ベースボール白書

野球観戦、野球考察。活字ベースボールを届けます。『WBC 球春のマイアミ』をリリースしました。

侍ジャパンシリーズ2025〜終わりの向こうに、始まりがある、晩秋の侍たち

侍ジャパンシリーズ2025

グラウンドの芝は、すでに夏の緑を失っている。風は冷たく、ベンチの奥にはシーズンの疲れを残した選手たちの姿がある。それでも侍たちは、再びユニフォームを着る。

胸には「JAPAN」の文字。

シーズンが終わり、少しだけ静けさを取り戻した球場に、新しい声が響く。

11月に行われる「侍ジャパンシリーズ」は、ただの親善試合ではない。翌春の国際大会を見据えたチーム結成の“予行演習”であり、実戦を通じて“チーム”という輪郭を確かめるための、実戦的な適応テストの舞台でもある。

2022年の侍ジャパンには、翌年のWBCに出場する選手が数多くいた。

佐々木朗希、今永昇太、伊藤大海、大勢、宮城大弥、高橋奎二、源田壮亮、牧秀悟、村上宗隆。全30人中15人が翌年も代表入りという事実が、このシリーズが実戦を通じたチーム形成の出発点であったことを雄弁に物語る。

だが、この舞台の価値は、数字だけでは測れない。若手の抜擢も目立つ。

大勢、湯浅京己、牧秀悟。

それぞれが、短い登板、限られた打席の中で自分の存在を刻みつけた。選手たちは、未来の扉を叩くような気持ちでこのグラウンドに立っていた。

そして、11月という季節。

プロ野球選手にとっては、「燃え尽き症候群」になりがちな時期だ。半年以上に及ぶシーズンを戦い抜き、心身ともに限界。それでも、この舞台で再びスパイクを履く。この代表戦は、モチベーションを再点火する場でもある。来年への挑戦を意識し、また新しい闘志が芽生える。

選手たちにとって、このシリーズは締めくくりではなく、コンディション調整と“シーズンの延長線”にある戦い。

観客席にもまた、静かな熱がある。シーズンが終わり、“野球ロス”の時期に行われる侍ジャパンシリーズは、ファンにとっても大切な時間だ。

贔屓チームの垣根を越え、国の代表として戦う選手たちを見守る。それは、シーズンの延長線上にある夢の時間。野球という物語が、まだ終わっていないことを教えてくれる。

やがて春が来て、WBCの舞台で日本が歓喜の輪をつくったとき、人々の記憶のどこかに、この秋の夜の光が残る。あの日の静けさの中で、確かに何かが始まっていたのだ。

「侍ジャパンシリーズ」は、終わりではなく始まり。季節の境目に生まれる、日本野球の鼓動そのものなのである。

侍ジャパン出場選手

監督・コーチ陣

  • 監督:井端 弘和(89)
  • ヘッドコーチ:金子 誠(88)
  • バッテリーコーチ:村田 善則(74/巨人)
  • 投手コーチ:能見 篤史(84)
  • 投手コーチ:吉見 一起(81)
  • 内野守備・走塁コーチ:梵 英心(77/阪神)
  • 外野守備・走塁コーチ:亀井 善行(79/巨人)
  • 野手総合コーチ:松田 宣浩(71)

投手

  • 森浦 大輔(13/広島)
  • 隅田 知一郎(14/西武)
  • 大勢(15/巨人)
  • 種市 篤暉(16/ロッテ)→辞退
  • 伊藤 大海(17/日本ハム)→辞退
  • 髙橋 宏斗(19/中日)
  • 曽谷 龍平(20/オリックス)
  • 金丸 夢斗(21/中日)
  • 及川 雅貴(37/阪神)→辞退
  • 藤平 尚真(46/楽天)
  • 北山 亘基(57/日本ハム)
  • 平良 海馬(61/西武)
  • 西口 直人(62/楽天)
  • 松本 裕樹(66/ソフトバンク)
  • 松山 晋也(90/中日)

捕手

  • 若月 健矢(4/オリックス)
  • 岸田 行倫(10/巨人)
  • 坂本 誠志郎(12/阪神)
  • 中村 悠平(27/ヤクルト)

内野手

  • 牧 秀悟(2/DeNA)
  • 牧原 大成(5/ソフトバンク)→辞退
  • 村林 一輝(6/楽天)
  • 岡本 和真(25/巨人)
  • 小園 海斗(51/広島)
  • 野村 勇(99/ソフトバンク)
  • 佐々木 泰(5/広島)、追加招集
  • 石上泰輝(DeNA)、追加招集

外野手

  • 森下 翔太(1/阪神)
  • 西川 史礁(7/ロッテ)、追加招集
  • 五十幡 亮汰(50/日本ハム)
  • 岡林 勇希(60/中日)

日程

  • 2025年11月15日(土)日本 vs 韓国 18時30分試合開始
  • 2025年11月16日(日)日本 vs 韓国 19時00分試合開始

会場

東京ドーム

韓国代表・選手

▼ 投手

1 ムン・ドンジュ(ハンファ・イーグルス)

11   オ・ウォンソク(KT ウィズ)

15 ペ・チャンスン(サムスン・ライオンズ)

16 イ・ロウン(SSG ランダース)

18 ウォン・テイン(サムスン・ライオンズ)

19 チョ・ビョンヒョン(SSG ランダース)

29 ソン・ジュヨン(LG ツインズ)

37 イ・ミンソク(ロッテ・ジャイアンツ)

38 キム・ゴンウ(SSG ランダース)

43 チョン・ウジュ(ハンファ・イーグルス)

44 キム・ソヒョン(ハンファ・イーグルス)

47 クァク・ビン(斗山ベアーズ)

55 イ・ホソン(サムスン・ライオンズ)

56 チェ・ジュンヨン(ロッテ・ジャイアンツ)

60 パク・ヨンヒョン(KT ウィズ)

63 キム・テクヨン(斗山ベアーズ)

65 ソン・ヨンタク(起亜タイガース)

67 キム・ヨンウ(LG ツインズ)

▼ 捕手

13 チェ・ジェフン(ハンファ・イーグルス)

20 チョ・ヒョンウ(SSG ランダース)

27 パク・ドンウォン(LG ツインズ)

▼ 内野手

2 パク・ソンハン(SSG ランダース)

4 シン・ミンジェ(LG ツインズ)

7 キム・ジュウォン(NC ダイノス)

8  ノ・シファン(ハンファ・イーグルス)

10 ムン・ボギョン(LG ツインズ)

24 ソン・ソンムン(キウム・ヒーローズ)

25 ハン・ドンヒ(国軍体育部隊・サンム(尚武)野球団)

30 キム・ヨンウン(サムスン・ライオンズ)

▼ 外野手

17 パク・ヘミン(LG ツインズ)

23 アン・ヒョンミン(KT ウィズ)

39 キム・ソンユン(サムスン・ライオンズ)

51 ムン・ヒョンビン(ハンファ・イーグルス)

2023年のアジアCSや2024年のプレミア12で活躍した選手が多い韓国代表。詳しくは下記を参照。

侍たちの11月 ― 野球がまだ終わらない理由

東京ドームの芝は、すでに夏の緑を失っている。それでも、グラウンドの上では、ユニフォームの胸に「JAPAN」と縫い取られた選手たちが、再びスパイクの紐を結ぶ。

11月。プロ野球選手にとっては、息を整える季節だ。半年を超える戦いを終え、ようやく肩の荷を下ろすころ。だが、「侍ジャパンシリーズ」の招集がかかると、再びグラウンドに戻る。

「なぜ今、試合をやるのか」。

そんな声が、ネットのあちこちから聞こえてくる。

「休ませてやれ」「消化試合みたいな代表戦に意味はあるのか」

そのどれもが、一見もっともに聞こえる。けれど、それは“野球”の呼吸を知らない人の言葉だ。

このシリーズは、来年の春、WBCという舞台の予行演習である。NPBのルールではなく、MLBのルールで戦う。MLB球、ピッチクロック。拡大されたベース。ピッチコム。NPBではまだ完全に導入されていない制度が、このシリーズでは採用される。

つまり、この11月の試合は、未来の野球に慣れるための時間なのだ。

選手たちは、その違和感と向き合う。時間内で次の球を投げなければならないリズム。塁が広がり、走者との距離が変わる守備の間合い。ボールの縫い目、滑り具合、風の感触までもが、微妙に異なる。それらすべてに、選手の身体が反応する。
たとえ11月の試合であっても、その一球一球の中で、野球の進化を体に刻み込む。

疲れた身体をもう一度起こすのは、簡単ではない。だが、そこで再びスパイクを履くことができる者だけが、次の世界の野球に立ち会える。このシリーズの意義は、勝敗ではない。

「順応」と「覚悟」の稽古だ。

そして、観客にとってもまた、この試合は“野球がまだ続いている”という証だ。プロ野球が終わり、甲子園も終わり、スタンドから声援が消えかけるこの季節に、まだ誰かが白球を追っている。その姿を見ることが、ファンにとっての再点火になる。

侍ジャパンシリーズの光景には、特有の静けさがある。歓声よりも、靴音やミットの音が際立つ。ベンチの奥には、疲労と、もう一度だけ戦う意志が並んでいる。シーズンを終えた選手たちが、次の時代の野球へと歩を進める。その背中を、観客は見届けている。この試合は、終わりではない。

春への序章であり、野球の“進化のリハーサル”である。ルールが変わっても、野球の魂は変わらない。白球が浮かび、落ち、また浮かぶ。その繰り返しの中に、野球という物語の「つづき」が息づいている。

11月の夜、東京ドームに灯がともる。あの明かりは、過去の栄光を照らすものではない。これからの野球が進む方向を、静かに指し示す光なのだ。

2025年11月15日(土)11月の炎 — 韓国を11−4で下した夜に

侍ジャパンシリーズ2025〜終わりの向こうに、始まりがある、晩秋の侍たち

東京ドームの天井は、冬の入り口を告げるように白く光っていた。観客数は41,631人と発表されたが、映像で見る限り、スタンドには空席が目立った。シーズンを終えた選手たちが、再びユニフォームを着る。それだけで、この夜は特別な意味を持つ。

1週間の宮崎合宿で強くなった侍ジャパンの選手たちの顔には、疲労よりも「確認」の表情があった。ピッチクロック。拡大ベース。ピッチコム。そして、WBC公式球。ここで試すのは、技術よりも適応力。世界と戦うための準備運動。

試合は、韓国の一撃から始まった。四回、森浦が捕まる。アン・ヒョンミンのツーラン。続くソン・ソンムンの放物線は、打球音からして違った。

侍ジャパンシリーズ2025〜終わりの向こうに、始まりがある、晩秋の侍たち

その裏、日本が息を吹き返す。野村勇のヒット。牧秀悟のタイムリー。そして、将来の侍ジャパンの4番・西川史礁が放った同点のツーベース。この日は佐々木泰も火を吹き、青学の同期が見事な活躍。東京ドームを神宮球場に変えた。

侍ジャパンシリーズ2025〜終わりの向こうに、始まりがある、晩秋の侍たち

そして岸田行倫の一打。決定打となるスリーラン。それは韓国代表に突き刺さる一打であり、同時にWBCメンバー選出を手繰り寄せる放物線。あとはマスクをかぶって投手陣をリードする能力が問われる。

奈良が誇る侍ジャパン先発の曽谷龍平は、三回をパーフェクト。井端監督の中で、来春の名簿が少しずつ形を帯びていく。これで少なくとも追加招集メンバーの筆頭には名を連ねるだろう。

韓国は4回以降、誤審の判定でリズムを失った。けれど、それを言い訳にするほどの差ではなかった。日本の11−4というスコアは、単なる勝敗を超えた実力差を示していた。

WBC、アジアCS、プレミア12の戦いの再現。韓国は過去3大会の対戦ですべて先制パンチを浴びせているが、そこから侍ジャパンは必ず逆転する。スタートダッシュは切るが、踏ん張れない。後半にかけて崩れていく様は余計に印象が良くない。同じ負けるにしても、前半に離されても、後半に追い上げて敗れるほうが力を感じさせる。

韓国は、先発のクァク・ビンをはじめ投手力は上がっているものの、それを上回る進化力で日本のピッチャー陣は差をつけている。これで、日韓戦の連勝を「10」に伸ばした。このチーム力は年々、開いている。

韓国は、来年の本戦に自信を持って挑むためにも、明日こそ一矢報いたい。

2025年11月16日(日)両チームが見せた光と影

2015年のプレミア12準決勝での敗戦を最後に、韓国は日本に10連敗。もはや“相性”の域を超え、呪いである。それだけに、引き分けという結果が韓国にもたらした安堵は、小さくない。負の連鎖が、かすかに緩んだ。来年のWBC本戦へとつながる、小さな出口が見えた。

試合の後半まで、球場には昨日のデジャビュが漂っていた。これまで韓国は先制点を奪いながら、リリーフが崩れ、勝機をこぼしてきた。今日も投手陣は乱れ続け、12四死球に4度の押し出し。それらがなければ、韓国は10年ぶりの勝利を掴んでいた。裏返せば、日本は負けていた。

最後に意地を見せた韓国の野球は、どこか大リーグの匂いがする。粗削りで豪快。一方、日本は基本に忠実なスモールベースボールを積み重ね、静かに相手の隙を突いていく。ただし、この日は日本の投手陣も9四死球と、決して制球が整っていたわけではなかった。互いに傷を負い、痛みを分け合うようなスコアになった。

シーズンを終えたばかりの体には、疲労が沈殿している。束の間のオフに、選手たちはようやく深く息を吐く。来年、本戦を迎える前に休息を許されるのは、このわずかな時間だけだ。

韓国は折れず、日本は負けなかった。そんな試合だった。大きな変化は起きていないように見えて、底のほうで何かが動き出している気配がある。

来年、メジャーリーガーたちが帰ってくる。その下地は整った。大谷翔平、山本由伸、佐々木朗希、鈴木誠也、今永昇太、菊池雄星、松井裕樹。七人の侍が凱旋。史上最強の侍ジャパンが、静かに輪郭を現しはじめている。

WBCの球場すべてを回って取材した渾身のデビュー作

Amazon Kindle『WBC 球春のマイアミ

プレミア12を追いかけた書籍です

Amazon Kindle :『燃月