甲子園で優勝した慶應義塾高校の応援歌は『若き血』。野球というスポーツほど若さを感じさせてくれるものはない。夕暮れ時の東京は明るかった。16時。空は真昼のように青い。夜の帳が下りる気配はない。7月にも巨人-中日戦を観に来ているが、今日の目的は別。
まだガランとしたドームに入ると、その男がバッティング練習をしていた。
中村悠平。愛称はムーチョ。先週は神宮球場で高橋とのバッテリーを楽しみにしていたが、その日は休みだった。高津監督を恨んだが、結果的にこの日、東京ドームに来れてよかった。
今日の観戦のテーマはキャッチャー。だから球場メシは『大城卓三のでーじまーさん琉球三昧』1,800円。セレブ価格の晩ごはん。昼メシは抜いてきた。タコライス、沖縄塩焼きそば、ラフテー(豚角煮)いんげん添え、ゴーヤーチャンプルー、紅芋コロッケ、もずく天ぷら、ちんすこうなど。どれもgoodだけど、ちんすこうが一番美味かったりして。
GIANTSソーダ500円も買う。「東京ドームにうまいもんなし」と言われるなか、自信が確信に変わっておすすめできる。
大城、ムーチョのWBC対決を期待していたが、まさかの岸田。神宮に行ったときもムーチョの弁当を買ったら古賀がマスクをかぶった。ギャグとしか思えない。
東京ダービーということで、つば九郎先生も来場。盛り上げ力に欠けるジャビットと反対に球場をドッカンドッカン沸かせていた。
キャッチャーは「女房役」といわれるが、プロの捕手は10人以上の投手をリードする。ひとりの夫に献身する「女房役」はアマチュア野球の話で、プロの捕手は相撲部屋の「女将さん」
全員の個性、癖を見極め長所を引き出す。なのに功績が讃えられることは少ない孤独な仕事。
キャッチャーは野手の中でファウルゾーンにいて、ひとりだけ座っており、8人と違う方向を見ている。内野の観客に背を向け、ひとりだけマスクで顔を覆う。その姿は舞台演劇の黒子。マウンドの投手の孤高、キャッチャーの孤立。野球というスポーツは孤独の連鎖で成り立っている。
ノーコンピッチャーの球も難なくさばく中村悠平。さすがのキャッチング。キャッチャーの構えは相撲の立ち合いのようであり、豪速球をいとも簡単に受け止める姿は横綱の雰囲気。
甲斐キャノンもムーチョも大城卓三も強肩が凄いと思われているが、捕ってから投げるまでがメチャクチャ速い。ピッチャーの投球フォームより美しい。
捕手にバッティングは不要説もあるが、やはりチャンスで回ってきた場合、安打を打てないと試合は勝てない。下位打線といえど、バッティング成績がキャッチャーの生命線。
この日は4タコ。WBCの疲れもあるだろうが、今年は成績が上がらない。来年のプレミア12の正捕手は大城が有力か。
先発は赤星優志。4月25日にジャイアンツ球場でも投げた。ここまで0勝4敗。本調子なら球界でも随一の制球力を誇り、コーナーにズバズバ決める。打たせてとるグラウンドボール・ピッチャー。15勝はできる逸材。
しかし、この日は別人の投手に生まれ変わっていた。山田哲人や村上宗隆の強打者には150キロ連発で出力全開。下位打線には140キロ後半で打たせてとる。どんどん三振を奪っていく。
7回を投げ、116球、被安打3、8奪三振と素晴らしいピッチング。特にピンチの場面で村上宗隆を三振に斬った場面は未来を予感させた。
一方の村上は4タコの大沈黙。こんなにオーラがないのかと驚いた。夏バテなのか?痩せてみえる。WBC中国戦の打撃練習で看板にブチ当てていたスラッガーとは思えない。復調までの道は遠いか。次に来る10月2日の最終戦ではホームランをかっ飛ばして欲しい。
山田哲人も四球で出塁したが盗塁はなし。二塁打を放ったところで交代。
ここからはジャイアンツタイム。打った瞬間、エグい音を響かせた丸佳浩のホームラン。右翼手が一歩も動かないメジャーリーガーが放つ質。その丸から巨人の外野手の顔を継ぐ浅野翔吾も丸ポーズ。
岡本和真は最初の打席で目の覚めるフェンス直撃の二塁打を放つ。WBCの中国戦で大谷翔平が放ったような打球速度。
坂本勇人は快音こそなかったが、打撃フォームの美しさは両チームで一番。もはや剣豪の領域。
赤星と並ぶ今日の主役・門脇誠。すでに巨人の宝。この日はセカンドで出場。
ファウルフライにダイブするなど躍動感にあふれている。課題だったバッティングも2割5分まであげてきた。あとは慣れるだけ。
魅力は走塁。二塁を虎視眈々と狙う。前屈みの姿勢がワクワクを誘う。
盗塁を狙える選手が1人いるだけで、ゲームに緊張感が生まれ引き締まる。
この日のハイライト。坂本勇人の浅いライトフライでも果敢にタッチアップ。土埃を巻き上げ、進撃の狼煙をあげる。
坂本に代わって出場した中山礼都の麗しき三塁打。ホームランより観れる確率の低い、おみくじの中吉。
若き戦士が躍動している。今日レジェンズシートで解説している堀内恒夫監督と清武球団代表が取り組んだヤングジャイアンツの雰囲気に似てきた。
今日いちばんの大歓声、浅野翔吾。 東京ドームに鳴り響く『パイレーツ・オブ・カリビアン』は坂本勇人の『キセキ』と同じ巨人の代名詞になる。
楽勝ムードが一転、3点差に迫られると中川 皓太の登場。
本調子なら球界屈指のストレートのキレ。調子にムラがあるところが懸念。大勢との左右のコンビが誕生したら、どんな化学反応が生まれるか。
最後は浅野がキャッチして試合終了。巨人の未来を照らすようなフィナーレ。これほど観客から愛される素質を持っている若者は見たことがない。
10月2日の最終戦はどんなゲームになるのか。
ドームで会おう。
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— YAMATO (@yamatoclimber) 2023年11月9日
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