ベースボール白書

野球観戦、野球考察。活字ベースボールを届けます。『WBC 球春のマイアミ』をリリースしました。

東都大学野球2025、春風が、野球を記憶する

東都大学野球

東都大学野球連盟は、1931年に創設された大学野球のリーグ。発足時は、中央大学、日本大学、専修大学、國學院大學、東京農業大学が加盟する五大学野球連盟(新五大学野球連盟)という名称だった。初代の優勝は専修大学。

東都大学野球の歴史

東都大学野球

東京六大学野球と比較され、「人気の六大学、実力の東都」と評される。近年の青山学院の無双ぶりを見れば納得だが、全日本大学野球選手権大会の優勝回数に差はない。六大学野球連盟が27回、東都大学野球連盟も27回の優勝で肩を並べる。

東都大学野球

東都大学野球が正式に発足する前の1929年。日本大学、國學院大學、専修大学は、六大学リーグへの加盟を申請したが、試合をした結果、現時点では実力不足と判断され、加盟を見送られた。そんな不撓不屈の歴史が東都大学野球には流れている。

東都大学野球

六大学野球と違い、東都リーグは入れ替え制がある。1部から4部の順位に基づいて、下位リーグの優勝校と上位リーグの最下位校が入れ替え戦を行い、昇降格を決定する。それも「実力の東都」というイメージが強い理由である。

東都大学野球

近年は王者・青山学院が大学野球を席巻。昨年は東都リーグの春秋、全日本大学野球選手権明治神宮野球大会を制して4冠。圧倒的な強さを誇る。

第1試合:青山学院vs.中央

東都大学野球

2025年4月8日、桜が咲き誇る春の陽ざしは、午後のカフェオレのようだった。熱すぎず、冷たすぎず、どこか淡く、喉の奥をくすぐるような甘さを含んでいる。神宮球場は新宿区にある球場。アパートから徒歩1時間以内で来れる。

東都大学野球

東都大学野球の観戦チケットは1500円。どこか人懐っこい数字だ。受付のブースには、初々しさを形にしたような女性。お釣りを間違えたり、お札を数え直したり。そのたびに、すぐ横にいる先輩の女性が、肩越しに指導をする。春のやわらかい風景が、こんなところにも咲いていた。

東都大学野球

朝の神宮球場はまだ眠気を引きずっていた。空は晴れていて、春の陽射しが芝をやさしく撫でる。時計の針はまだ8時過ぎ。平日の朝ということもあり、バックネット裏の最前列には、ぽっかりと空いた席がいくつもあった。

東都大学野球

その光の中で、青山学院と中央大学の選手たちがキャッチボールを始める。グラブに収まるときの音が、神宮球場に柔らかく響く。

東都大学野球

青山学院のユニフォームは軽やかでポップ、中央大学のそれはクラシックな風格。並び立つと、新しい時代と昔ながらの時間が、肩を並べて写真に収まっているようだ。

東都大学野球

青山学院の先発は、4年生のヴァデルナ・フェルガス。ドイツとハンガリーの血をひく父に、香港出身の母。育ちは大阪。189センチの長身から繰り出される左のサイドスロー。昨年の全日本大学選手権決勝で栄冠を引き寄せた立役者。この日は、朝の気だるさをそのまま引きずったように、制球が定まらない。初回からピンチを迎えるが、中央がそのチャンスを活かせず、スコアボードは静かなまま。

東恩納 蒼

中央の先発は2年生の東恩納 蒼(ひがしおんな あおい)。夏の甲子園、台湾でのワールドカップでも好投を目の前で見せてくれ、大好きな選手。ドラフトで指名漏れした悔しさを大学で晴らし、スカウトの鼻を明かして欲しい。

高校・日本代表時の東恩納蒼

高校・日本代表時の東恩納蒼

2年ぶりに見る東恩納。球はいい。しかし、高校生のときのほうが良く見えた。

東都大学野球相手が王者・青学というのもあるが、大学生の迫力に萎縮しているように見える。ピッチング練習のときの球の勢いがない。

2年ぶりに見る東恩納。球はいい。しかし、高校生のときのほうが良く見えた。

初回、青学のファースト、小田康一郎(4年)に痛烈な一撃を浴び、2点を先制される。

東都大学野球

2回には先頭の初谷健心(4年/三塁手)にホームランを許し、1アウトを取ったところでマウンドを降りる。

東都大学野球

その後も青学の攻勢は止まらず、正捕手の渡部海の代わりにマスクを被るラストバッターの南川幸輝が三塁打。

東都大学野球

1番・藤原夏暉の犠牲フライで2回までに5点を奪う。

山口 謙作

中央大学は3人目の山口謙作が4イニングをヒット1本に抑える好投。王者相手に堂々たるピッチングで、味方の反撃を待つ。

東都大学野球

青学のヴァデルナ・フェルガスは、制球の乱れと向き合いながら、それでも堂々と7回を投げ抜いた。被安打はたった1本。経験の厚みが、目に見えない鎧のように守っている。

東都大学野球

8回。マウンドには背番号18、3年生の鈴木泰成。全日本大学野球選手権、明治神宮大会、いずれも胴上げ投手として名を刻んだ。
東都大学野球

187センチの長身から振り下ろされる直球は、他の投手のそれとは明らかに違う球威。
ヒット2本を許しはしたが、無失点で試合を締めた。その姿は、青学というチームの「意思」のようだった。

東都大学野球

5-0。昨日の敗戦が嘘のような、圧倒的な勝利。今年は六大学のレベルが高いという話をよく耳にする。それでも、やはり、大学野球の中心には、青学がいる。そんな気がしてならない。

東都大学野球

そして、もうひとつ。春のリーグ戦は、新体制になった応援団が本格的に始動する場。1年生を迎え、新しいリーダー陣での初陣。応援席もグラウンドと同じくらい、緊張感と熱気に包まれる。応援団にとって、春のリーグ戦は単なる“応援”の場ではない。

選手と一緒に戦う「表舞台」。大学の名前を背負って立つ「伝統の継承」。勝利のために魂を注ぐ「誇りの場所」。春の大学野球は、応援団にとって「新たな物語の始まり」であり、「去年の自分たちを超える」ための第一歩でもある。

第2試合:國學院vs.日大

東都大学野球2025

第2試合の前に球場メシ。カルビ丼1000円とコカ・コーラ。かなり甘めのタレが春に合う。

東都大学野球2025

國學院と日大の選手たちが姿を現す頃、空の青は少しだけ濃くなっていた。

東都大学野球2025

國學院のショートに2年生の緒方漣(れん)がいた。横浜高校でもショートを務め、日本代表ではワールドカップでMVP。文字どおり世界一のショートになった。國學院に進学しているとは思わなかった。

國學院

春の公式戦に名を連ねる2年生は、勝負の年。1年から出場していれば「もう中堅」、出ていなければ「そろそろ出ないとまずい」という空気が漂う。下級生とはいえ、チーム内では立場がはっきりしてくる頃。春のリーグ戦で活躍する若手は、「大学野球の未来」を一足早く背負わされる。逆に言えば、そこに立っている時点で、ただの“若い選手”ではない。春、そこは「下級生が伝説を作る」場所でもある。そして時に、「そのまま主役を奪っていく」こともある。

國學院

この日の緒方漣は4打数2安打。高校ナンバーワンだった軽快な守備も見せた。ただ、2本の犠打失敗は引っ掛かりを残した。まだ2年、どこまでの選手になるか。

國學院は投手も光った。先発の藤本士生は、被安打3、最小失点の好投。

2番手の飯田 真渚人は打者12人を被安打1に抑えた。

試合を決めたのは8回、代打・竹野 聖智のホームラン。プロ野球は投高打低が続くが、大学野球は神宮であれば柵越えを放つパワーがある。

ベンチは優勝を決めたかのような大騒ぎ。魚雷(トルピード)バットが導入されれば、さらにホームランが増えるかもしれない。

國學院は応援団も力強い。青学のライバルとなるか。

第3試合 亜細亜vs.東洋

第3試合 亜細亜vs.東洋

第3試合は亜細亜vs.東洋。午後の風が吹く頃、球場全体が一日の終わりを意識しはじめる。

第3試合 亜細亜vs.東洋

亜細亜と東洋の選手たちは、地を這うような足音を響かせながら、グラウンドに立った。

第3試合 亜細亜vs.東洋

大学野球の春は複雑だ。7月に全国大会の予選が始まる高校野球と違い、春の公式戦の結果が全日本選手権の出場を決める。高校野球や社会人野球と違い、春が主戦場。

第3試合 亜細亜vs.東洋

大学生にとって春のリーグ戦は、「始まりであり、勝負どころであり、終わりかもしれない」。そんな矛盾を抱えた時間。特に4年生にとっては、春が最後の全国舞台になることも珍しくない。

第3試合 亜細亜vs.東洋

明治神宮大会はあるが、出場できるのは全国で11校だけ。秋には就職活動や進路の関係でユニフォームを脱ぐ選手も多く、「春で終わる覚悟」を持って戦う選手もいる。

第3試合 亜細亜vs.東洋

まだ開幕して2戦目なのに、こんなにも熱くなれる。

第3試合 亜細亜vs.東洋

WBCに最も近いのは大学野球かもしれない。夕陽がスタンドの端を朱く染め、スコアボードがカウントダウンを始める16時半、球場を後にした。18時から用事を入れてしまった。

第3試合 亜細亜vs.東洋

一方的に負けていた亜細亜が8回に同点に追いつき、延長タイブレークで劇的な逆転サヨナラ満塁ホームラン。最後まで観ていれば今年のベストゲームだったかもしれない。野球の神様から天誅を喰らった。それもまた野球観戦。

第3試合 亜細亜vs.東洋

すべてを観られるわけじゃない。すべてを記憶に残せるわけでもない。逃した一球に、去ってしまった瞬間に、後悔を覚えることもある。それでも球場に足を運び、また別の「何か」を拾い集める。

いくつもの物語が去っていく。風のように過ぎていく。神宮球場は、そんな時間を受け止める。声も上げず、記録もせず、この空の色と、風の香りを、胸の奥にしまい込む。

全日本大学野球選手権2025

全日本大学野球選手権2024

全日本大学野球選手権

東京ドームの全日本大学野球選手権

秋の明治神宮大会

侍ジャパン大学代表vs.高校代表

100年目の六大学野球

早慶戦という野球の始祖

侍ジャパン日米大学野球

プレミア12を追いかけた電子書籍を発売しました

Amazon Kindle :『燃月