。セ・リーグは阪神、2位が広島。オリックスは苦しんでいるが、プロ野球は西高東低。今日はマツダスタジアムで首位攻防戦がある。

なか卯の常連のおじいちゃんは帝国ホテル、ニューオオタニ、ヒルトン、京王プラザでフランス料理を作っていた。新幹線こだまの食堂車の応援に呼ばれることもあり、昔は東京−広島が12時間。ビッフェ担当で立ちっぱなし。最もキツかった仕事のひとつだった。今は4時間で広島に着く。

荷物は野球のチケットと新幹線で読む原田マハだけ。服は広島のUNIQLOで、ご飯屋さんは地元の人におすすめを聞く。物も情報も現地調達。荷物はスカスカ、思い出はパンパンに。

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セ・リーグは6球団すべてが本州にあり、東京、横浜、名古屋、大阪(本拠地は西宮)と都市へ足を運ぶ。シティ・ボーイの中に広島という例外がいる。例外の存在こそがセ・リーグを面白くする要因。ユニホームが赤を基調としているのもカープだけ。赤ヘル暴走族が中心を撃ち抜くから面白い。プロ野球は巨人vs.他球団の構図だが、同時に広島vs.権力でもある。仁義なき戦い広島死闘編。

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プロ野球の球場に共通するのは海や川が近いこと。屋外球場だから風の影響を受ける。MAZDAスタジアムの近くには、猿猴川(えんこうがわ)が流れる。猿猴とは猿に似たカッパのこと。広島に古くから伝わる生きもの。

野球場は川や海の近くに造られることが多い。東京ドームの神田川、横浜スタジアムとZOZOマリンの東京湾、ナゴヤドームの矢田川、大阪ドームの木津川、福岡ドームの博多湾。東京の江東区にあった伝説の洲崎球場(草創期のプロ野球球場)は満潮のときに東京湾の海水に浸かって試合ができなかったほど水と縁がある。

川は常に流れる。旅をする。野球は川や海を下って交流する。交流は「流れる」と書く。野球は流れ者の球技。旅のスポーツ。

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一宿の世話になるのは広島駅の目の前にあるゲストハウス。野球場まで徒歩10分。ゲストハウスに泊まるの初めてだったが、これから野球場を巡るときはホテルではなくゲストハウスにしたい。

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宮崎から来た熱狂的なカープファンの社長さんは5月なのに17試合目。オープン戦も北海道まで観に行っている。1軍の試合前にスカパーで2軍戦を観ていた。熱狂にも程がある。「今日、勝てば首位ですね」と声をかけると「追いかけるほうが愉しいから2位でいいんです」。巨人ファンからすれば考えられない。違う価値観に出逢えるのが旅の醍醐味。ニューヨーク在住アイルランド人でひとり旅女性(メッツのファン)も来た。明日、広島の試合を観るそうだ。

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広島市内はカープの市電が走る。建物も赤、赤、赤。血の雨を降らせて欲しいが、今の野球は大人しいエンターテイメント。

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マツダロードも赤いユニホームや阪神の白い縦縞ユニホームで紅白に染まる。だが殺伐とした雰囲気はない。昭和と違い、紅白歌合戦のようなもの。

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球場に向かう途中の名物・赤ローソンで下着を買う。球場で金を落とす人もいるが、不景気には勝てない。ここで缶ビールを買い込む人が多い。球場の隣のコストコでホットドッグは180円。球場内だと750円もする。

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球場のメインゲートからプロムナードを登る。地方の匂いが充満。球場の所有者は球団ではなく広島市。株式会社広島東洋カープが指定管理者で正式名称は『広島市民球場』のまま。みんなが呼んでいる「マツダスタジアム」は愛称。

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プロ野球の球場で「スタジアム」の名称が残っているのは3つ。ベイスターズの横浜スタジアム、ロッテの「ZOZOマリン」。そして広島の「MAZDA」

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トヨタ、ホンダ、スバルは社会人野球のチームがあるが、プロ野球の球場を持っているのはMAZDAのみ。なぜトヨタは名古屋ドームの命名権を獲得しなかったのか。しょっぱい。

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何より「グラウンドとの近さ」。左翼101m、右翼100m、中堅122m。どれも甲子園より広いのに圧倒的に近く感じる。フェンスの高さが2.5m。グリーンスタジアム神戸の2.4mの次に低く、楽天モバイルパークと同じ。見下ろすのではなく、水平の眼差し。ファンにとっては一緒に戦っている感覚になれる。「狭い」球場と錯覚するが、日本の球場の中では広い部類。得点も入りにくくホームランも少ない。投手有利のピッチャーズ・パーク。ホームランが多かった旧・広島市民球場とは何もかもが真逆。

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草野球の匂いのあった旧球場とは正反対の演出がスタジアム名物の「雲海」。試合前や試合中に何度も噴射して雲海をつくる。

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1周600mのコンコースも視界が開け、どこからでもグラウンドが観られる。広島という土地柄、外国人の観客が多い。野球に興味なくても観光ついでに見て帰る。他に見るものがないのだ。

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隣のコストコの駐車場や新幹線やJRの車両からも試合が観られる。12球団でナンバーワンの視認性。地元密着の匂いがプンプンする。カブレラがいたら場外ホームランで大事故ではないか。

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バックネット裏、内野2階席の25列目。最後尾で壁にもたれながらの観戦。2500円。内外野ともに天然芝は美しい。公認野球規則に球場向きは東北東が理想とされるが、これを守っているのはマツダスタジアムだけ。奥には中国山地が連なる。場内の雰囲気といい、台湾の球場に似ている。

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球場メシはカープうどん850円。1957年から続く広島のソウルフード。関西出汁と思いきや関東風か?

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コカ・コーラと最高のコンビ。菅原文太と松方弘樹。

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ネクストバッターズサークルから花道がある。アリゾナ州のチェイス・フィールドと同じ。屋外球場は月に向かって打つ打者のためにある。

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相手チームの応援席がファウルゾーンある。露骨な嫌がらせが素晴らしい。仁義なき戦い。野球はこうであってほしい。しかし、ある意味で相手チームも特等席。応援の声も下に吹き下ろすので迫力がある。

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タイガースとカープは首位攻防戦。西宮から近いからかトラッキーも来場。スライリーとファンを盛り上げる。

チーム防御率も同じ1位と2位。広島は失点数が異常に少ない。セ・リーグで唯一の2桁失点。他は100点以上とられている。広島の先発・森下暢仁(まさと)は防御率1.39。3月の侍ジャパンに選ばれただけあって好調を維持。四死球3は気になるが、7回113球を投げ、6安打、7奪三振、2失点で試合を作った。

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特色が分かれるのは打撃。阪神は四球を選ぶ数がリーグ1位。去年から同じ戦い方で首位にいる。近本や中野が塁に出て3番の森下が進塁打を打ち、4番大山で返す。今年は極端にホームランが少ないが、それでも点を取れる。近本は周東とセンターのポジションを争うだろう。侍ジャパンのレベルの高さは尋常ではない。

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広島はリーグで最もフォアボールを選ぶのが少ない。阪神の倍以上少ない。出塁率も良くない。本来なら森友哉と侍ジャパンの正捕手を争うべき坂倉将吾はファースト。もっと捕手としての経験を積んで欲しいところ。

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苦肉の策として4番にいる小園海斗は流石の打撃センス。3打数2安打の3出塁。本来のショートではなくサードのポジションにいるのが残念だがプレミア12まで駆け上がって欲しい。

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夜が更け、西の空に満月。阪神ファンの「あと一球」vs.広島ファンの「ワッショイ」。昭和の応援合戦で盛り上がった夜。今年はプロ野球7試合観てホームラン2本。スモール・ベースボールのルネサンス。進化なのか退化なのか。

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前半戦を見る限りでは最強ソフトバンクvs.11球団。交流戦やオールスター戦で流れが変わるか。春、夏、秋と三つの季節を駆け抜けるプロ野球。起・承・転を経て、結にプレミア12が待っている。